ダル・セーニョ
初見で合唱する。 ちょっとした緊張感と知らない道を行く好奇心に満ちて、楽譜の端から指揮棒を見る。 先輩が 『ちょっと待て。 こここまで着たら、また戻ってこっちに行くんや。 ダル・セーニョやぞ』
何十年ぶりかに聞いた言葉、優美さを含んでいて、その時、なんと言う曲を歌ったか、忘れるくらいに、言葉のふうわりとした肌触りが残った。
『ダル・セーニョ』 口に出して発音してみるといい。 うつくしいことばだ。
昨日オフィスに久しぶりに出たら、T氏が新しいオイルをTD124のステッププーリーに試していた。 いつものグリースと違い、茶色のどろりとしたオイルだ。 どろりとした分だろうか、ノイズはもとより回転音さえほとんど聞こえない。 何か、良い結果が出そうな予感がしてきた。
ところが、出てくる音は、振幅の少ない、熱く汗臭い、ニュアンスのない音しかでてこない。 力でグイグイ押してくる。 これはこれで良いのかも、とも思うが、三分間が過ぎるともう我慢もこれまで。 T氏にその旨告げて、もとのグリースに戻してもらう。 もうぜんぜん違う。 静かな音場、振幅の大きなダイナミクス、しなやかなニュアンス。 耳がずっと落ち着くし、音楽が数倍も再生されている。 弦の分厚くゆたかな響き、金管楽器が浮つかずに腰を据えて炸裂するさま、それにピアニストのタッチと響きの情感の移り変わりが濁りも無く見えてくる。 サン・サーンス ピアノ協奏曲3番、ジャンヌ・マリー・ダルレのレコードは華麗なオーケストラをバックに宝石の色の深みで鳴リ拡がる。 これで良かったと確認する。 元のグリースのはずなのに、新しくより確信に満ちたサン・サーンスが聴こえている。 ピアニストのダルレが 『ダル・セーニョ』 とつぶやいて新しい楽想を、フラゴナールのようにひょいと湧き上がらせた。
Dal segno 元に戻って、新しく始めるという音楽記号、楽譜に閉じ込めておくにはもったいない記号だ。
何十年ぶりかに聞いた言葉、優美さを含んでいて、その時、なんと言う曲を歌ったか、忘れるくらいに、言葉のふうわりとした肌触りが残った。
『ダル・セーニョ』 口に出して発音してみるといい。 うつくしいことばだ。
昨日オフィスに久しぶりに出たら、T氏が新しいオイルをTD124のステッププーリーに試していた。 いつものグリースと違い、茶色のどろりとしたオイルだ。 どろりとした分だろうか、ノイズはもとより回転音さえほとんど聞こえない。 何か、良い結果が出そうな予感がしてきた。
ところが、出てくる音は、振幅の少ない、熱く汗臭い、ニュアンスのない音しかでてこない。 力でグイグイ押してくる。 これはこれで良いのかも、とも思うが、三分間が過ぎるともう我慢もこれまで。 T氏にその旨告げて、もとのグリースに戻してもらう。 もうぜんぜん違う。 静かな音場、振幅の大きなダイナミクス、しなやかなニュアンス。 耳がずっと落ち着くし、音楽が数倍も再生されている。 弦の分厚くゆたかな響き、金管楽器が浮つかずに腰を据えて炸裂するさま、それにピアニストのタッチと響きの情感の移り変わりが濁りも無く見えてくる。 サン・サーンス ピアノ協奏曲3番、ジャンヌ・マリー・ダルレのレコードは華麗なオーケストラをバックに宝石の色の深みで鳴リ拡がる。 これで良かったと確認する。 元のグリースのはずなのに、新しくより確信に満ちたサン・サーンスが聴こえている。 ピアニストのダルレが 『ダル・セーニョ』 とつぶやいて新しい楽想を、フラゴナールのようにひょいと湧き上がらせた。
Dal segno 元に戻って、新しく始めるという音楽記号、楽譜に閉じ込めておくにはもったいない記号だ。