楽園に住む

ここは東のはずれにある。
刺激の多いところから来た人は、なにもないと言う。
朝起きるたびに、外に出て、半島を横切る。
裏側の港にある終着駅まで歩いて、電車で引き返す。
今は肩まであるトウモロコシと蝶らの中をくぐり、
小さな丘を登る。　
三方の海ともう一辺の川がぐるりにある。
緑が流れる窓の電車に揺られていると、
夏のさかりにさしかかっているのが見える。
一両だけの電車に揺られる。
僕だけのために走ってくれるのか。
無人販売でトウモロコシ、キュウリ、トマト、ナスを買う。
これらの野菜は箱詰めされてトラックにのせられることなく、
人の手から手で、食卓まで運ばれている。
オフィスに出たら、茹でたてのとうもろこしをいただいた。
ここはいただきものが多い。
この町の多くの家ではとうもろこしを贈られ、
秋には秋刀魚をバケツでいただき、冬にはキャベツも待っている。
運がよければメロンも。
気のきいた政治家がここにはいなかったおかげで、
海岸に妙なものも建てられておらず、
風景がささぐれていない。
優しい野良犬や、恋している鳥が、群れるトンボがかけずりまわっている。
家の近くの駅で降りたら、ひんやりした風、
海からのオゾン。
ときおり、家にある再生装置から、思いもよらぬ恍惚の音が
発生するのは、海からの贈り物のせいに違いない。
夏が来るたび、楽園に住んでいると繰り返し思う。
ここは何もない東のはずれ。
今日スウェーデンからとどいたEQ10をテストのために試聴した。
PACIFIC JAZZ盤が獲れたてのとうもろこしの味によくあった。
洒落っ気がある音をたっぷり出して。