2011年10月30日

ウィグモアホール

良質の70年代のレコードを聴いた。

TPLS13050/1 『アット ウィグモア・ホール』 バッハ フランス組曲より8曲/スカルラッティ ソナタ(6曲)/ハイドン ソナタ32番/モーツァルト メヌエットニ長調 ソナタK.576/ショパン 3つのエコセーズ 夜想曲「遺作」/スクリャービン 練習曲(3曲)/ラフマニノフ 前奏曲ト長調/プロコフィエフ 悪魔的暗示  ニーナ・ミルキナ(Pf)  録音1972年 ウィグモアホール ロンドン  水色と黒の半円VIRTUOSO-PYEステレオレーベル(オリジナル)  P;J.スナシャル E;R.プリケット  すごいピアニストを聴いてしまう。 ロシア生まれのイギリスのピアニスト、録音時は53歳。 どうすればこういう人魚のような音を出せるか。 惹きこまれた。
P1010380特にショパン、ミルシテイン編曲で知られた遺作のノクチュルヌ、この曲の深遠の淵にたじろぐ。 諦観、すべてを捨てて三途の川を渡るときでなくては、こんな音楽出てこないのでは。 年季の入った顔の肉の薄い芸妓がショパンを弾ききっている。 凄い世界。 
P1010386

あと、スカルラッティ(音量を抑えて聴いているうちにイマジネイションがこぼれだす)とハイドン(真珠のタッチ)、スクリャービンも良かった。 アット・ウィグモアホールとあるが、ライヴ録音ではない。 あのホールに行った人なら、黒く塗られた良質な腰板を憶えているだろう。 小さなホールのしっくりと締まったアンビアンスがそこここに出ている。 ピアノはベヒシュタイン、どこまでも良い趣味だ。  盤美品〜ほとんど美品  見開きジャケットほとんど美品  二枚組  EP

P1010384ミルキナの肖像のデッサンがジャケットに載せてある。 彼女を描いたウェールズの画家はオーガスタス・ジョン。 イアン・フレミングの妹でチェリストのアマリリス・フレミングの実父。 彼のウィルヘルミナ・スッギアやT.E.ローレンス大佐の肖像画は知られている。 この肖像画の目は異常な光を宿している。 同じ光をアニェル・ブンダーヴォート(仏DECCA)の肖像画に見る。
と、ここまで書いてもう一度フランス組曲を聴く。 聴かせようとする方の力が抜けていて、『お好きなら・・』という風情。 『お好きです』と吐いて玄関を上がり、彼女の蜘蛛の糸に絡まっていく。 知らない人が聴けば『なーんだ』ですんでしまうかもしれない。 でも、もともとフランス組曲を聴くひとは、充分に感じ取れるだけの素養を持ち合わせているはず。 かんじょの芸に入り込む人も、入り込まない人もいるだろう。 演奏家と聞き手が同じ土俵に立つ。 そうしないと、このレコードは『なーんだ』で済まされてしまう。 再生装置が適切なら、より容易に土俵に立てるというのが実感。 NIXA以来PYEのプロデューサーを続けていたジョン・スナシャルに拍手を贈る。

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