トーンコントロールのこと 6
利かないトーンコントロールもある
我が国のオーディオは本格的にはステレオ時代から始まります。 当時製造されたプリメインアンプやプリアンプに組み込まれたトーンコントロールは、いくら回してみても効果が出なかったのを、多くの方は経験されていたはずです。 それが証拠に当時のアンプのトーンコントロールつまみはほとんど動かした形跡がなく、決まってフラットポジションに固まっていました。 こうした事実がプリアンプにトーンコントロールなど不要だ、どうせ回さないのだから、となり、現在に至っている、というのが大方のところでしょう。 この時代の日本製アンプのトーンコントロールそのものの働きは、ハーモニクスを導き出したり、楽器の音に濃淡を与えたり、艶をのせてグロッシィにするといった役目を果たすことはなく、どちらかといえばマルチシステムのレベルコントロールに近いものでした。 だから、トーンコントロールを回すより、スコーカやトゥイータのレベルコントロールを回した方がずっと効果があったのです。
ヴィンテージ時代(50年代~60年代初めのヨーロッパ製アンプ)のトーンコントロールが質的なものに反応したのに対し、我が国のトーンコントロールは米製のそれと同様に量的に働くアッテネイタに近いものだったのでしょう。 量的に働く、ただ低域と高域を増やしたり減らしたりすることですが、質的にはたらくというのはたとえばトレブルを減らして低域に重心をすこしずらしたり、バスを減らしてよりピュアな低音を響かせることでかえってバスのダイナミクスが増えるといったことです。 そうすることでハーモニクスを整えることも可能になります。
我が国のアンプが量的にはたらくトーンコントロールである一方、ヴィンテージ時代の英国製アンプのトーンコントロールは質的にはたらくものばかりでした。
その差の原因のひとつにレコードそのものの違いが挙げられます。 英国のレコードの優秀さに対し、日本盤の音質はこれが同じ音源か、と思うくらいに酷く、世界中の国々のレコードの中でも最低ランクに位置する水準でした。 今聞いてもクラシックとジャズはオリジナル盤と本当に同じ音源なのかと勘繰りたくなるほど劣悪です。 わざわざ高価な装置を揃えても、レコードがこんな状態では、トーンコントロール以前の問題と、いわざるを得ないのです。 そのうえその高価な装置がリニア思想でがんじがらめにされていては、音楽ハーモニクスの出現など望むべくもありません。 そして今となっては箸にも棒にもひっかからないプレイヤとトーンアームの一連から出力された貧弱で無色な信号では、トーンコントロールなどあっても仕方なかったのかもしれません。 こうした状況下で一生懸命オーディオ道などと称して励んできた方々に限って、『この道何十年』などと胸を張っている始末です。 こんな状態では、耳を生理的に鍛えることはあっても、音楽成分を聴き分ける耳の感覚など養う暇はなかったのではないでしょうか。 ただ我が国のスピーカの一部は捨てたものではありません。 ローコストの小さな口径(8インチ程度)を取り付けた壁掛けスピーカがオフィスにあります。 これにちゃんとしたプレイヤとアンプリファイアを接続してやると、楽しい音が出るのです。 スピーカに罪はないとつくづく思い知らされます。 こういう音が再生できるのも、ひとえにレコードプレイヤの音楽演出力の成せるところであるのも忘れてはいけません。 トーンコントロールがいかに音楽的に優秀であっても、それは良質なプレイヤがあってはじめて真価が発揮されるのですから。 つづく
以上T氏
参照ページ
トーンコントロールのこと
トーンコントロールのこと 2
トーンコントロールのこと 3
トーンコントロールのこと 4
我が国のオーディオは本格的にはステレオ時代から始まります。 当時製造されたプリメインアンプやプリアンプに組み込まれたトーンコントロールは、いくら回してみても効果が出なかったのを、多くの方は経験されていたはずです。 それが証拠に当時のアンプのトーンコントロールつまみはほとんど動かした形跡がなく、決まってフラットポジションに固まっていました。 こうした事実がプリアンプにトーンコントロールなど不要だ、どうせ回さないのだから、となり、現在に至っている、というのが大方のところでしょう。 この時代の日本製アンプのトーンコントロールそのものの働きは、ハーモニクスを導き出したり、楽器の音に濃淡を与えたり、艶をのせてグロッシィにするといった役目を果たすことはなく、どちらかといえばマルチシステムのレベルコントロールに近いものでした。 だから、トーンコントロールを回すより、スコーカやトゥイータのレベルコントロールを回した方がずっと効果があったのです。
ヴィンテージ時代(50年代~60年代初めのヨーロッパ製アンプ)のトーンコントロールが質的なものに反応したのに対し、我が国のトーンコントロールは米製のそれと同様に量的に働くアッテネイタに近いものだったのでしょう。 量的に働く、ただ低域と高域を増やしたり減らしたりすることですが、質的にはたらくというのはたとえばトレブルを減らして低域に重心をすこしずらしたり、バスを減らしてよりピュアな低音を響かせることでかえってバスのダイナミクスが増えるといったことです。 そうすることでハーモニクスを整えることも可能になります。
我が国のアンプが量的にはたらくトーンコントロールである一方、ヴィンテージ時代の英国製アンプのトーンコントロールは質的にはたらくものばかりでした。
その差の原因のひとつにレコードそのものの違いが挙げられます。 英国のレコードの優秀さに対し、日本盤の音質はこれが同じ音源か、と思うくらいに酷く、世界中の国々のレコードの中でも最低ランクに位置する水準でした。 今聞いてもクラシックとジャズはオリジナル盤と本当に同じ音源なのかと勘繰りたくなるほど劣悪です。 わざわざ高価な装置を揃えても、レコードがこんな状態では、トーンコントロール以前の問題と、いわざるを得ないのです。 そのうえその高価な装置がリニア思想でがんじがらめにされていては、音楽ハーモニクスの出現など望むべくもありません。 そして今となっては箸にも棒にもひっかからないプレイヤとトーンアームの一連から出力された貧弱で無色な信号では、トーンコントロールなどあっても仕方なかったのかもしれません。 こうした状況下で一生懸命オーディオ道などと称して励んできた方々に限って、『この道何十年』などと胸を張っている始末です。 こんな状態では、耳を生理的に鍛えることはあっても、音楽成分を聴き分ける耳の感覚など養う暇はなかったのではないでしょうか。 ただ我が国のスピーカの一部は捨てたものではありません。 ローコストの小さな口径(8インチ程度)を取り付けた壁掛けスピーカがオフィスにあります。 これにちゃんとしたプレイヤとアンプリファイアを接続してやると、楽しい音が出るのです。 スピーカに罪はないとつくづく思い知らされます。 こういう音が再生できるのも、ひとえにレコードプレイヤの音楽演出力の成せるところであるのも忘れてはいけません。 トーンコントロールがいかに音楽的に優秀であっても、それは良質なプレイヤがあってはじめて真価が発揮されるのですから。 つづく
以上T氏
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