2015年01月11日

デコラにお辞儀する?

某誌に掲載された英デッカ社製ステレオデコラの記事。 『デコラにお辞儀する』 という題目でした。 何度読み返しても私には理解不能です。 デコラの賛美に終始しており、完全に気分で書かれています。 これではいけないと思うのです。 もっとデコラの本質について、きちんと述べないと読者に無用な英国コンプレックスを与えるだけで終わってしまうからです。 

一体ステレオデコラは何物か?

ステレオデコラを販売した英デッカは英国のレコード・オーディオメーカとしては、珍しく商売に長けた会社でした。 LPレコードをとっても、英EMIよりも数年早く制作販売に踏み切ってネームヴァリュを高めましたし、優れたポータブルプレイヤを多機種製造販売して好評を博し(中でもデッカリアンは佳機)、それらがLPレコード販売促進にも一役買って、英デッカ社は戦争の痛手が残る1940年代末頃から業績を飛躍的に伸ばしたのでした。 それから十年後,ステレオ時代が到来します。 流れに合わせて発売されたステレオデコラは英デッカ製ステレオレコードのブランドイメージの向上に貢献するだけでなく、英EMIとのステレオLP販売合戦でイニシアチヴを取るきっかけにもなりました。 結果SXL番号は歴史に残るステレオシリーズとして多くの名盤を世に送り出します。 


decola 1960 august


これは1960年8月に掲載された発売時のデモンストレーション広告です。 息をのむほどに魅力的な写真ではありませんか。 そういう会社ですから、英デッカ社内にステレオデコラ開発チームを組んだのは、どうしたらとびきり高額なラヂオ電蓄(RADIOGRAM)が商品として売れるか、を慎重に考慮した結果でした。 なぜならレコードから本当に最高の音を引き出そうとするならばラヂオ電蓄というかたちを取ることはまずあり得ません。 他社のユニットやパーツを重要な部位に採用する(プレイヤとスピーカ)のも、異例のことです。 他社のユニットを使ってもあれだけの音を出せるのだから、英デッカの技術力は大したものと感嘆する方もいるでしょう。 それは二重の過ちです。 
件の記事にもどります。 まず英デッカの技術をなめている。 彼らを自分に等しい存在としてとらえているのは思い上がりです。 だから感嘆してしまう。 よくやった、と上から目線です。 ここのところをよく考えてほしいのです。 彼らはプロです。 やって当然です。 素人に誉められて喜ぶプロなどは一人もいません。 自分と同等かあるいは上の人から認められれば良しとする、それがプロです。 したがって、この手の音くらいで、技術者を賛美するのは失礼極まりの無いお辞儀なのです。 自分の技量を標準に据えてはいけません。 二つ目はデコラ電蓄を賛美すること自体、真の英国ヴィンテージ再生機の奥深さを体験していないことの証しなのです。 ローカルな英国製機器の音楽再生は星の無い暗夜に似た奥の深いものです。 その深さを知る人にとっては、現在残っているステレオデコラの音は、良く出来たドルクスな電蓄のそれであり、お辞儀しなくちゃいけないほどのものではありません。 つづく
以上T氏


デコラを注文すると、一か月ほどして英デッカ社のヴァンが来て何とも言えない香りがするキャビネットが丁寧に布にくるまれた状態で運び込まれる。 数日後、英デッカの技術者がプレイヤ、アンプ、スピーカユニットを小ぎれいに梱包された箱から取り出して、キャビネットに据え付ける。 二週間後、再度訪問、最終点検と調整して完成、と発売当時に購入した英国の粋人から二十数年前に聞いたことがある。 くすぐられるサービスではないか。

posted at

2015年01月11日