2015年04月05日

ヴィンテージ時代の英国製ピックアップシステム

1948-1965 年に英国で創作されたピックアップシステムの数々、人知れずオーディオ史上に咲いた花です。 英連邦の国々で販売されたものがほとんどのため、インターナショナル性が乏しく、わが国で多く知られることはありませんでした。 これが音楽である、という確固たる信念をもって制作された製品からは、今となってもたぐいまれなる志の高さが見え隠れするのです。  現実にはあり得ないという音を平気で出してしまうのですから。 音楽のリアルさが他の時代のピックアップ群とは違います。 現実の音にリアルに迫るのではなくて、リアルそのものを純化しているのです。 さっき聴いた演奏会の音がそのまま出たとしても、それはすでに過去の音になります。 リフレインにすぎません。 音楽の本質は時と場所、そして聞き手の心理状態に依り、刻々変化していきます。 それをヴィンテージ時代の創始者たちは知り尽くしていました。 
では、音楽そのものは一体何処に存在するのでしょう。 私たちの心の中にあります。 心は常に移り変わります。 心が移り変われば、音楽も変化します。 であれば再生音もまた変化しなければなりません。 再生音楽であっては、二度と同じ音が出ることはないのです。 いや、出してはいけません。 聴くたびに新しく聞こえて初めて、音楽の真核は目覚めるのですから。 多くの英国製ピックアップシステムを試聴して強く感じることがあります。 当時のオーディオ人たちは、音楽がレコードに取り込まれるその時点で、音楽は一度死ぬるのを知っていたのではないかと。 再生とは同じ音を出すことではなくて、再び生み出すことであるのを知っていたのではないかと。 それを可能にするため、英国のオーディオ人は叡智を絞ってピックアップシステムの研究開発に専心していたに違いないのです。
これから紹介する製品の数々は、そうした彼らが苦闘した末の産物にほかなりません。
その前に断わっておきたいことが三つ。
英国製ピックアップシステムの多くは英国製アンプ・スピーカに接続しないと実力発揮するのは無図解しいということ。 
もう一つは真の音楽表現力を有する英国製フォノモータとの組み合わせが望ましいということです。
音が香るフォノモータでないと音楽が音楽として働いてはくれません。 業務用やPA装置では再生できない音楽・・・フレーズのつながりよう、リズムの頂点、表情のある低域、のびやかな響き、空気をたっぷり含んだ音のくすぐり、演奏家の気配、恍惚をもたらす音色の妙・・・。 こうした音楽再生にとって不可欠な生理的感覚を呼び覚ますフォノモータはコニサー・クラフツマン、コラロ製の品であります。 あまりに英国風が強すぎるのを嫌う向きにはトーレンスTD124も良いでしょう。 ガラード301はお勧めしません。 理由はまたの機会に書きます。 
3つ目は、これらのピックアップシステムでいわゆるハードなジャズ再生はあきらめた方が良いということです。 シンバルがどうの、とかベースの低音がどうの、という聴き方とは縁がありません。 つまるところこれから紹介するのは英国プレスのクラシック盤再生(一部はブリティッシュロックも可)に適するピックアップ群であります。 ジャズを本格的に聴きたいのであれば、米国製ピックアップシステムか、英国製でもインターナショナル性の濃い製品を使用すればよいでしょう。 また、当時の英国にはジャズ再生に適した、もっと下のクラスのピックアップシステムが結構あったので、ジャズ再生はそちらに任せておけばよいのです。 つづく
以上T氏

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2015年04月05日