2018年05月21日

草いきれの頃 フランスの音を聴く 最終回

フランス盤を聴くという前提で製作したからには、試聴もフランス盤のみで実施した。 RIMG0468クラブ・フランス・デュ・ディスク/デュクレテ・トムスン/ディスコフィル・フランセ/アデス/仏コロムビアなどを数日かけてSchulumberger のターンテーブルに乗せてひたすら聴いた。 まず気が付くのは低音の驚くほどの粘り腰である。 このユニットからこうした低音が出るのをついぞ聴いたことがなかった。 粘り腰の性格は英国製システムのものとは大きく異なる。 英国システムの低音は懐が深く、信号をしっかりと受け止めてから守っていく性格を有する。 今回の Supravoxシステムは攻める低音である。 待ってはいない、寄っていく。 曖昧さが無い分、スピード感が際立って爽快である。 低音部は素早い動きをする、英国流の低音処理術に慣れ親しんだ耳がそばだつほど新鮮な驚きだ。 RIMG0343中音域はキレキレである。 力感たっぷりの T215SRTFユニットは、そのままでは荒さを伴って耳にキツイ音をさすことが多いようだが(聴いたことがある方のほとんどがハイ上がりのキンキンな音じゃないの、とのたまう)、クレマン社製カートリッヂと組み合わせ、こうしたエンクロージャに取り付ければ荒さやキツさはキレに変換される。 高域は自然にフェイドアウトしてゆくが、周波数帯域的には英Wharfedale Super 8 のほうが伸びがあるように感じられた。 ただヴァイオリンから発生する倍音と音の引きの見事さは優っている。 まあ、こういう比較はそもそも無意味だ。  全体としては素晴らしく活気がある音と音楽が再生される。 ところどころデカダンスの匂いがするからたまらない。 音の響きを表面的と化すことを絶対にさせない。 今こうして聴いている音楽の色は『おフランス』の甘ったるいそれとは断じて違う。 大仰に言えばフランス人の内に流れる古代ガリアの血の成せるところではないか。

suprav

試聴テストを通じて気になったのは、最高音圧レヴェル時に不満が残る。 本来ならもっと大きな音量かつ歪の少ない音でなるべきところが、もうひとつなのだ。 原因は試聴に使用した英Beam Echo 社製 DL7-35アンプリファイアにある。 EL34PPで出力30Wは、このユニットには不適正だ。 10Wほどのアンプリファイアで駆動しなければ、ユニット本来の味が出しにくい。 30Wという余計な出力がユニットの動作にブレーキをかけて抑えつけてしまうからだ。 ヴォリュームを上げれば上げるほど音は圧縮されて伸びることはない。 この現象は他のユニットにも当てはまることであり注意を要する。 米国製マッキントッシュやマランツ製アンプリファイアはヨーロッパ製8-12インチクラスのユニットを鳴らすべきではない。 本来はEL84 PPの10Wアンプリファイアで鳴らすほうが自然で伸びやかに音楽が再生される。 ただタンノイ社製システムは例外でEL34のような高圧パワーで駆動しなければ鳴らない、何故ならニブイからだ。 米国製大出力アンプでヨーロッパのスピーカを力任せに駆動すると大きく歪が生じる。 それをわからないレコード愛好家が大勢いるのは残念なことだ。 こうしてフランスのレコードをSupravox で鳴らしていると、圧倒的なダイナミクスの洗練、弱音でも崩れない肌理の濃やかさ、高域が中空に撒かれるときの蒸気感、リズムの跳躍感、スピーカ周辺に起きる臨場感、などなど英米システムとは異質な音楽の出方に耳を奪われる。 わが国ではフランスの初版レコードは人気が高く、高値が続いていると聞く。 果たして本当にフランスのレコードをうまく再生している方がどれだけいらっしゃるのか、ちょっとアブナイ気がしている。 この項おわり
以上T氏

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