78回転を聴く
78回転レコードを蓄音機で聴く生活。とっくに無くなってしまった。日本舞踊を習っていた姉がお師匠さんの家で畳の上の手回し蓄音機が鳴らす「藤娘」で踊っていたのは遥か昔のこと。ほとんどの人はその存在さえ知らない。78回転を当たり前に聴く世代、LPを当たり前に聴く世代、CDを当たり前に聴く世代、配信を当たり前に聴く世代、生まれて初めて聞く再生装置で世代世代の音と音楽に求めるものは異なる。ヒトは初めて意識して聞いた音質が刷り込まれ、それを元により良い音を求めるようになる。より良いを求める音の物差しが分析なのか、感性なのかにより、その先の道は分かれる。
分析の物差しは、周波数特性・歪み・ノイズであり、感性のものさしは共感・入りこむ・体が揺れるなどなど。ステレオでは音の定位が分析的なら、音を肌の震えで感じるのが感性ともいえる。ソナタ形式・和声などが分析で、心理状態・健康状態、知らず聴いてこころ動かされるのが感性か。分析か感性か、どちらの足から踏み出して音楽を利くのか、個人個人の好みです。ひとそれぞれモノサシは違うのですから
先日、数台の蓄音機で音楽を聴く集まりがありました。それぞれの蓄音機は経験知識共優れた方が修理調整され優れた状態にあり、盤面に針を入れた途端、これまでの78回転再生の印象とかけ離れた音楽が会場に広がりました。みずみずしい、電気臭さが無い、人間が出す音でした。LP以降の再生音が忘れさせてしまった音楽がありました。アポロンからひっそりとした情念を秘めたシュメーが、クレデンザから奥行きたっぷりの贅沢でたくましいビョルリンクが、HMVからは音色や音のテクスチュアの肌触りまで表したキロガが現れます。登場した演奏家たち、楽譜を忠実に演奏しなければならないなんて、さらさらなく、五線譜の音符ひとつひとつからインスピレイションを花開かせていくのです。その開き方はそれぞれの蓄音機でまた違うのですから...。最後まで演奏されずに置かれたもう一台のクレデンザからエルマンが奏し始めます。控えめで、雄弁で、優美、品性ゆたかというか、それでも言葉が足りないくらい静かな情趣があります。藝大に寄贈されたクリストファ・野澤さん所有のクレデンザだと知らされました。人格が乗り移った装置が再生する音楽が三分間流れました。会の最後、「蓄音機の名機は100年ほど前の機械です。いかに銘機といっても、的確に修理調整されなければ音楽は流れません。どうか、将来につなげるために蓄音機を所蔵する方は保守を心がけてください。」と修復に当たった杉崎さんは締めくくられました。
クリストファ・野澤さんの膨大なコレクションが東京藝大付属図書館に寄贈されて10年ほどが経ち、2万枚にのぼる78回転盤の分類・記録・保存が完了し、昨年末に拝見・試聴する機会に恵まれました。その模様は藝大機関紙「藝(う)える」の記事に。この号には藝大教授陣の推しレコードの数々も掲載されています
東京藝術大学 広報誌『藝える』第16号
分析の物差しは、周波数特性・歪み・ノイズであり、感性のものさしは共感・入りこむ・体が揺れるなどなど。ステレオでは音の定位が分析的なら、音を肌の震えで感じるのが感性ともいえる。ソナタ形式・和声などが分析で、心理状態・健康状態、知らず聴いてこころ動かされるのが感性か。分析か感性か、どちらの足から踏み出して音楽を利くのか、個人個人の好みです。ひとそれぞれモノサシは違うのですから
先日、数台の蓄音機で音楽を聴く集まりがありました。それぞれの蓄音機は経験知識共優れた方が修理調整され優れた状態にあり、盤面に針を入れた途端、これまでの78回転再生の印象とかけ離れた音楽が会場に広がりました。みずみずしい、電気臭さが無い、人間が出す音でした。LP以降の再生音が忘れさせてしまった音楽がありました。アポロンからひっそりとした情念を秘めたシュメーが、クレデンザから奥行きたっぷりの贅沢でたくましいビョルリンクが、HMVからは音色や音のテクスチュアの肌触りまで表したキロガが現れます。登場した演奏家たち、楽譜を忠実に演奏しなければならないなんて、さらさらなく、五線譜の音符ひとつひとつからインスピレイションを花開かせていくのです。その開き方はそれぞれの蓄音機でまた違うのですから...。最後まで演奏されずに置かれたもう一台のクレデンザからエルマンが奏し始めます。控えめで、雄弁で、優美、品性ゆたかというか、それでも言葉が足りないくらい静かな情趣があります。藝大に寄贈されたクリストファ・野澤さん所有のクレデンザだと知らされました。人格が乗り移った装置が再生する音楽が三分間流れました。会の最後、「蓄音機の名機は100年ほど前の機械です。いかに銘機といっても、的確に修理調整されなければ音楽は流れません。どうか、将来につなげるために蓄音機を所蔵する方は保守を心がけてください。」と修復に当たった杉崎さんは締めくくられました。
クリストファ・野澤さんの膨大なコレクションが東京藝大付属図書館に寄贈されて10年ほどが経ち、2万枚にのぼる78回転盤の分類・記録・保存が完了し、昨年末に拝見・試聴する機会に恵まれました。その模様は藝大機関紙「藝(う)える」の記事に。この号には藝大教授陣の推しレコードの数々も掲載されています
東京藝術大学 広報誌『藝える』第16号