
「・・・、先月はアルミニウムのトッププラッターの製作に忙殺された。 とにかくややこしい仕事だ、トッププラッターってやつは。 知ってのとおり、もう一年以上もかかわずらっている。 昨日はウルス・フレイ(君も知っている郵便局のハンスの兄さんだ)が二種類のトップ・プラッターを持ってきた。 一つは特殊な表面保護加工したもの、もう一つはオリジナルとまったく同じナチュラルな表面のもの。 表面のこなしの違いで、音質がこうも違うとは。 君がいたら驚くに違いないよ。 オリジナルと同じ表面のものが断然良い音質だ。 自宅の装置でテストして、その時集ったスペシャリストが5人とも同じ意見だから間違いない。 とうとう、製造開始にOKを出すことに決めた。 初回製造分のアルミプラッターは3・4週間内に上がって来る予定。

このアルミプラッターは一見シンプルに見えるが、トーレンスTD124の部品の中で一番手に負えないシロモノだ。 12段階以上の工程が必要だ! とにかく、この部品に関しては我々に並ぶものは無い、とだけは言っておこう。 写真にあるトッププラッターを梱包する専用保護箱も見ておいて欲しい。 先日話したアイドラーホイールはほとんど完璧に近い状態までいったが、最後に決め手となるゴムの組立工程に特殊な冶具が必要だとわかった。 つまり、こういうことだ。 ゴムをほんの少し大きめに製造しておいて、それを正確なサイズに特殊冶具で切り落とすのだ。 このプロセスだけが、100パーセント完璧なアイドラーホイールにたどり着ける方法だ。 今、これに取り掛かっている。 4週間くらいで仕上がって来るはずだ。 これらの部品が遅れて申し訳ない。 でも、完璧を求めるにはこうするしかない。 現在、僕らの修理と製品には多くのクライアントが満足している。 君たちの日本でのレストアに対する高い評価は、スイスまで聞こえているぞ。 この高い水準をキープしていかなければならない。

今週、スイスのフランス語圏に二日滞在して、ブング氏のためにジャック・バッセとのインタヴューをコーディネイトした。 そう、新しいトーレンスの本に必要な記事だ。 ジャックが君たちによろしくと言っていた。 彼の写真を送る。」
スイスでも、いい大人たちがこんな風に、真剣に趣味の世界に夢中になっている。
ジャック・バッセは1957年にTD124を開発したエンジニアのひとり。 映画好きで、自宅に映写室を持ち、日曜日には近所の映画館(外観から客席まで1952年当時のままで営業中)で映写技師を務める愛すべき御仁だ。
写真をクリックすると拡大します