2007年05月15日

技術の勝利 新アッパープラッター

今朝、スイスからアルミ・プラッターの試作品が届いていた。 早速、ゴムシートを取り付けて聞いてみる。 驚く。 非磁性体プラッターを取り付けた時くらい、驚いた。 TD124にとって、アルミ・プラッターがこれだけ音質に大きな役割を占めていたとは。 オリジナルの状態の良いプラッターと比較試聴してみるが、こちらのほうが僕は断然好きだ。 明らかに音の仕上がりに磨きが掛かり、音質の向上がみられる。 音の密度が濃く、コシが強くなった。 この企画には、ジャック・バッセの助言が貴重だったと聞く。 新旧アッパープラッター確かに、オリジナルのアルミ・プラッターが薄手に感じられるくらいな鋳造硬質アルミ合金から再生される音はあくまでクリアでピュアなダイナミクスで音場を震わせる。 フル・オーケストラでは雄大な音場が再生される。 ダイナミクスが遥か遠くまで飛ぶ感じで、屈託のない広がり。 ソロ楽器は音色がきわだち、ピュアなダイナミクスに浸れる。 これだけの製品が出来上がったのは執念だ。 スイスのプロジェクト関係者に、Congratulations!!とメールで伝えた。 写真は左がオリジナル、右が鋳造硬質アルミプラッター 以下は直接携わったウルス・フレイによる製作記の抄訳である。 
『TD124 新アッパープラッター開発記』 
 2005年初め、非磁性体プラッターの初回分を納入した頃、ユルク・ショッパーはトップ・プラッターの企画製造に再び取り掛かりました。 歪み、折れ曲がり、痛みや紛失したトップ・プラッターの補給部品は多くのユーザーが必要としていました。
 しかし、オリジナル部品は数十年前に製造終了しており、工場の冶具や機械は使用不能となって久しいのです。 そこで私は技術的なプランを起こし、充実した設備を誇るスイスの工場に打診してみました。「不可能」「そのような工程は適応外」等々の返事を受け取るにつけ、もともと楽天的な私なのに、どんどん落ち込んで生きました。 さて、プレスで出来ないなら、鋳物で製造してみたら? 専門技術のエンジニアたちと多くの議論の末、やってみようか、と一件申し出がありました。 数ヶ月後、3つのサンプルが出来上がってきました。 アルミニウム‐シリコン‐銅の鋳造合金製。 試聴によるテストでは、新トッププラッターが再生する音響の素晴らしさに我々は驚きました。 再生音が異なるというにとどまらず、もっとずっと内的に緊密な結合力のある音楽性を再生したのです。 試聴テストに参加していた何人かのオーディオ狂は、すぐにこの新プラッターを買いたいと騒ぎ始めたほどです。 もう、彼らは古いトッププラッターに帰れません。 
 すべてはここでめでたく完成のはずでした。 もし、私が、より優れた製品を求めなければ。 「ピルグリム」なスタッフたちは手を携えて、さらなる挑戦を始めたのです。 以前、私を落ち込ませた機械エンジニアに再び会い、もう一度、アルミニウム合金でトッププラッターを製造する新しい工程を示し説得したのです。 それからは果てしない技術的テストが開始されました。 異なる温度、異なる表面仕上げで鋳物のトッププラッターを製造し、それまでで一番良好なプラッターと比較テストを繰り返すのです。 そうこうするうちに、一つの事実が明らかになってきました。 それはオリジナルプラッターはある種の微振動を吸収する性質があり、それが不必要で非音楽的な色づけを誘発する半面、かえってエモーショナルな表情を音楽にもたらすこともある、ということが。 さんざん試行錯誤の末、やっと原材料と製造工程が最終決定されたのです。
 さて、最後の難関はオリジナルのトーレンス・プラッターと同じ形にどうやって製造するか、ということでした。 それは滅茶苦茶困難だということがだんだんわかってきたのです。 我々の新硬質アルミ合金は、より柔らかく軽いアルミ100パーセントのオリジナルをよりも、はるかに難しい成型技術が求められます。 100個もの失敗作を経て、数多くの、夥しい経験を積み、オリジナルよりずっと硬い合金で、オリジナルのクローン製造に成功したのです。 そして、ついに試聴テストの日を迎えました。 ユルクの自宅の装置に、試作品は乗せられました。 どんな小さなニュアンスの違いも聞き逃すまいと、テストに参加した関係者は再生音に集中していました。 しかし、それは間違いでした。 クラシック、ジャズ、ブルーズ、比較試聴するどのレコードからも、硬質合金製のトッププラッターで聴くと、生き生きとした音楽にあるエモーションが存分に再生されています。 それは完全にストレス・フリーであり、何かが足りないと注意を集中して聴く必要はなかったのです。 鋳造プラッターは音楽にある滑らかさや隠されたエッセンスをその限界まで表現して、我々を魅了しました。 
 1950年代、オリジナルTD124トッププラッターは当時のハイテク製品であり、たしかにTD124のオーディオ伝説に貢献もしました。 しかし、時代は変わったのです。 トッププラッターの最終目標ともいえる製品を完成した今、老ジャック・バッセがTD124開発者としてその性能を喜んで祝福してくれ、ユルク・ショッパーは製品化にゴーサインを出しました。 製品はもうすぐオリジナルのトーレンスと同じ地、サント・クロワでテスト・箱詰めされて2007年5月末から出荷が始まります。    


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