2007年06月03日
ホームセンター建材GRF製作実録‐5
5月12以来中断しておりましたGRF製作実録シリーズを再開する。 5回目の今日は製作者T氏が、何故、いま製作する気になったか赤裸々に述べる。
「5月に、簡単にGRF型エンクロージャーの製作方法について御紹介しましたが、6月はこの箱で工夫したことを詳説してみます。 その前に、何故このようなきわめて手の込んだGRF型を作ったのか、少しお話をしてみたいと思います。 私がオーディオを始めた70年代はスピーカー・エンクロージャーの自作が、なかなか盛んな時代でありました。 私も御多分に漏れず、いろいろなスピーカーの箱を自作したものです。 当時名のあるオーディオ評論家たちの推奨する記事を素直に信じて。 その結果、どうであったか? 当時作成した箱は、今ではひとつも残っておりません。 すべてゴミと化しました。 オーディオ評論家たちはスピーカー・エンクロージャーについて一番大切な、肝心かなめの部分を、意図的に隠したか、あるいは知らなかったのか、とにかく、書いてはくれませんでした。 当時自作したスピーカー・エンクロージャーが良い結果を得られなかったのは、実にこの部分が欠落していたからです。 そのために、多大な時間の浪費とお金を失ったのです。 それらが、何故ゴミに堕したか、その問題点についてお話しましょう。
スピーカー・エンクロージャーは密閉型・バスレフ型・ホーン型の三つに大別されます。 密閉型には諸説ありますが、板材を鳴らさないというのが原則といわれます。 自作箱で使用されるのは大体ベニヤ合板ですが、これは最低の選択だと申せましょう。 ラワンベニヤ合板を長方形の密閉箱に使用すると、辺の部分では信号が少ないのですが、板材の中央ではいわゆる「タイコ鳴り」を起こします。 補強をしたとしても、今度はその他の部分が共振します。 板材を厚くしても解決にはなりません、むしろ堅さが重要なのです。 補強などしなくても鳴らないくらいのものが必要です。 したがって、自作に一番不向きなのが密閉型タイプであり、これに適した堅さの板材を確保できるオーディオメーカーに有利なのは言うまでもありません。
バスレフ型はあまりエンクロージャーの鳴きには神経質にならなくても良い、という説が、当時の大方の意見だったと記憶しています。 これはまったくの間違いです。 また、大切なのはバスレフポートのチューニングだ、と言われていました。 これにも騙されてはいけません。 バスレフポートはポートの共振点がプログラムソースの低音域と合致した時に効果が上るのですが、考えてみれば、プログラムソースには、さまざまな特性がありますし、いったいどの音と合うのか、まったくわけがわかりません。 ということは、いつもポイントがずれている、というのが常識的に考えて当然だと思われます。 また、音の波形がバスレフポートと合った場合、音楽が急にいきいきみずみずしく鳴るのを経験した方もいるはずです。 が、これもまたくわせものと言わざるを得ません。 バスレフ型のおいしい音はバスレフ臭さと、いつも隣り合わせだ、ということです。 私も、この安易なバスレフ型には苦労したものです。 さて、一番の問題はホーン型スピーカーです。 ここでは一世を風靡したCWホーン、バックロードホーンについて述べます。 ホーンについては当時でもフレアー部の広げ方についていろいろな意見がありました。 しかし、バックロードホーン型スピーカーは基本的にはPA用のはずです。 つまり、デカイ音を出すためのものです。 GRF型を作った今だか思い至るのですが、問題はフレアーの広げ方ではなく、別の部分にあります。
それは1)空気を圧縮する空気室が小さい 2)音道スロート部の欠落 3)音道の巾と広さが広がる方面だけに向いており、圧縮と拡張が不可能 この三つが、ホーン型タイプの欠点といえます。 まず、空気室が小さいと十分に圧縮された音を送り出すことが出来ません。 周波数補正イコライザーに相当するスロートが無いと拡張力が減少して、音に本当のコシが出ず、十分なエネルギーを音道に送り込めない。 そして音道そのものも直線的に広がっているだけで、どこにも曲がりや止まりがない、つまり音をコントロールせず、乱暴に言えば出しっぱなしにしているといえるでしょう。 これでは到底うまくいくはずがありません。 70年代、オーディオ評論家は無知のコンシューマーにとっての神であり、正直者のわたしは神々の書いた記事を素直に信じ、自作に励んでいました。 今、それを思い出すにつけ、ただ、ため息が出るのみです。 このため息こそが、今回GRFを作ろうとした理由であり、ちゃんとした音楽が聴けるものを作りたい、という自作の終着点を確かめたいという欲求なのです。」 次回はGRF型の設計について。
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