2007年08月27日
センタースピンドルとオイルの関係
以下はT氏のコメント。 昨年来、ずっと性能の向上を目指して、折に触れ手を入れているレコカット社(Rek−o−Kut)のレコードプレイヤーがあります。 先日センタースピンドルの軸受上部開口部に試しにグリスを塗ってみました。 S/N比の向上を狙ってのことでしたが、結果は惨憺たる有様でした。 音は飛ばず、眠ってしまい、低高域がカットされ、歪み感、スピーカーの音圧低下など、唖然としました。 原因がグリスにあることは明らかでした。 スピンドルケースを完全にクリーニングし直し、トーレンス用のオイルをたっぷり注入しました。 これで試聴してみましたら、以前よりさらに一段音の鮮度が増したのです。 それから先日ブログでもお話ししたように、アルミプラッターの内側を入念に磨き上げて見ました。 更に音質は向上したのを認めました。 最初の話に戻りますが 、グリスを塗って、何故このような不測の事態が発生したのか、じっくり書いてみることにします。 日々トーレンス124型のレストアをしていて、古典的アイドラー型プレイヤーのセンタースピンドルに注入するオイルの量と品質がとても重要なのは充分理解しているつもりでしたが、ここまで違いが出たのはショックでした。
まずセンタースピンドルの構造から見てみましょう。 トーレンス124型はセンタースピンドルはシンプルなストレート棒です。 オイル溜めは軸受けケース側にあります。 他の多くのプレイヤーたち、たとえば英コニサー、スイス・レンコ、米レコカット等はスピンドルにオイル溜りが削られています。 レコカットなどはオイルを強制的に上昇させるらせん状のミゾが切ってあります。 もう一つの違いは、軸受ケース内部の材質にあります。 レンコやトーレンス(中期以降)は合金が嵌め込まれ、センタースピンドルとの摩擦係数値の低減を図っています。 コニサーはご覧のとおりテフロン製の五角形!した軸受部です。 これはスピンドル側面に板バネが接触してブレーキを聞かせており、グリスを塗ると最上の効果が上がります。 レコカットはアルミ製軸受一体成型になっており、レンコ同様にオイルをたっぷり注入するタイプで、ドブ漬けにしてふきこぼれたオイルを拭くメンテナンスが推奨されます。 逆にトーレンスTD124(金属軸受型)は必要最低限のオイルだけ注入します。 初期型のプラスティックスピンドルでは別の方法になります。 注入するオイルの量による音質の違いは、HPに書きましたのでここでは触れませんが、レンコ/トーレンス/レコカットのセンタースピンドルはいずれも、その設計思想において気密性がセンタースピンドルシャフトの位置保持と音質に非常に重要な要素です。 それぞれの動作に見合ったオイルの選択が必要不可欠となります。 これは実際にレストアを経験してみれば、おのずとわかってくることです。 この気密性が崩れたとき、はなはだしく音質が劣化するのです。 最初にお話ししたレコカットがあのように無残な音質になった原因は、開口部に塗ったグリスがスピンドル軸受内側に流れ込んで内部のオイルと混ざった結果と思われます。 スピンドルが軸受から簡単に抜けてしまうほどにグリスがオイルに悪さをして気密性が低下したのです。 ただその分軽く長時間回転するようになります。 この現象は、音質面から言えば、何度も言うとおり危惧すべき状態の結果です。 ユーザーはそのことに気付かずに、ただプラッターが滑らかに軽く回転すれば良し、と思っているのではないか。 アイドラードライヴ形式のプレイヤーにおいては、気密性はあるが吸着力の弱いスピンドルに乗せられたプラッターはたとえ滑らかに長時間回転しても、それは「カラ回り」と申せましょう。 むしろ粘性を伴った抵抗感のある回転のほうが、正常な状態と言えるのです。 ではどうすれば、最良の状態にするか? まずきちんとしたレストアをするのが、必須条件となります。 次に各機種に最適なオイルの選択です。 それは粘度、素材等々によりことなりますし、現実にはいろいろやってみなければ、答えは出ません。 オイルを注入する量はヒアリングにより決定されます。 オイルは各機種のスピンドルの材質により化学反応を起こし、却って不具合が生じる場合もありますから、充分注意が必要です。 こうしたセンタースピンドル部に用いるオイルの選択は、シールドコードの選択と似ているかもしれません。 根気が必要ですが、最適なオイルを見出せば、かなりの音質のグレードアップが得られるはずです。 トーレンス124型において専用オイルを使用せず、多種多様なオイルを注入された場合、レコカットと同様の事態が発生する確立が高いと感じます。 124型に対する愛情のない修理屋にいじられた場合、ユーザーはこのことに関しては、ほとんど知ることは出来ず、124の正常な状態の音を聴くことが出来ず、それを124型の音とあきらめてしまうことを、一番危惧するのです。 実に、124型にとって、オイルは血液だと、知っていただきたいのです。 以上T氏の意見。
写真はセンタースピンドルの形状を撮影したもので、それぞれの国のインダストリアル・デザインのスタイル美がはからずも反映されていると思う。 上から米国、英国、スイス、フランスの順。
まずセンタースピンドルの構造から見てみましょう。 トーレンス124型はセンタースピンドルはシンプルなストレート棒です。 オイル溜めは軸受けケース側にあります。 他の多くのプレイヤーたち、たとえば英コニサー、スイス・レンコ、米レコカット等はスピンドルにオイル溜りが削られています。 レコカットなどはオイルを強制的に上昇させるらせん状のミゾが切ってあります。 もう一つの違いは、軸受ケース内部の材質にあります。 レンコやトーレンス(中期以降)は合金が嵌め込まれ、センタースピンドルとの摩擦係数値の低減を図っています。 コニサーはご覧のとおりテフロン製の五角形!した軸受部です。 これはスピンドル側面に板バネが接触してブレーキを聞かせており、グリスを塗ると最上の効果が上がります。 レコカットはアルミ製軸受一体成型になっており、レンコ同様にオイルをたっぷり注入するタイプで、ドブ漬けにしてふきこぼれたオイルを拭くメンテナンスが推奨されます。 逆にトーレンスTD124(金属軸受型)は必要最低限のオイルだけ注入します。 初期型のプラスティックスピンドルでは別の方法になります。 注入するオイルの量による音質の違いは、HPに書きましたのでここでは触れませんが、レンコ/トーレンス/レコカットのセンタースピンドルはいずれも、その設計思想において気密性がセンタースピンドルシャフトの位置保持と音質に非常に重要な要素です。 それぞれの動作に見合ったオイルの選択が必要不可欠となります。 これは実際にレストアを経験してみれば、おのずとわかってくることです。 この気密性が崩れたとき、はなはだしく音質が劣化するのです。 最初にお話ししたレコカットがあのように無残な音質になった原因は、開口部に塗ったグリスがスピンドル軸受内側に流れ込んで内部のオイルと混ざった結果と思われます。 スピンドルが軸受から簡単に抜けてしまうほどにグリスがオイルに悪さをして気密性が低下したのです。 ただその分軽く長時間回転するようになります。 この現象は、音質面から言えば、何度も言うとおり危惧すべき状態の結果です。 ユーザーはそのことに気付かずに、ただプラッターが滑らかに軽く回転すれば良し、と思っているのではないか。 アイドラードライヴ形式のプレイヤーにおいては、気密性はあるが吸着力の弱いスピンドルに乗せられたプラッターはたとえ滑らかに長時間回転しても、それは「カラ回り」と申せましょう。 むしろ粘性を伴った抵抗感のある回転のほうが、正常な状態と言えるのです。 ではどうすれば、最良の状態にするか? まずきちんとしたレストアをするのが、必須条件となります。 次に各機種に最適なオイルの選択です。 それは粘度、素材等々によりことなりますし、現実にはいろいろやってみなければ、答えは出ません。 オイルを注入する量はヒアリングにより決定されます。 オイルは各機種のスピンドルの材質により化学反応を起こし、却って不具合が生じる場合もありますから、充分注意が必要です。 こうしたセンタースピンドル部に用いるオイルの選択は、シールドコードの選択と似ているかもしれません。 根気が必要ですが、最適なオイルを見出せば、かなりの音質のグレードアップが得られるはずです。 トーレンス124型において専用オイルを使用せず、多種多様なオイルを注入された場合、レコカットと同様の事態が発生する確立が高いと感じます。 124型に対する愛情のない修理屋にいじられた場合、ユーザーはこのことに関しては、ほとんど知ることは出来ず、124の正常な状態の音を聴くことが出来ず、それを124型の音とあきらめてしまうことを、一番危惧するのです。 実に、124型にとって、オイルは血液だと、知っていただきたいのです。 以上T氏の意見。
写真はセンタースピンドルの形状を撮影したもので、それぞれの国のインダストリアル・デザインのスタイル美がはからずも反映されていると思う。 上から米国、英国、スイス、フランスの順。