2008年03月04日

マルツィが愛したプレイヤー

10日ほど前、スイスにいた。 僕はレコードのコレクターに会いにベルンへ行き、T氏はユルク・ショッパーと共にチューリヒで所用に出かけた。 たしかにチューリヒは綺麗な町であるが、僕はちょっと好きになれないところがある。 綺麗過ぎて胡散臭さがないのだ。 この湖のほとりには、エリーザベト・レッグ・シュヴァルツコップフやエヴァ・ペドラッツィといった星の数ほどの音楽家が棲んでいる。 ユルクとT氏は、スペイン料理の店で、ハモン・セラーノとタコのタパスに舌鼓を打ったそうだ。 ヴィンタートゥーアのオフィスに帰り、彼らはTD124のプロトタイプをはじめとするトーレンス社の歴史的銘機を前にして、稔りゆたかな時間を過ごした。 それはおいおい紹介するとして、今日は愛すべき古きトーレンスを紹介しよう。 
マルツィとThorens














これはマルツィがグララスの自宅でレコードをかけている写真だ。 自宅でくつろぐヴァイオリニストは、お気に入りのWINSTONをくゆらせ、なんのレコードに針をおろしたのだろう。 これを見てもわかるように、彼女は襟付きのシャツしか着ない。 どの写真を見ても、マルツィは必ず襟付きのシャツかワンピースだ。 そして目を閉じて演奏する。 どういう風に彼女がレコードを聴いていたか、想像の助けになる写真だ。 それと同じ型式のプレイヤーがショッパーのオフィスにあった。 内部のモーターを見て欲しい。 TD124と同じモーターを水平方向に取り付けて、カムシャフトでダイレクトドライヴする構造になっている。 これは78回転時代からトーレンス社の伝統的な駆動方式だった。 ミニチュア管が一本見える。 これで出力をコントロールして、ラヂオなどに接続して再生するのだ。 T氏とマルツィのプレイヤーマルツィと同型プレイヤー内部 







玩具屋にいる子供のような顔つきでT氏が銘機をためつすがめつしていた頃、僕はベルン鉄道駅でイタリア人と落ち合い、アウディクワトロを駆って、典型的なスイスの風景の中、一気に標高差800メートルの丘の上にいた。 周りは牧草地、一軒農家のシャレーだ。 居間を出れば、左からアイガー、メンヒ(僧)、ユングフラウ(若き乙女)といった名峰がくっきりと見える。 なんというロケーション!! 地下室、というよりシェルターに彼のコレクションと再生装置が据え付けてある。 EMT927、TD124、ガラード301 3台のプレイヤーに、自作のアンプ(彼の本業)、大きな後面開放バッフルに小さなアルテック・パンケーキ755aを左右に一個づつ。 空気感ゆたかに響かせている。 感心したのはASD251のビーチャムの『シェヘラザード』で、管楽器奏者たちがユーモアたっぷりにソロを吹いているのが、立ち上るように再生されている。 へえ、どこにでもある、なんでもないはずの、平凡なレコードが、こんなに面白い演奏だったのか、と感心した。 ここでルート・ビエルト・ブルンシュヴァイラーのプライヴェート版がまた出てきた。 彼によれば、彼女のレコードはベルンでしか見つからないのだそうだ。 ちょっと遅い昼飯は、彼のお気に入りのレストラン『アル・カポネ』で、お腹一杯楽しんだ。 


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