2008年05月04日

レコードプレイヤーのシンプルシティって

完成したTD124のヒアリングチェックで、不思議な感覚を覚えました。 私がオーディオをはじめた30年前には絶対に出せなかった音を、このTD124はらくらくと再生している。 どうして? むくむくと疑問がわきあがってきました。 アンプリファイアー、スピーカーは異なりますが、それほど現在使用している機器と性能が違うとは思えない。 相違点と言えば、レコードプレイヤーだけなのです。 さまざまなD.Dプレイヤーと付き合った挙句、オーディオに愛想をつかしたのは20年ほど昔のことでした。 T氏とバッセ氏














ふたたびオーディオと巡り合わせがあって、TD124のレストアをすることになり、レコードプレイヤーが再生する音楽表現力というものについて、もう一度考えざるをえない立場にいます。 DDモータープレイヤーは現在でも製品として販売されているようですが、それらについては聞く機会もないので、言及する事は出来ません。 しかし、開発当時から全盛時にかけてのDDについては、耳が記憶しています。 この時代のDD型は普及型から最高級まで、さまざまな製品があり、その再生音は一言で言ってしまえば、サウンドHiFiとも言えるものでした。 音の傾向は普及型も最高級機も、原則的に同一のカテゴリにあり、クオリティだけが異なると私には感じられました。 はっきり言ってしまえば、飽きるのです。 私自身、レコード音楽という分野から退散した原因の一つは、これだったのではと、今更ながら感じています。 DDプレイヤーに内包される退屈な音の傾向は、なにによってもたらされたのでしょう? DDはキャビネットにモーター部だけ取り付け、プラッターを載せれば、大体出来上がってしまうのです。 シャシーのあるDDもありますが、アイドラー型のようにシャシー下部に多くのトランスポート部品を組む構造ではありません。 DDは一見シンプルで優れているようにも見えますが、機械的には良くても、音質という観点から見れば、音のバランスやハーモニクスはコントロールする、とっかかりというものが無いのです。 多くのパーツがひとつのシャシーに組み込まれる集合体であるアイドラー型にとって、音質の調整は、たし算、ひき算、わり算、かけ算等すべて「あり」で、多様なアプローチで総合的なバランスを演出できます。 一方、DDプレイヤーとなると、ひき算しかできないので、音質面での技巧的な調整となると、はなはだ厄介です。 CDプレイヤー同様、「いぢりしろ」が無いのですから。 T氏とバッセ氏2














もうひとつは、独立したセンタースピンドルを持たないという事が上げられます。 このセンタースピンドルのもつ役割の重要性は、TD124からガラード等について前にも書きましたが、注入するオイル・グリースの種類、量によりその働きが変化し、音質上に違いをもたらします。 DDモーターのそれは、センタースピンドルというより、モーターの中心軸としてのセンターシャフトとしての性格が強く、それが音質において重大な弱点となっていると考えられます。 アイドラープレイヤーにおけるセンタースピンドルの役割、DDモーターにはそれに対応する部品がない、それが音色の微妙な揺らめき、安定した定位、そしてハーモニクス構成力の欠如といった不満がDDに現れる傾向を認めざるを得ません。 TD124やガラード301を見ると、センタースピンドルはシャシーの中央にあり、シャシー全体の強度と、振動パターンのコントロールの役目を果たす、いわば要石(かなめいし)としての役目を負っています。 DDモーターにはこの要石が無い。 音を意識してまとめあげるという作業が出来ない。 サウンドとしては良い効果を上げながら、今一歩音楽的領域において不満が残る要因のひとつでしょう。 DDプレイヤーが持つこうした性質は、音楽信号を取り扱うレコードプレイヤーとして、一つの情報通過セクションとしての役目は果たしますが、アンプリファイアーやスピーカーを力強くドライブするまでは至らず、与えられたものをそのまま流す機能しか持ち得ません。 DDプレイヤーのシンプルさと、ガラード301のもつシンプルさ、同じシンプルでありながら意味合いが異なるところが面白い。 ガラードの各回転部の精度の高さと素材の良さは、DDモーターのような機械的なシンプルさと違い、構造的なシンプルさを感じさせるものです。 301というプレイヤーはひとつの区分を動作させる為には複雑化を恐れません。 シンプルさを得る為にあえて複雑になった形の部品。 へそ曲がりといえば、へそ曲がりなのですが、これがイギリス流なのでしょう。 TD124はというと、シンプルシティは各パーツの形状に表れています。 ひとつひとつのパーツは割合簡単なデザインなのに、いったん組み上げられて、動作させると複雑な動きを形成します。 ガラードのシンプルシティとは異なる形式です。 シンプルな部品で複雑な動作をみせるTD124の技術的意趣は、低音域における音色と色彩感を表現することに力を発揮します。 中高域での音の色彩感は、他のプレイヤーでもそれぞれの画趣を見せますが、低音域での音の色彩感だけは、コンシュマーユースのレコードプレイヤーのなかでも、TD124が一頭抜きん出ていると確信します。 シンプルな形状のパーツを組み合わせて複雑な音のかたちを忠実に具現するTD124。 いまひとつTD124にシンプルシティを見るとすれば、それ自体のサイズにあります。 必要最低限にまとめあげられ、これ以上小さくする事は出来ないと言う、ぎりぎりのデザイン。 シンプルシティがもたらす禁欲を表現しているのは、トーレンス社の経験の深さであり、支えた技術者たちのなみなみならぬ努力の賜物だと思うのです。
以上T氏
写真はT氏とトーレンスTD124開発技術者ジャック・バッセ氏


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