2008年06月12日

TD124の本質とベルトドライブ型の問題点

さて今回は、アナログオーディオプレイヤーの主流であるベルトドライブ型について考えてみます。 その仕組みと働き方を考えると、TD124と言うプレイヤーの本質について、さらに理解を深めることになるのです。 ベルトドライブ型は、初期型から現代のモデルに至るプロセスは、センタースピンドルの摩擦抵抗低減の歴史に他なりません。 現代のモンスターマシンの中には、10Kgもあるヘビーなプラッターを搭載し、センタースピンドルの摩擦抵抗値が、限りなくゼロに近い重量級プレイヤーが当たり前の顔をして今日のオーディオ界に存在します。 マグネットやエアーでプラッターを浮かせる方法なども摩擦抵抗低減のための苦肉の策でしたが、なぜこのような事を行わねばならなかったか? モーターがプラッターに対して著しく非力だからです。 SN比向上の為にプラッターは重くなり、ベルトは細くなっていき、どんどん袋小路に入り込んでいったのです。 ベルトドライブ型の問題点である負荷変動に対するフィードバック機能は、ベルトが細くなって失われていきました。 もう少し説明してみましょう。 基本的にベルトドライブ機はプラッターに機械的なブレーキを効かせにくい構造になっているのです。 小型のモーターでやや重めのプラッターを駆動するには、センタースピンドルの抵抗値を下げる必要があります。 モーターを小型にすれば振動の影響は少なく、SN比の点で有利であったのですが、反面、一度回り始めるとプラッターの回転による慣性質量の増大により、トルクの弱い小さなモーターと細いベルトでは、回転を制御する力が大きく不足してしまうのです。 センタースピンドルにある程度の摩擦抵抗を持たせれば、今度は起動時のトルク不足に陥ります。 こうしたジレンマを避ける為、初期のものはベルト接触面積を増やす事により、モーターとプラッターの対比率を最適な状態となるようデザインがなされていました。 しかしこの方式もある一定のレベルまでの性能どまりであり、さらなる向上を図るには、新たな方法を必要とします。 プラッター重量を増し、慣性力でコントロールする方法です。 これはある程度の成功をおさめ、回転の安定という問題とSN比の大幅な向上をもたらしましたが、果たして『音楽』の再生力となると、SN比程の向上があったとはいえません。 この事は以前から感じていた事であり、それが決定的に判別出来たのはトーレンスのレストア研修中に、スイスの友人宅でTD124と重量プラッターベルトドライブの比較テストを行った時でした。 まずスピーカーから再生される音圧レベルがTD124の方が抜群に高いという歴然足る事実。 同じボリュームでも場合によっては倍程違う差がでます。 次にSN比の問題で言えばベルトドライブ型には、『不自然な静けさ』があります。 無音ミゾ音がまったくの無色透明であり、音楽の流れを止めてしまうのです。 およそ音楽的なものの再生において無音時の空間が色彩を持たないという事はありえない。 再生音自体はなめらかな音なのですが、無音時の空間再生において何らメッセージ性が無い為、音楽的な流れがぎくしゃくして、音の寸法が狂っている様に感じたのです。 この音の相違的については、やはりセンタースピンドルの摩擦抵抗値が大きく影響しています。 ベルトドライブ型が極力、抵抗値を減少させる構造に変化していったのに比べれば、TD124のそれは摩擦抵抗値のかたまりであり、あらゆる部分に負荷を掛けています。 回転系のすべてにかかっていると言ってもよいでしょう。 この抵抗値の音に対する影響について、そしてその重要性について、トーレンス社技術者達は早くから気づいていたに違いありません。 当時すでにベルトドライブ型は市場に出ており、トーレンス社の技術をもってすればTD124をベルトドライブとする事も可能でした。 極端に言えばモーター上のプーリーを改造し、プラッターにインナーを設ければ簡単にベルトドライブ化する事も出来たのです。 それを実行せずあえて複雑なベルトアイドラー型としたのは、これらのベルトドライブ型の行き着く先を、技術者の良心は知っていたのでしょう。 今日TD124が再び往年の状態を回復する事になり、現在のレコードプレイヤー達と比べても、遜色の無い、いやもっと生き生きとした音楽を再生出来るという事実は、当時の技術者達の先見性による所が大であり、信念というものを感じとる事が出来るのです。 以上T氏


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