2008年06月18日

ベルトドライブとアンプリファイア

TD124がベルトドライブ型に移行していった経緯については前項で述べたのですが、それはトーレンス社の経営事情によるものでした。 また、時代の要請という外部の力も見逃せません。 注目すべきは、レコード購買層の変化です。 TD124が発売された1957年頃から10年余を経て、レコード購買層は、金銭にゆとりのある限られた人々から、より大衆層に移ります。 高価だったTD124が、より安価なモデルにじりじりと圧されていく時代が到来します。 当時レコードの録音再生の分野では、トランジスター型アンプリファイアが、真空管式から主役の座を奪いつつありました。 小出力の真空管式アンプリアイアをプレイヤーが助けて、トルクでスピーカーを鳴らすというオーディオは、多くの調整と技術、そして再生装置の組み合わせの妙を必要としました。 TD124はその構図にピタリとハマっていたのです。 それが60年代後半になると、トランジスター・ハイパワーアンプリファの台頭により、スピーカーをアンプリファイア自らの力で押す動作が可能になります。 ワット競争でどんどん肥大化していったアンプリファイアは、スピーカーをレコードプレイヤーが後押しなんてしてくれなくても、適切な信号さえ与えてやれば事足りるという再生スタイルが確立します。 アンプリファイア側からみればそれで充分であったのです。 ベルトドライブプレイヤーは、当時流行ったコストパフォーマンスという言葉に支持されて、高SN比の獲得に邁進します。 アイドラー型には強力トルクモーターが、スピーカーを押すには必要不可欠でしたが、ベルトドライブ型ではプラッターが重く、モーターが小型が有利とされます。 これがエスカレートして行き着く先は起動時には手動でプラッターを廻さねばならないほど、プラッターとモーターの比率が著しくいびつなものとなっていきます。 こうして、音楽を生き生きと再現する大事な要素、回転トルクが失われます。 これを進化と呼びましょうか、退化としましょうか。 
以上T氏
中庭













フル・レストアにより初期性能を回復したTD124は、もはやヴィンテージではない。 これは現役プレイヤーである。 これはLPレコード全盛の時代に、オン・タイムでLPを熱く再生してきた機械であり、名演奏家たちのLPが生き生きと新譜を出していた時代を知っている。 対して、今日の怪物プレイヤーは、LPをCD以前の、つまり過去のものと前提にした音で再生している。 いま、私たちはTD124をヴィンテージにして逃げるのではなく、怪物マシンと同じ位置に立って比較されても良い時代が到来した、と思う。 



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