2009年08月13日
EQ10生産完了に寄せて 1
昨年より販売を開始しましたスウェーデン製フォノイコライザー EQ10 は大変好評でしたが、あと10台ほどで生産を終了することになったのはお知らせしたとおり。
以下T氏
これを皆様がお読みになる頃にはEQ10は、予定生産数量を終了しているか、もしくはすでに数台残しているという状況であると思います。
そこで今日は、EQ10とはいかなるフォノイコライザープリアンプであったかについて書いてみたいと思います。EQ10が初めて私の前にその姿を現したのは昨年の事でありました。このフォノイコライザープリアンプは、すでに米国で販売されたばかりで、好評との事でありましたが、私はあまり期待は持ってはおりませんでした。それは今日の現行品のイコライザーアンプに、私自身常に疑問を持っており、ビンテージレコードの再生に於いては、ほとんど役に立たないと考えていた事によります。つまり私の気持ちとしては、どうせ現行品と同じような物で、たいした音はしないと思っていたのです。
しかし、本機の内容について話を聞くうち、俄然興味が湧いてきました。 それは本機がラインコントロールアンプを通さずとも、直接パワーアンプリファイアーを駆動出来るという点に興味を持ったからです。 今日のオーディオにあって最大の問題点は、このラインコントロールアンプの存在は、ことレコードを聴くという限り不要であると私は考えており、はっきり言ってあまり良い製品は無いとも考えていたのです。 アナログオーディオを今日に於いて、本来の理にかなったものとするには、フォノイコライザーをラインレベルにまで上げ、直接パワーアンプを駆動するほうがずっと良いと認識していました。 その点でEQ10は、私のアナログオーディオに対する考え方と完全に合致しており、それならば一度聴いてみようではないかということになり、試しに一台スウェーデンから送ってもらいました。 初めて現物を見た私の印象は、なんとまあ多くのスイッチが付いているんだろうといものであり、とりわけ印象的というものではなかったです。 しかし、ケースの上ぶたを外し内部を見たとき、わたしは目を見張りました。 こいつは真のプロの仕事、こいつを作った製作者は只者ではない、こいつは絶対良い音がすると思ったのです。 早速パワーアンプに繋ぎ、再生音を聴いた時、ある種の感慨を覚えました。 このような音が現代でもだせたのか! それが正直な感想でした。 その音は、ビンテージオリジナルレコードの良さを最大限に引き出す、当時のプリアンプやパワーアンプリファイアーの綜合的な音の世界をそのまま残しながら、懐かしの音とするのではなく、現代に蘇らせてしまっているのです。 それには銘機のみに具わるある特長があります。 プラトンの言葉を借りれば、イデアと呼ばれる何か、まさにそれに相当する音があったのです。 さらに使い方によっては、オモチャと化しかねない、録音特性別選択ポジションや、ロールオフ回路の格別の効きかたも適切な効果をもたらし、パワーアンプをドライブする力も優れています。 数種のパワーアンプに接続してテストしてみましたが、いずれもそれらのアンプの個有の力と魅力を引き出しながら、自らの存在感を決して失わない特性を私たちに印象付けたのです。
私は、アンプリファイアーの回路には素人ですが、それゆえ余計な先入観を持たず、再生音のみでその機器の特長を感じる事が出来ると考えており、その感賞をもってEQ10を評価すれば、近年まれに見る物であると思ったのです。しかしEQ10は音楽的な表現力は抜群ですが、現代のフォノイコライザーアンプと比べて、オーディオ機器としての性能は特に優れていると言う物ではありません。SN比等に於いては、おそらく市販品のイコライザーアンプと比較しても、それほど優れているとは思えませんが、安定性に関しては抜群の物があります。何しろ一週間電源をつなげっ放しにしておかないと、初めのうちは良い音が出ないと言う事が何よりそれを証明しており、コンシューマーユースを超えたまさにプロ級の安定性を有しております。おうおうにしてコンシューマーユースのオーディオ機器は、パワーアンプの耐久性に対して、プリアンプ部は長時間の使用に際して『ヘタリ』が出やすいのですが、EQ10に限ってはその心配は皆無です。この耐久安定性はそれぞれ製品的な面でのバラツキが大変少ないという結果にも顕れており、現在まで日本では数十台販売致しておりますが、出荷の際のテストヒアリングでは、多少の音色の差こそあれ、音圧レベル的にも表現力に於いても差異は極めて少ないことに驚きます。
まさにプロの仕事と言うしかありません。EQ10は各レコードレーベルおよびプレスの時代別に適応する録音特性のマッチングや、数々の音質可変部を持っており、ユーザー側はそれらを操作して、望みの音を得られるのですが、私はそれには何の興味をもっておりません。私は常にEQ10の本来持つ基本力に興味があり、それはこのようなフォノイコライザープリアンプにあっては、本質的な所で、明確な表現力がなければ例え特別な回路を有していても、何もならないと考えているからです。その意味に於いては、EQ10は私の知る限り格別の力を持つ物でありました。つまり可変部(ツマミ)を操作しても、基本的な音は変わることなく、可変部の働きに対して常に安定した音質と、表現力を有しているのが感じられるからです。EQ10は可変部回路に音楽的表現において引きずられる事はないのです。それが可変部の自在感をより明瞭な物にする事が出来、リスナーにとっては無類の安定感を感じさせ、安心して再生音に耳を傾けることが出来るのです。このような優れた特性を有するEQ10ですが、スウェーデンの製作者は、完全にオーディオから身を引かれる決意をなされたようで、その点では今後のアナログオーディオ界にとっては、大変な損失であり、EQ10は今後知られざる銘機としてその価値は、所有される方のみの知る所となり、そのほかの皆様には、その再生音を知ることなく終わり、残念としか言いようがありません。製作的な難しさもありましょうが、様々なパワーアンプをこのように優れた駆動力でドライヴするフォノイコライザープリアンプがオーディオ界に登場することはないでしょう。アナログオーディオレコード再生の見地からすると、EQ10のようなフォノイコライザープリアンプは本来あるべき姿だと考えます。EQ10を製作するに当たって技術的なことはもちろん、その音楽性との融合力を形づくるには、プロ的な感賞をもって、コンシューマーユースの本来の目的と合致させた製品を作りだす、これは至難の業に違いありません。 つづく
以下T氏
これを皆様がお読みになる頃にはEQ10は、予定生産数量を終了しているか、もしくはすでに数台残しているという状況であると思います。
そこで今日は、EQ10とはいかなるフォノイコライザープリアンプであったかについて書いてみたいと思います。EQ10が初めて私の前にその姿を現したのは昨年の事でありました。このフォノイコライザープリアンプは、すでに米国で販売されたばかりで、好評との事でありましたが、私はあまり期待は持ってはおりませんでした。それは今日の現行品のイコライザーアンプに、私自身常に疑問を持っており、ビンテージレコードの再生に於いては、ほとんど役に立たないと考えていた事によります。つまり私の気持ちとしては、どうせ現行品と同じような物で、たいした音はしないと思っていたのです。
私は、アンプリファイアーの回路には素人ですが、それゆえ余計な先入観を持たず、再生音のみでその機器の特長を感じる事が出来ると考えており、その感賞をもってEQ10を評価すれば、近年まれに見る物であると思ったのです。しかしEQ10は音楽的な表現力は抜群ですが、現代のフォノイコライザーアンプと比べて、オーディオ機器としての性能は特に優れていると言う物ではありません。SN比等に於いては、おそらく市販品のイコライザーアンプと比較しても、それほど優れているとは思えませんが、安定性に関しては抜群の物があります。何しろ一週間電源をつなげっ放しにしておかないと、初めのうちは良い音が出ないと言う事が何よりそれを証明しており、コンシューマーユースを超えたまさにプロ級の安定性を有しております。おうおうにしてコンシューマーユースのオーディオ機器は、パワーアンプの耐久性に対して、プリアンプ部は長時間の使用に際して『ヘタリ』が出やすいのですが、EQ10に限ってはその心配は皆無です。この耐久安定性はそれぞれ製品的な面でのバラツキが大変少ないという結果にも顕れており、現在まで日本では数十台販売致しておりますが、出荷の際のテストヒアリングでは、多少の音色の差こそあれ、音圧レベル的にも表現力に於いても差異は極めて少ないことに驚きます。