2009年10月28日

EMTとTD124、大型フロアースピーカー駆動力の働き方の違い

レコードプレイヤーのクラッチ効果
EMTはオートグラフ、パトリシアン、ハーツフィールド、ヴァイタボックス等のいわゆるヴィンテージと呼ばれる大型フロアー型スピーカーと組み合わされる場合が多いですが、音楽を楽しむ目的においては、あまりお薦めできるものではありません。 音を楽しむには充分ですが、EMTは音出し、検聴用のためで再生音に対して何ら責任を持たない性格のものです。 出しっぱなしにされた音楽信号は、すべてアンプリファイアーがスピーカーに到るまで面倒をみなければなりません。EMTを使用する場合しばしばアンプリファイアーが大型となり、スピーカー入力の許容範囲を超えたものを組み合わせてしまい、結果コンプレッションがかかり、かえって音の伸びや低音不足に悩まされがちになります。 コンシュマーユースのアンプリファイアーと組んだ場合独裁的な力を有しますが、統率権は持ちません。 悪く言えば言いっぱなしで、アンプリファイアーの力を借りなければ大型スピーカーで駆動する力はないのです。 つまり、アンプリファイアーの力を借りて力ずくでスピーカーを動かそうとしますが、容易には動きません。 なぜなら、このような大型スピーカーにはそれなりのカラクリがあり、そのカラクリを動かさなければ自然に鳴るものではありません。 そのカラクリとは、空気抵抗と電気的抵抗であり、磁力もあります。つまり、これらの大型スピーカーには常にある種のブレーキがかかっていると思ってもらえば良いのです。 再生時の入力信号に対して段階的に加速する変速器的な性格をもち、特に大きな入力信号が入った時の音の伸びは、いわばスピーカーの能力がトップギアに入ったことを示しています。 常にブレーキがかかり、それを解除しなければ加速することもギアを入れ替えることもできない状態で音の伸びを出すのはなかなか容易なことではありません。 ブレーキ解除方法は極めて単純で、スピーカーに供給される音楽信号の内にアクセルとクラッチに相当する力があればいいのです。 それによりブレーキは解除され、スピーカーは音楽信号の成分の増減に従って加減速でき、自在に働くことができるのです。 このアクセルとクラッチに相当する力はパワーアンプにはあまり存在しません。パワーアンプの力はスピーカーの制動力のために働くもので、特に多量の負帰還を持つモデルの場合、スピーカーに二重にブレーキをかけてしまい低域が出なくなります。 よく言われるのがビンテージ大型フロアー型スピーカーには、負帰還の少ないダンピングファクター値の低い管球アンプが最適なのはこの為ですが、これはアンプリファイアー至上主義によると言わざるを得ません。 本当はもっと大切な根本的な問題が存在しているはずで、パワーアンプの負帰還量でスピーカーの鳴る鳴らないが決定されるほど単純なものではないと考えます。 このアクセルとクラッチはパワーアンプにはほとんど無く、むしろプリアンプ側とレコードプレイヤーに求められるべき性格のものですが、この場合合理的に考えればプリアンプより先の前段信号伝送部にこそ求められるべきです。 そう考えれば、コンシュマーユースのレコードプレイヤーの意味、再生側の音楽信号の在り方がおのずと理解できます。 つまり再生側は何よりこのタイプのスピーカーのブレーキを解除する力が求められ、EMTのように音を出しっぱなしにしないで、コントロールし統率する力を持つことが必要になってきます。 この理屈から言えばEMTはスピーカー側のブレーキを解除せず、パワーコントロールをアクセルとして加速しようとしているのです。 よくEMTでこのタイプのスピーカーを鳴らすのに何年かかったという記事を見かけますが、それはEMTとアンプリファイアーが一緒になってスピーカーを攻め続け、屈服させるための時間ではと思います。そのような再生音は、どのようなものであるのか?案外、満足しているのはご自身だけで、その音を聴かされた友人達は内心では首をかしげているかもしれません。 次にTD124の場合、レストア済みのTD124初期モデルでプラスチックスピンドルボックスを持つタイプは、このような同時代の大型フロアースピーカーを駆動するのに適していると思います。 私たちのオフィスで使用しているオルトフォン社製KS601プリメインアンプ(15W + 15W)でもヴァイタボックスコーナーホーン型や鳴りにくいと言われるウエストレックスのA5タイプも何ら問題なく、軽々と駆動することができるからです。 そして初期特有の深く、強いエディカレント機構の働きによるダンピングファクター力はまさにクラッチとアクセルとして、大型スピーカーに働き自在に歌わせることが可能です。 ヴィンテージ大型スピーカーを鳴らすのに時間がかかると言う定説めいた話は、はっきり言ってレコードプレイヤーの力不足か不向きなものを使用しているためであり、本来この時代に沿った出力を持つアンプリファイアーさえあれば、大型フロアー型スピーカーは喜んで能力を発揮してくれるはずです。 以上T氏



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