2010年04月28日

ハイ・フィデリティ 5

アコースティカルな蓄音機では問題とならなかったものが、電気式蓄音機では拡声音量の増大に伴って盛大なノイズも同時に増大させてしまいます。 これは発生させる音楽信号が低レベル、高インピーダンスでありノイズに対しては無頓着だったためです。 当時の技術担当者は電気的信号ラインの可変にともなう圧縮と拡張におけるノイズリダクション効果を利用してノイズの問題を解決しました。 IMG_0829
今日では音源であるレコードやCDの歪み成分が大変少ないので、この時代のような信号圧縮、拡張によるドルビー効果的なノイズリダクションは必要なくなりました。 素直に増幅というのが今日のオーディオ機器の再生のあり方ですが、一方では音楽性を演出する力をあまり持っていいないことになります。 この時代の電気信号の圧縮や拡張の効果がどのように作用するかはSP盤を現代のオーディオ機器で再生した場合に確認できますが、グラフィック・イコライザーやトーンコントロールを用い当時の録音カーブや周波数帯域を考慮し操作したとしても、その再生音はこの時代の電蓄が持つときめきや、輝きに満ちた再生音には及びません。 音の形は相似でも、本質的に異なったもので芯のない無機的な響きが現われてくるだけです。 何かしらの音楽の重要な部分が失われています。 その原因は、電気信号の圧縮と拡張をするかしないかにあり、音のリアルさに対しての思想の違いでもあります。 リアリティを演出する、つまり音に現実感を持たせるために電気信号は必ず可変されなければならないと考えるか、ストレートにそのまま通すほうが良いのか、の相異によるのです。 音源発生からマイクで音を拾い電気信号に移し替えると、とたんに音は変質し、再生時には、元の音とは似つかぬ音なっています。 過去にテープレコーダーで自分の声を録音した方なら、グラフィック・イコライザーを用いずにダイレクトに自分の声を録音すれば、これが自分の声?と驚いたはずです。 電気的な録音は何らかの処理をしなければ自然な再生音はありえないのです。 小規模なライブ等でPA機器を用いずにギターアンプのみで行う場合、エレキギターとアコースティク・ギターではその可変に用いるエフェクター類の数は違います。エレキギターの場合は、通常ギターアンプの信号ライン上のエフェクター類は2〜3個で充分であとはギターアンプに接続すればほとんどの音は出せますし、レスポールとオールドフェンダーギターアンプを用いればかなり魅力的な音色が出ます。 余計なエフェクター類が無い方がかえってカッチリとしたダイレクト感のある音が得られます。 アコースティク・ギターとなるとまた違います。 ギターアンプ直結にするとかなり電気的な音になってしまい、そのためにエレキギターより多数のエフェクター類が必要になります。 アコースティックな楽器ほど電機を通した場合より多くの補器類が必要になってくるのです。 なるべく障害物を避け入力信号を正しく伝えるのが前提となる今日のオーディオの概念から見れば不思議なことです。 それは今日のソフト音源に比べSP盤やトーキーサウンドトラックはノイズや歪みにおいてに問題にならないくらい劣っていたからです。 そのような音源に手を加えずにそのまま再生してしまっては、かなり電気的な音になるばかりですから、何らかの可変を行い元の音源に近づける必要があります。 この様に考えてみれば、ウエスタンエレクトリックの41・42・43トーキ-アンプが僅かな出力しか持っていないのに、あのような大掛かりな仕掛けがされている理由がわかってきます。 41・42・43アンプとは巨大な可変整流器であり、信号の圧縮と拡張と可変しながら整流(ドルビー効果、ノイズリダクション)を行なって電気的な音を除去し、自然な原音の再生を可能にしているのです。 いかに強力に整流を行い入力信号を磨いたとしても完全にトーキーフイルム・サウンド部から送られてくるノイズまみれの電気信号を取り去ることは不可能で、このノイズ成分を逆に利用してノイズ成分を人間の感覚に沿って出してしまうことで思わぬ効果を生むことになります。 ノイズが映画の中に溶け込み、空間に放射されるとそれが現実的なリアリティを発生させることに技術者たちは気づきます。 IMG_0832考えてみれば私達の現実社会では完全な無音などあり得ず、常に何かしらのノイズの中で暮らしています。 多少のノイズがあった方が自然であり、今日のようなCDやコンピューターによる再生音にある無音的な静寂は、本来自然界の中ではあり得ない世界であると同時に恐ろしく奇妙なものです。 人間の感性に忠実なハイフィデリティの意味を考えるとき、この時代のトーキー関係の技術者達の行った試みは、今日でも重要な意味を持っています。 つづく 以上T氏


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