2010年06月05日

種の限界(TD124の限界点とは)その2

現代のアナログプレイヤーの主流である糸ドライブベルト型プレイヤーについても触れておきます。 ベルトドライブ型が開発された目的は、アイドラーを用いたプレイヤーと比較してゴロやノイズを引きにくい特性を生かし、高精度な再生音がレコードから得ることでした。 アイドラー型より単純な手法で最大の効果を上げられ、製作者側にとって利益率も高いすぐれた型式であったのです。 ユーザー側にとっても、プーリーやアイドラー、プラッターについた汚れ等によるSN比の悪化や回転ムラ、ベルトドライブ特有の動作ノイズの発生がアイドラー型ほどピーキーではなく、使用による汚れの音質面への影響が穏やかで多少汚れていても性能に影響が少ない扱いやすいものでした。 それは一方で音楽的な情報信号における感度の低さを表しているのです。 アイドラードライブ型は本体全体で音楽的な信号に反応するため、汚れによるトルクミスや不具合が生じるとただちに音質面に現われてくるのです。 汚れによる音質面への影響を考えると、実はベルトドライブ型の方が大きく、何よりベルト自体のプラッターへの接地面積の多さが問題で、アイドラー型の点接点に対し面接点なので、ベルトドライブの進化(ある意味においては退化)には接触面積の減少を計る必要があります。 そのほうがリニアーとしてのSN比が得られるのが、型式自体がもたらした論理的な帰結です。 TD124という単一モデルが1957年から約10年に渡り生産を続けられたことは、リニアーSN比の高さが得られなくても、単純にリスナーに音楽的な感動をもたらし、この時代の人々の音楽に対する欲求が今日のような頭でっかちなものではなく、魂を燃焼させるような生の充実を感じさせるものであったのが思い出されます。 そうした再生を行えるレコードプレイヤーとして支持されてきたのだと思います。 総合的に判断すると実は、ベルトドライブ型の再生音は種としての限界点が初めから定められており、その限界点を超えるにはカートリッヂの力とアンプリファイアーの助けがなければ成立しえず、レコードプレイヤーとして独立した存在ではないと言えます。 アイドラー型がどちらかと言えばアンプリファイアーやスピーカーを助けるのに対して、ベルトドライブ型はカートリッヂやアンプリファイアーの助けがなければならないという形式が持つ致命的な宿命を背負わされてます。 その結果、高価なカートリッヂやアンプリファイアーが必要とされ、力ずくでどこか無理のあるリニアー的Hi-Fiを再生せざるを得なくなります。 この音楽的な感動とは無縁の再生音では、意味を持たないサウンドとしてしか響かない結果しか得られません。 最近ドイツから新しいタイプのダイレクトドライブ型プレイヤーが発売され、今後各社からも同様の製品が発売される可能性がありますが、私としてはどうして欧米の方は押し並べて、かつての日本の製品を踏襲していくのか不思議でなりません。 もはやアナログ再生において、真に音楽的な深さを求めるのであれば、ベルトドライブ型もダイレクトドライブ型も賞味期限切れと言わざるを得ません。 単一機構が持つ、種としての限界点はすでに定まっており、いかに工夫を凝らそうと、そこから抜け出すことは出来ません。 ベルトドライブ型もダイレクトドライブ型も、その形式でシンプルが持ち味であり、それゆえに発展がなく限界点が早くやってくるのです。 TD124のように1+1の相方がなければ再生音に対しての音楽的な追従性がワンパターン化するのは当然です。 音楽から深い感動を得ようと試みる限り、もはやベルトドライブ型やダイレクトドライブ型は無用の長物であり、リニアー的Hi-Fiを求める人にのみ追求されていく形式なのです。 過去の評論で、TD124のベルト・アイドラー型とはベルトドライブとアイドラードライブ型の良い所取りをしたものである等と言われていますが、TD124専門レストアを行う者からすると、まったく本質を知らない戯言です。 この型式は決して良い所取りではなく、逆に悪い所取りと言え、ベルトドライブとアイドラードライブの欠点を混合し働かされることにより、最上の効果を狙ったものであり、メカニズム的には少々無理があるにもかかわらず、かえって有効に両者に欠点を補い合わせて新しい力を生み出しているのです。 断じて良い所取り等の安易なものではありません。 機構的に不都合でありながら、ベルト・アイドラーというTD124独自の機構を確立したトーレンス社の技術力は、当時も今日においても革新的で疑いようのない事実として、ただの技術的な物に留まらず同時に再生音においてもトーレンス・トーンを確立し得たことは驚くべきです。 TD124の種の限界点は、現時点ではおぼろげであり、今後もどこにあり、どのようなものであるか探り続けて行くつもりです。
以上T氏


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