2010年06月10日

トーレンスCD43型オートチェンジャーのこと

ゴムベルトやアイドラーを一切使用せず、ギアのみでセンターシャフトをドライブするLPプレイヤーは、実は興味深い音楽を奏でるのをT氏と一緒に聴いた。 1分間に33と1/3回転するのは、他のプレイヤーとまったく同じなのに、こうも練り羊羹のように緻密でしっかりまったりする音が出てしまうのだ。 
以下T氏

トーレンス社のCD43型オートチェンジャーは、LPレコードの発売と共に販売され、長期に亘って製造されたと言われています。 しかし、海外でも見かけることはほとんど無いのは、まったく不思議なことです。 長期に亘って作られたのは本当のようで、これからご紹介するCD43型オートチェンジャーはステレオ仕様であり、1957年頃以降に作られたと考えられます。 オートチェンジャーの種類が果たしてCD43型のみであるのか、様々な仕様のモデルが存在したのかも謎です。 資料を見る限り、最初に発売されたCD43型と本機はアームの塗装色が白から黒へ、左側の回転選択スイッチが多少変化しているだけで、ほとんど変わっていないのですが、いずれにしろ謎に満ちた存在です。 最も大きな謎は、センターギアドライブという戦前78回転時代の機構を採用していることで、LPレコードの登場に合わせたのであれば、当然アイドラードライブでも良いはずです。 同時代のプレイヤーのほとんどがアイドラー機構を採用していたのに対し、時代遅れと思われるセンターギアドライブを何故わざわざ用いたのか? 特許の関係があったとしても、少し様式を変えればクリア出来たはずです。 開発が間に合わなければ、期間を置きモデルチェンジを図れば良く、都合10年近く旧いギアドライブ型を通した理由を検証することで、この機構と現代のアナログプレイヤーが持つ機能の差異の意味、回転のあり方とレコードプレイヤーとはどうあるべきかを、また新しく見えてきます。
CD43型の仕様
構造と動作については、今まで見たことがない機械について想像力が追いつかないと推測されますので手短に述べたいと思います。 
本体はローターが横置きで回転し、そこにスピンドルに直結されたシャフトが組み合わされ、プラッターを動かすようになっています。 P1210053完全な歯車の上にプラッターは乗っており、アイドラー型やベルト型のようなスリップやトルクミス等は原理的に発生しません。 このプラッターは鉄板プレスで、ゴムシートが上部全体をすっぽりカバーするようになっています。 通常、私達が扱っているプラッターのような重量は無く、慣性質量によるモーメント等は無縁であり、現代プレイヤーが慣性質量の下に奴隷化しているのとは全く逆で、歯車動作の奴隷とさえ言えるものです。 センターギアには様々なギアが組み合わさり、オートチェンジャー動作をしますが、その動きはガラード社のRC72、80等とは全く異なり、RC72、80等がモーター動力の一部をチェンジャー部に与え、一連の動作を行う統一性を持つのに対して、CD43型は、どちらかと言えば様々な動作を行うギア部が独立しており、それを並列的に組み合わせています。 ガラードの場合のように、アームが動作状態に入るとモータートルクが落ち、プラッターの回転が遅くなる現象はほとんど見られませんし、プラッターは平然と回転を続けます。 回転トルクに到っては、トルク感などという生易しいものではなく、トルクそのものが形となったような動作を行い回転方向のみにしか働かず、アイドラー型やベルトドライブ型のトルクのようにある程度回転の反対方向にある緩みとは無縁な回転ぶりです。 ただひたすら目指す回転方向にその力を発揮するのです。 一旦、定回転に達すると、身じろぎもせず安定した回転を保持するのです。 電圧の変化やトランスポートの抵抗値等により多少のトルクが失われるので、速度可変つまみによる調整が可能です。 DSC_0016可変範囲は極小で、一旦設定すればその速度を保つ力と回転数の安定は相当なものです。 プラッターの回転を急停止させるストッパーもあり、これはアームが元の位置に戻りスイッチが切れると瞬時に発動し、一瞬のうちにプラッターを停止させます。 電源ON、OFF用スイッチパーツは何故かガラード301のものとまったく同じであり、これもCD43型の謎の一つです。 TD124初期モデルに採用された電源ON、OFFスイッチも英国製で、これも様々なものに使われている汎用であるかも知れません。P1200043 CD43型の設計思想を考えた場合、TD124にも当てはまりますが、ゲルマン的なものとラテン的なものとして設計構想の振り幅の違いが本機にも見られ、その機構はゲルマン的である一方で、加工面になると合理的なラテン的なものであり、ゲルマンとラテンの融合体には不思議な存在感を漂わせます。 センターギアドライブのギア(歯車)動作ノイズがLP時代のハイフィデリティ高音質レコード再生において最大の問題点であり、そのためにこのモデルは廃れていきました。 センターギアドライブをLPレコード再生に用いたのか? これは謎です。 スイスの精密技術でその問題を充分クリアできるとトーレンス社の技術への自身がそうさせてのでしょう。 事実CD43型のメカニカルノイズは、CD43型と同じ構造を持つ手持ちの1947年製THORENS78回転型モデルと比べると、驚くほどノイズが減少しています。 同時代のガラードオートチェンジャーと比較してもメカニカルノイズは劣っていませんし、振動周波数的にはCD43型のほうが低く、シャシーの振動こそガラードより大きめですが、質的にはCD43型の方が良好です。 再生音は、大変腰の据わった音で、安定感は磐石です。 CD43型は、その重量(TD124より少し軽いぐらい)から完全に固定設置用で家庭内のしかるべき場所に単独で置かれ、リスナーに充分な音楽的な感動を与えるために作られたと思います。 恐ろしく手の込んだメカニズムを見ると、発売当時は相当高価で、アーム無しのTD124と同じぐらいの価格はしたかもしれません。 つづく






この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔