2010年06月13日

トーレンスCD43型オートチェンジャーの 再生音

DSC_0014CD43型の再生音の特長は、あくまで太く、滑らかで、リッチな音がすると言うのが第一印象です。 しかし、周波数帯域的には明らかにHiの伸びが不足しています。 これは本機に使用したシュアのM3Dカートリッヂが中古品で、針先の状態があまり芳しくなく、ダンパーがやや硬化気味なので今一つ音溝にきっちり食い込んでいないのと恐らく過去50年以上、一度も通電されたことのないアーム、シールドケーブルが電流日照りを起こしていると思われます。 ヒアリングを始めて3時間ほどすると明らかに再生音に変化が現われ、音が生き生きし、高域の伸びも改善されてきました。 それでも少し不足感はありますが、聴き続けていると気にならず、何よりCD43型の種としての魅力が聴き手を虜にしてしまうのです。 太くて、滑らかなずんぐり型の再生音は現代のリニアティHi-Fiのこなれた耳には失格の烙印を押されそうですが、その再生音は今日のオーディオ機器が喪失した何かを聴き手に伝えてくれます。 音の太さは、ただ再生周波数帯が狭いからそう聴こえるのではなく、実は音がみっしりと限られた帯域の中に充満しているからと気付かせてくれます。P1200044 日中に暗い室内にいきなり入ると初めはその暗さに戸惑いますが、やがて目が慣れてくると様々な調度品が見える現象と似ており、CD43型のもたらす音とは、現代プレイヤーの再生音のようなピーカンな音ではなく、温かな暗闇の支配する世界であり、今日のプレイヤーが一聴すればすべてが判るのに対し、聴き続けるうちに初めてその実体を現すという性格です。 おぼろげな明確さがCD43型の再生音の特色で、ある意味二律背反性を帯びているのでしょう。 同時代のガラードRC72、80と比較するとその差は歴然で、RC72、80がポピュラリティーを持って聴く人に音楽の楽しさを伝えようとしているのに対して、CD43型はどちらかと言えば求心的で音楽を何かしら意味のあるものとして伝えようと感じられます。 CD43型の音は真正直な音と聞こえ、あまりに正直な為かえって嘘ではないかと思われるところもあり、RC72等のようにあらかじめこれは嘘だと言ってくれた方が聴き手にとって音楽が楽しく聴こえ、それだけ楽になります。 さらに深く探っていけば、このような鳴り方(アンプリファイアーやスピーカーに対して)の原因がトルクロスやワウフラ等とは無縁のギアドライブ直結型にあると判ってきます。 
DSC_0018

音楽を成立させるのに必要不可欠な低域、ラインベースが不動であり、ラインベースに対しての中高域の立つ角度が常に直角で、音の並びが整然と感じられるためで、例えれば広々とした低音の平原に大木がそそり立つ森林の趣きと思って貰えばよいのです。 この音の並び方はTD124初期モデルとある意味共通しています。 しかしTD124の場合、低音ディープバスにおいて音の立ち方が直角ではなく、常に音楽的な意味の可変に伴って角度が変わり、リズムが微妙に揺れ、音楽を生き物のように操っています。 CD43型はそのような動きはせず、あくまで正直に正確にリズムを刻み、これが決定的に異なる点です。 TD124初期型はプログラムソースに対してかなり選り好みが激しく、ツボにハマった時はどのようなレコードプレイヤーからも出せない音楽的に意味深い再生をしますが、それほど重みのない音楽には、あまり力を発揮しない特長があり、音楽的な内容により表現力が変化します。 それはこのタイプのTD124がリズム的に常に揺れ動いており、その揺れに音楽が合致したとき相乗効果が上がるからですが、CD43型の場合それは無関係でひたすら正確なリズムを保ち、プログラムソースに対して選り好みはありません。 ジャズもクラシックもポップスでも、その音は濃厚で圧縮比率の高いものです。 従って音のエネルギーと飛びが相当強く、同じアンプとスピーカーを用いても聴覚的にベストなポイントはやや離れたところになります。 このシステムに繋いだTD135とコニサークラフツマン3がスピーカーから3mぐらいで充分なのに対して、CD43型は5mぐらい離れた方が空間に音が満ち良好なものとなります。 CD43型の強力な音の飛び具合からして、音の立ち上がりと下がりが抜群に早く、これはまた音の拡散力が強いということで、そのような力を発揮させるにはスピーカーから放射される再生音が圧縮される必要があり、事実スピーカーに近づけば近づくほど音は縮んで縮小していきます。 良く出来たホーンスピーカーやシアターシステムスピーカーに見る現象で、シアター系の音に割合近いと感じられました。 DSC_0015-1これまで述べてきたことから、CD43型の再生音はかなり窮屈な軍隊行進を思わせる音のように感じられたかも知れませんが、実際は徹底して柔らかで、立ち上がりや立ち下がりが早くても、今日の現代プレイヤーの再生音のような音の形を意図的に磨き上げたシャープさとは縁がなく、ずっと自然に再生します。 物理的な特性の良さをこれ見よがしに誇示するものではなく、ゆるい音はゆるい音として再生をはかり、音楽に反してレコードプレイヤーとしての存在を明らかにするものではないからです。 長時間の試聴でも疲労感がないことは最大の利点だと思います。 CD43型の再生音がこの時代のハイフィデリティ性に叶ったものであったにせよ、その再生の限界点で比較的foの高めな12インチフルレンジ、同軸型スピーカーあたりが再生音にメカニカルノイズが現われない限界のようで、それさえクリアできれば、充分に聴きごたえのあるみっしりした再生音を楽しむことができます。
以上T氏



トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔