2010年07月04日

英デッカ社アーク型スピーカーを鳴らしてみる

ae9ef362-s 今回、珍しいスピーカーをご紹介しようと思います。 このスピーカー実は、1950年代末頃に英デッカ社のウェスト・ハムステッドスタジオから持ってきたというものなのですが、正確にはいつ作られたのか、なんの目的で使われたのか、実際に販売されたものであるか等は一切不明です。 このスピーカーに使用されたユニットはワーフェデールのスーパー8と言われていますが、それも本当か現在では判断のしようがありません。 本機にはラウザーPM6が取り付けられていましたが、既に壊れており、エッジも自作と思われるものに交換され、完全にゴミと化していました。 下2枚の写真で見る限り綺麗な状態であると思われるかもしれませんが、それはリビルトされたからで、修復前の状態は上の写真で見るとおりキャビネットの接合部に白色のパテがごてごて塗られ、しかもマスキング等行っていないためメチャメチャにはみ出しており、キャビネットバッフル面を止めてあるビス類が長さも大きさもバラバラで、種類も真鍮ありステンレスありのバラエティーに富んだものでした。 塗装もおそらく50年以上経っている事もあり所々剥げや浮きも、再度着色しオイルスラインで塗り直さねばなりませんでした。 私は、このスピーカーが型番も年式も不明である点と形状からアークと呼んでいますが、実際リビルト前の本機はまさにアークそのものでした。 この様な状態のスピーカーをリビルトし再び従来の音を聴くには大変な作業になることは見ただけで解り、私としてはあまりやりたくなかったのですが、ガラードRC72オートチェンジャーとパイ社のブラックボックスアンプと時代的にもあい、「しかたない、やってみるか」と決心し作業を開始しました。 思った通りこのアークはとんでもない代物でした。 まずスピーカー・ユニット用バッフル板を取り外してみると、片方のスピーカーのバッフル板取付用木材とその取付け方が違っており、片方は明らかに木工の心得のある人が行った仕事で、もう一方は完全に素人のやり方で音響的な考慮など一切無視したやり方で取り付けられていました。 これでは本機のキャビネットの響きを殺してしまうので完全撤去し、一からやり直す事に。 しかし肝心の木材にこのアークにふさわしい物が無く、色々探した結果、杉の赤味材が適していると思われたので、これを加工して取付けました。 内部は真ん中の折り返し板の角度が二台とも少々違っていました。 しかも補強用の板材の枚数も異なっており、このスピーカーの各部の仕口の仕上げが雑で、寸足らずであったり長かったり、とてもまともな製品として扱えるものではありません。 キャビネット底部には独特の形のキャスターが取り付けられ、この止めネジも緩んでいるため補修しなければなりません。 まさに問題山積み、従ってリビルト完了までに半月もの時間を要してしまいました。 リビルトにこんなに時間がかかってしまったのは、何も本機がガラクタ同然だからではなく、本当の理由はこのアーク型スピーカーが、実は完全な形として完成されたものではなく、その状態を見る限りおそらく試作品であったと思われるからです。P2170093

 つまり未完成のところがあり、それを補うには製作した人間の意図を理解し、やたらに手を加える事は差し控えなければならないのです。 例えば木工的に明らかに理にかなっていなくても、果たしてそれが木工技術の未熟さ故なのか、果たして音響的に意図したものであるか、充分見極めなければなりません。 やりすぎは禁物です。 その例として、スピーカーが取り付けられている側にある、バッフル面の接合部を木工的観点から言えば、この部分は角度を揃えてきっちりと接合したほうが強度的にも見栄えとしても良いのは明らかですが、実際はお互い90度で組み合わされ、そこの隙間に樹脂製のパテが埋め込まれて空気漏れを防いでおり、なぜきっちりと面合わせせず、パテ埋めをしているか、それは音の廻り込みを防ぐためと思われます。 音が廻り込むとスピーカーキャビネットは奇性共振を起こし、特有の音色こそ出ますが、再生音に色がつきプログラムソースに対する追従性が妨げられ良質な再生音は望めなくなります。 本機がこの接合部にパテ埋めをしたのは、そのような現象を防止し、一枚一枚の板材の共振を分割させ、共振させるためであり、共振のアイソレートのために意図して行われたと推測されます。 従ってリビルトにあたって、ここの部分に安易にシリコーン等を詰めるのは御法度であり、本機のリビルトの完成までさまざまな木工技術を駆使して対応しなければなりませんでした。DSC_0002-5

本機の仕様と構造
本機の外形寸法は、縦105mm×幅46mm×奥行き26mmホームベース型の長方形で、形がアークとそっくりなので私がアーク型と呼んでいますが、使われた材料は、厚み9〜10mm程、内部の仕切り板は8mm程のすべて合板です。 構造的には一回折り返しのバックロードホーンで開口部がキャビネットの下部に設けられています。 バックロードホーンと言っても通常私たちがイメージするものとはかなり違っており、共鳴作用を重視したと思われます。 きちんとエアーロードをかけたものではありません。 このようなホーンと言えばホーン型と言えるあやふやなホーンを私は「なんちゃってホーン」と呼んでおりますが、本機はまさしく「なんちゃってホーン」そのものです。 しかし本当にエアーロードがかかっていないかと言えばそうでもなく、二台の内一台は接合部に隙間があり、ここをパテ埋めしたところ、再生音はダンピングが強化されたのでロードはそれなりにかかっているようです。 さて問題はこのアークにどの様なスピーカーユニットを組み込むべきかですが、色々考えたすえ古いグッドマンの20cmフルレンジが良いと思い使うことにしました。 このユニットは本機を鳴らすパイ社のブラックボックスアンプに用いられていたもので、時代性を考慮すればマッチングするはずだと考えたからです。 取り付けに当たってひと工夫必要で、このユニットは軽量でマグネットも小さいため、過剰な入力があると途端に歪みが出てしまうので、配線材にはベルデン社の細めの単線仕様のものを用いてスピーカー端子まで持って行きます。 これはローパス効果を狙ったもので、あまり低音信号が入るとユニットの反応力が働かなくなることがあり、低音部はホーンにより増長するので、バランス的にはあまり低音にかかわる信号は入れないほうが良い結果を得られるからです。 さらにスピーカー取付けバッフルには、底釣り用仕掛けの天秤を銅線で作り、バッフルからスピーカーコードを浮かせています。 このような処理をしないと、軽量でマグネットの小さいスピーカーユニットの場合、スピーカーコードが内部の音圧により変な振動をユニットのフレームに伝え、再生音に悪影響を及ぼし兼ねないからです。 スピーカーユニットの全面には英国から取り寄せたネット材を用いてコーン紙を隠していますが、このネット材はオリジナルと同じ材質の物を選びました。 ユニットの取付けはネジ止めではなく、専用の金具を作って上下左右に用いています。 つづく
以上T氏



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