2010年07月06日

英デッカ社アーク型スピーカー再生音-1

DSC_0017-5本機を用いてヒアリングを行った結果、コーナーにある程度の距離をおいて設置した時がもっとも良い再生音が得られました。 しかし、コーナーとの距離により再生音がかなり変化するのも事実で、リスニングルームのエアーボリュームや、反響によりユーザー自ら調整し、好みの音にセッティングする必要があります。 コーナーに置いた場合と、平面な壁に向けた場合の音の広がりは変わりますが、それはスピーカーユニットが取り付けられたバッフル面が斜めになっており、コーナーに設置した場合は上方向に音が拡散され、いわゆるイメージホーンを形成し、それにより空間拡散力が高まります。 平面に反射させると音色がやや薄まって平凡なものになり、ステレオの場合は二台をコーナーに設置するか、二台を少し離して角度を調整することにより、よくブレンドされた再生音が得られます。 それは決してリニアHi-Fiの音ではなく、グッドリプロダクションに基づいたハイフィデリティです。 モノーラルでは、一台でも良いのですが、二台同時に駆動したほうが豊かな響きとなって空間を音楽で満たすような効果が得られます。 二台で正面に向けた場合、ステレオ再生ではモノーラル的に、モノーラル再生ではステレオ再生の様な響きで鳴るのが面白いところです。 いずれにしても置き方により、さまざまに音場や音色が変化するので、どのように使うかはユーザーの好みに委ねられます。 本機を鳴らすには、ある程度の音楽的センスが求められ、当時の英デッカの技術者達は、おそろしく音楽的センス豊かであったと思われます。 このような「なんちゃってホーン」から太くも細くもならず、ちょうど良い具合の音が出せるのですから、そしてその音が反射型として用いる場合でも、決してぼやけずシャープであるのも特筆すべきことで、いい加減な作りであるにもかかわらず、ブーミーな音が出ないのは大したものです。 私のように多くのスピーカーを作って来た者から言えば、これは一朝一夕では出来ません。 音作りを良く知った者でしか出来ない芸当なのです。 さらに驚くべきことに、本機と組み合わせたガラードRC72とロネット社のクリスタルカートリッヂ、パイのブラックボックスが今まで使っていたタンノイ社の小型スピーカーの時と比較できないほど周波数再生域が広くなったことで、まるで今まで小学生と思っていたものが急に高校生になったぐらいに変化したのです。 もはや高性能のMMカートリッヂの必要性は全く感じられず、ロネット社のクリスタルカートリッヂがまるでオルトフォンのMC20の如く、さわやかに鳴るのを聴くと、英国で根強くこのタイプのカートリッヂがHi-Fiの時代も使用し続けられていたかが理解できるのです。 本機の再生音を吟味して聴けば、同社の代表的なカートリッヂ・デッカマーク1の再生音に思いをはせずにはいられません。 それは私たちが通常目にするオーディオ雑誌に記載された、このマーク1の再生音の評価が果たして適正なものであるかということです。 マーク1カートリッヂの評価というものは、概ね生々しい切れ込みのある温厚な音色とブライト感、直線的なエネルギーの強さ等ですが、これらはいわば褒め言葉であり、裏を返せばホームユースではやや音がきつく、使いづらいタイプで、デッカマーク1の音とはその様なものであるとされてきたのです。 しかしこのような特性を持つマーク1を、本機のような音を可変拡散する事の出来るモデルと組み合わせればどうなるのか、切れ込みのある濃厚な音色も、強いエネルギー感も、ブライト感もいわば丁度よいものになりはしないか。 またマーク1の持つブライト感は、TD124 EMPORIUMをもってしても、ホーンスピーカーからビーム状のピーキーな音が出ることがあり、それを押さえこむのはなかなか難しいのですが、本機なら何の問題も無いと思われます。 しかしまだこれは実験しておりませんので、確約はできませんがある程度の予測は充分可能なことです。 さらにこうも考えられます。 それはマーク1をスタジオ等のプロユースで使用するときは、前述のマーク1のさまざまな特性が業務用としては無くてはならぬ特性ではなく、マーク1と同様のスタジオで使用されたオルトフォンの古いAタイプやEMTもデッカ・マーク1と同様の特徴を持っており、しばしばコンシュマーホームユースで使うには苦労する所があるからです。 マーク1をホームユースで使用する場合は、何らかの可変を施してマーク1の音色をホームユース的な物に変えなければ、最良の物は得にくいと推測されます。 マーク1が発売された頃の英国のレコードプレイヤーやアンプリファイアー、スピーカー等は、リニアHiFiに慣らされた私たちから見れば、おそろしく変てこな格好をしています 変てこりんに見えると言うことは、(機械はその働きが体を成すということを前提とすれば)これらの機器が音を可変するための、いわば可変力のかたまりだからです。 そして、マーク1カートリッジはホームユースの使用にあたっては、可変力無くしては実力を発揮しないことになり、そうなると私たちが今までマーク1に抱いていた再生音のイメージや、あり方も変化することになります。 オーディオ雑誌等で評価されたマーク1の再生音も、当然異なったものとなるはずです。 マーク1の試聴で、当時の英国のアンプリファイアーやスピーカーを使ったものがほとんど無く、あってもリークやクオードがせいぜいでサウンドセールスやパイ社のアンプ、アームストロングや、グッドセル等の真に英国的な製品を使用しているのを私は見たことありません。 スピーカーでもタンノイぐらいで、タンノイのスピーカーは真に英国的であるとは私には到底思えず、デッカ・マーク1の切れ込みに対しては、無防備なところがあり、ピーク音が出やすく、本来あまりよい組み合わせではないのです。 DSC_0001-5さらに私の言っている可変力とは、アンプリファイアーの回路構成であるとか、特殊なスピーカーユニットやエンクロージャーのことではなく、その内奥に秘められた力のことを指しているのです。 それは英国流の思想に支えられたものであり、ハイフィデリティの道を通ってグットリプロダクションに至らしめるある力であり、一言でいえば『良いもの』としか言えないのですが。 今日の現状を見るに、リニア的には良くても、真に人間の感情や感性に沿った良い物は極めて少数であり、その多くは何ら可変力を持たず、ただ与えられた信号を垂れ流すものがほとんどで、このようなアンプリファイアーやスピーカーと組み合わせると、マーク1カートリッジはとたんに牙をむき爪を立ててしまいます。 大げさに言ってしまえば、ハイフィデリティに基づいたグットリプロダクション性を持たない製品と組み合わされた場合、マーク1は反応しないと思います。 この反応力は、同じような反応力を持ったアンプリファイアーやスピーカーでなければ、マーク1の感性反応力に呼応するべき反応力を持つものでなければならないとも言えるのです。 すべては反応力にかかっているのです。 つづく
以上T氏


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