2010年07月12日

スピーカーの無共振思想と共鳴思想-1

普段オーディオ雑誌や様々な都市伝説により、頭がこんがらがってしまっている方のためにスピーカーの形式の意味について述べてみます。 インディアナ・ジョーンズよろしくいよいよ魔境に突入した感があり、皆様の戸惑いもあると思いますが、大ナタを振るって、オーディオのジャングルを切り開いていかないと、魔宮はその真の姿を見せてはくれません。 
さてスピーカーにはさまざまな形式があることはすでにご存じでしょう。 この形式を分類すると、コンデンサー型は別にすると、種類は二つしかありません。 一つは米国AR社の完全密閉型であり、もう一つは楽器的にエンクロジャーを鳴らす英国オートグラフ型です。 過去から現代に到るまで数多くあるスピーカー達はこの二つのタイプの中間にあると仮定することができます。 その実態は大きさ、型ではなく、スピーカーユニットが組み込まれているエンクロジャーがリスニングルーム内のエアボリューム・フィールドとどう繋がっているかにかかっているのです。 エアボリュームとの連結性がもっともスピーカーの働きのあり方を示しているのです。 AR型スピーカーとオートグラフタイプのスピーカーといった形式の違いは、室内エアーボリュームへの連結の違いとなり、再生音の鳴り方とリスナーへの音楽的アプローチに顕著な差となって顕れます。 AR社の密閉型の場合、室内のエアーボリュームと隔離された構造はコンプレッションドライバーの働き方と大変よく似ており、AR型は前面にホーンを持たないコンプレッションドライバーに見え、ホーンがないだけ能率が低くなってしまいます。 問題はARのユニットがダイレクト・ラジエーター型であり、直接空気を揺すってしまうことと、その振動面積がコンプレッションドライバーと比べ格段に大きいのです。 このような場合、コンプレッションドライバーとホーンの組み合わせのような空気との相互的協力関係が成り立たないことに私達は留意しなければなりません。 それはコンプレッションドライバーをホーンに取り付けると、開口部にエアボリュームとの自然な混じり合いが成立し、開口部面積が振動面積と同等であるというホーンの定石を考慮すれば理解できます。 ここの部分でのエアボリュームとの整合性こそホーン型の再生の良し悪しを決定する重要な点です。 エアボリュームにどれだけ密に溶け込むかによって、ホーン型の特性が再生音のクオリティの是非として私達に認識さるのです。 良いホーンは、エアボリュームに対して自然に溶け込んで行き最良の再生音が得られるのにたいし、AR型にはこの様な働きはありません。 従って、AR型がエアボリュームに対してどのように働くかは、エアコンプレッサーとして動作していると考えた方が良いでしょう。 アンプリファイアーの出力を借りて空気をダイレクトに動かして揺するのがAR型スピーカーの特長ですが、時には私達の聴覚に対してホーン型とは異なった作用を及ぼします。 それはAR型のスピーカーを狭いリスニングルームで聴く際に発生し、AR型のスピーカーは特性的に能率が低いため、聴覚上の満足すべき再生音を味わおうとすると、必然的にパワーを入れてやることになります。 それによりAR型のエアコンプレッサー力が働いてリスニングルーム内の空気は圧縮されるのです。 それが瞬時のことであれば、私達の聴覚器具である鼓膜は圧迫され、生理的なバランス感覚により元の状態に戻り、それが連続して起こると今度は私達の聴覚の生理的な反応が働いて、そのような音を認めてしまうのです。 これは私達に備わった防御反応によりますが、これが発動するとまず再生音で低音と高音が聴き取りにくく、次に全体の音が聞こえにくくなり、私達の聴覚はバランス的にラウドネスがかかってしまいます。 やがてリスナーは必然的にアンプリファイアーのボリュームを上げます。 何しろ良く聴こえないのですから。 よく聴こうとすればそうするしかないからです。 このような行動がもたらす本当の怖さはここからで、このような再生音を聴き続けると、耳に癖がついてしまい、これは私たち人間の生理的な防御反応によるのですが、こうなるともはや通常の自然な再生音では物足りなくなり、かえって自然な再生音が狂っているかのように感じられるようになちます。 こうした例は、時々AR型のたぐいの小型スピーカーを、まるで気が狂ったような大きい音で聴き、なおかつその再生音が圧縮過多により、ピークやディップを発生しているにもかかわらず平気で聴いて、正常な音量であるとはどうしても思えないのに、当の本人は満足しているという場面に遭遇したことがある方が多いはず。 こうした健康に悪い音を聴かないためにはどうすれば良いか? まず使用するスピーカーに対して、必要なエアボリュームを確保するのが一番。 でも、我が国のリスニング事情を考えれば少々無理があります。 もう一つの方法は、室内エアボリュームに自在度を与える事で、窓やドアを開けておくだけで効果は上がるのでこちらの方が実用的ですが、遮音という点では問題が生じます。 結果、AR型のスピーカーはあまり広いスペースを持っていないリスニングルームでは、真にその力を発揮させるにはなかなか難しい製品なのです。 密閉型の持つこれらの特性が弱点として働きを改善するため、現代小型スピーカーはさまざまな工夫を施しており、それらは室内エアボリュームとの連結性をいかにスムーズに行うかに注意を払ったものとなっています。 この様に考えれば通常スピーカーに対して抱く構造がもたらす再生音のイメージは、形式やホーン型や密閉型などの構造と呼ばれる見かけの問題ではなく、真の働きはエアボリュームに対してどのように働いてるかにかかっていると思います。 ではオートグラフはどうなっているかを考えてみます。 スピーカー側からではなく、エアボリューム側から見た方が良く理解できます。 こちら側から見ればオートグラフのスピーカーユニットは、エアボリュームにおいて宙に浮いていると考えてもよいと思います。 それは前面のショートホーンと後方のバックロードホーンがエアーボリュームと対峙せず、ただ板材で仕切られバッフルに取り付けられており、前も後ろもエアーボリュームと同化しているからです。 これこそがオートグラフ独特の再生音を生みだす源であり、入力信号に対して極めてスムーズなリニア特性を持つことにもつながっているのです。 これらの特性は、オートグラフが動作し始めると、瞬時に室内のエアーボリュームはエキサイトされ、室内全体を音圧で揺することが出来るのです。 オートグラフの真の力とは、いわばエアーボリュームと対峙せず、親和力を持って引き合い同化によってその力を発揮しますが、不思議なことにオートグラフに関しての過去の文章では、この様な事は一切語られず、ただ銘器であるとか、唯一無二の存在であるとか褒め殺した記述がほとんどで、これではオートグラフもさぞ困っているのではと私は思います。 オートグラフに対しての記述は、この辺りで留めておきます。 これ以上書くと恐ろしく長文となり、結果としてもう一つのコーナー型スピーカーの雄であるクリップッシュ型についても言及しなければならなくなってしまいます。 それはやがて書く事になる「俺の我慢もこれまでだ」シリーズの機器編の方に回すことにします。   つづく
以上T氏


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