2010年07月15日

スピーカーの無共振思想と共鳴思想-2

共鳴型スピーカーについて述べてみたいと思います。 共鳴型のスピーカーの代表はオートグラフですが、実はこのオートグラフや、同じくコーナーホーン型であるクリプッシュ型等は、皆様が思っているほど共鳴体としてエンクロージャーが鳴っているわけではありません。 むしろ鳴かないと思った方が良いでしょう。 それは共鳴体としてエンクロージャーが働いてしまうと、ホーン臭さが発生してしまうからです。 きちんと鳴ったオートグラフやコーナーホーン型スピーカーは、本来ホーン臭さは発生しにくく作られています。 オートグラフや、クリプッシュホーン等を楽器とみなすことも過ちであると示しています。 その理由は、楽器と言うのは固有の音色を持つものであり、ピアノはピアノであり、ヴァイオリンはヴァイオリンであるからです。 オーディオ用スピーカーはあらゆる音を再生しなければなりません。 従って楽器ではなく、その構造と働きにおいて反楽器的なものなのです。 私自身二台のGRF型キャビネットを製作して、いかに板材を鳴らさないか、正確にいえば共振振動をしてもそれを素早く流すかに心を砕いたのです。 スピーカーユニットを楽器とするのも誤った考えで、ハイフィデリティ、Hi-Fi用スピーカーユニットは本来オーディオ再生専用品であり楽器として使う場合、同じモデルであっても、PA用、ギターベース、オルガン用等のものは楽器として扱われますが、その場合は専用のアンプリファイアーで駆動されるのが常です。 スピーカーの中にはユニバーサル型のものがあり、どちらに使っても良いタイプもあります。 例えば米国EV社の古いモデルや、ロンドンウエストレックスのウーファー等は、オーディオ用にも、PA用にも使えますが、それは一説によればコーン紙が楽器用の物を使っているためで、この様な例は米国の古いビンテージウーファーにもしばしば見かけます。 一見、共鳴型に見えるオートグラフやクリプッシュホーンが、実際は共鳴型として聞こえてきます。 その原因は音の豊かさにあることは確かなのですが、何故そう聴こえてしまうかと言えば、ホーンによって増長拡大された音がそのエンクロージャーの大きさと重なって大きな広がりを持って、私達に届けられるからなのです。 ホーンの内部に圧縮された音が、開口部で拡張される際の空気のダイナミックな動きに働きの源があります。 ホーン内部と開口面との音の圧縮と拡張比率という点からみて、オートグラフ、GRF(バックロードではなくリアローディング型)やクリップシュ型等ではそれぞれ異なります。 オートグラフの場合、低音ホーンはエクスポテンシャルホーン型で、コンプレッション率はクリップシュ型のように急激に圧縮を掛けたものではなく理にかなっています。 クリップシュ型のように、リジットにホーンの内部を強固とする必要があまり無く、鳴く所と鳴かない所を上手く組み合わせて作られています。 それを可能としたのは、オートグラフの構造が室内エアボリュームとうまく折り合いをつける設計になっているからです。 オートグラフの場合、GRFやクリップシュホーン等に時々聴かれる音詰まり現象はあまり発生しないのです。 だからと言って大出力アンプで押す鳴らし方が良いのではありません。 この様なことをすると低音はますます出なくなりますし、たとえ出たとしてもそれは真実の低音の姿ではなく、低音の影に過ぎません。 オートグラフとは信号の質に反応するスピーカーであり、量で押すタイプではないのです。 クリップッシュホーンやGRFにきく音詰まり現象の原因はホーンの内部で音が圧縮過多となり、音がつぶれてしまうことにより起こります。 それが発生するのは、大出力アンプで不必要なパワーを入れた時か、レコードプレイヤーがこれらのスピーカーを動かすに足りる質の良い信号をアンプリファイアーに送り込めない場合に発生する現象です。 GRFの場合、内部の空気室と音道の間にあるイコライザーが、GRFのホーンを正常に働かせる以上に過大な信号が送り込まれる時働いてしまうからです。 音道は音抜け状態となり、低音ホーンとしての役割を果たさなくなります。 GRF型システムは、オートグラフのように自然に音量が増加していくものではなく、ある程度の音量でスピーカー自体の音圧は上昇しなくなります。 それは欠点と言うより、ホームPAとして開発されたオートグラフと、ホームユースとして用いられたGRFの性格の違いにあります。 この弱点はきちんとしたレコードプレイヤーとアンプリファイアーを用いれば、その限界を押し広げることは充分可能であり、その方法のひとつは同時代の英国製アンプリファイアーや、レコードプレイヤーを用いれば良いのです。 もちろんTD124でも良いのですが、初期型モデルではよほど注意しないと低音過多になる可能性があり、GRFであれば2万番代のメタルスピンドルモデルで充分ドライブ出来るはずです。 GRFの音抜け現象は音道の共振とセットになっているということ、イコライザー部から徐々にフレアー間口に向かって自然に進んで行くべき音が音圧的にランダムとなり、しばしば大きな波長で音道のしきり板を共振させすぎてしまう現象を招き、結果的にホーン開口部から特有のノイズ成分を作りだして放出してしまう問題が起こり、ホーン臭い音となって再生されます。 GRFもオートグラフと同様、送られてくる電気信号の質を問うスピーカーなのです。 クリップッシュ型はどうかと言えば、その構造自体は特大のAR型といえ円部にAR型のスピーカーを組み込んでエアボリュームを圧縮してホーン開口部に送り出しています。 従って内部の空気圧はかなり高めであり、必然的に厚みと強度のある木材が必要になってきます。 クリップッシュ型は、本家のクリップッシュと英国ヴァイタヴォックス社のもの、EVのパトリシアンが代表的なものであり、その構造の差異はまさに三者三様で、本家の物は比較的響きやすく作られていますが、ヴァイタヴォックスはかなりソリッドに作られています。 EV社のモデルは数種類あり、中でも最終型の800型は、このモデルのAR的な性質を極限まで推し進めたものです。 これらのスピーカーが本当にその力を出すと、一瞬スピーカーの中に空気が吸い込まれ、あたかも室内エアボリュームが真空になったかのような感覚を覚え、それが解放される時、強力な圧縮効果で強大な音圧がリスナーに迫ってきます。 それを可能にするのは何よりエンクロージャー内部が、エアコンプレッションに耐えるだけの強度が不可欠であり、同じく頑丈なオーバーダンプウーファーが必要になるわけです。 ホーン型の特徴でもある音の飛びは、アルテックのA7、A5等と比べると明らかに落ちますが、代わりにホームユースに用いればプラスにもなり得ます。 このモデルに使われるスピーカーユニットは業務用のものが多く、そのまま使用するとPA的になり兼ねないのですが、それを上手くホームユース的な音とするには、あまり音が飛ぶことはよくないからです。 さらにクリップッシュ型がPA的にならないのは、低音ホーンの上部にある高音ホーン用のカバーにも秘密があり、本家のクリップッシュホーン型は古いモデルでは、コンプレッションドライバーのホーン部は木製の物を使用しており、木製のカバーでふたをすることにより響かせて音を柔らかくしています。 ヴァイタヴォックスの場合は上部のカバーが一つの音響ルームとなっており、再生音が跳ね返るのを押さえながら適度なエコーをかけています。 総じてこのモデルの特長は響かないソリッドな低音ホーンと、割合響きのある高音部を上手く組み合わせたものです。 この高音部にある程度の響きを与えることを最も積極的に行ったのがパトリシアン600で、折り返し型のコンプレッションドライバーホーンを、木製ホーンにぶつけて反射させたりしています。 
さて、オートグラフやクリプッシュ型が共鳴型のスピーカーでないとすれば、真の共鳴型のスピーカーとは1950〜60年代にかけて作られた英国の反射型スピーカーがそうではないかと思えます。 その理由としては反射型の場合、コーナーや平面の壁に向かって音をぶつけ、良好な再生を得るために低音は、リスニングルームの空間に漂っていなければならず、音の指向性として中高音は壁面に反射し拡散されるが、低音は中高音の様には飛ばず、反射音と低音を合致させるには、エンクロージャーボックスを共鳴させ、それにより低音の複射率を上げなければ不自然な音になってしまうからです。 つまり視聴覚的に室内エアボリューム中に低音が漂ったうえに、中高音が乗って空間でブレンドされなければならないのです。 それを可能とするには、ひとつのユニットでまかない、スピーカーユニットに対してある程度の大きさと、共鳴作用のあるエンクロージャーが必要になってきます。 英デッカアーク型スピーカーはまさにその実例です。 もう一つの方法は、複数のユニットを用いて中高音のみならず、低音までも一緒に飛ばそうとする方法で、これはジョーダンワッツのステレオラなどがこれに当たると思います。 無共振思想の本質がしばしば利用する側により歪められてきたことが判っていただけたでしょうか。 実の所は無共振思想をもっとも良いとする人には、共鳴型のスピーカーは作れず、それは共鳴型のスピーカーを作るには、何より共振がオーディオにおけるスピーカーにとって、どれだけ有意義なものであるか知っていなければ出来ないものであり、共鳴型のスピーカーを作れる人は無共振型スピーカーを簡単に作れるのか、それは共振、共鳴をオーディオでは悪であると決めつけてしまっているから、無共振派には作れないということなのです。 共鳴型は言うには及ばず、部分的には反共鳴的なオートグラフやGRF、クリプッシュ型等もまた然りで、オーディオの性質を知らなければ作ることが出来ない代物であり、ソリッドなキャビネットに単に振動を起こすエンジン然としたスピーカーユニットをアッセンブリーしたものとは比べようもなく知恵と芸が要求されるのです。 共鳴方はステレオ時代になって、ほとんどその姿を消すことになります。 その原因はステレオを特に中央で聴く場合、定位をピンポイント化しなければならず、その為には二台のスピーカーを同じ物にすべきという思想が支配したために、スピーカーが完全に工業製品として製造されることになったからです。 反面、オートグラフや、クリプッシュ反射型共鳴スピーカーは完全に手工芸品であり、二台共同じに作ることは至難の業で、このタイプは、ステレオ時代には次第に消えて行くこととなります。 しかし、当時とはまた別の意味を持って再び蘇ってくるのではと私は思っています。 現代型スピーカーがあきらかに二台のスピーカーでステレオ再生を行うことについて、ある限界点に達しつつあり、エフェクト過剰の音場は何処か古い反射型スピーカーと似た音場が表出されるのを私はしばしば聴くことがあるからです。 その再生音は、明らかに古い反射型スピーカーの自然な響きとはかけ離れ、質的に良いとはとても思えないアンプリファイアーの大出力に頼った質ではなく、量によって押すということにあると思われます。 我国のオーディオ、特にリニアHi-Fiは、スピーカーの中央でステレオは聴くべしという固定観念があり、それがアナログオーディオを窮屈なものとしてしまいました。 それを支えたのが無共振的な思想であり、何事もがっちりとリジットが良しとする安易な思想によりオーディオを台無しにしてしまったのです。 アナログレコード再生とは、極めて単純な原理と動作で成り立っており、仮にそれを深いと感じるなら、好言麗色の言動に惑わされ本質を見失い、ただ表層に現れる現象の色によって判断をもてはやしているに過ぎません。 見えざればすべて幻であり、オーディオでは、何より再生される音の音楽性の是非により決められるべきもので、良い物は良いの一言で本来は片がつく性質のものであり、言葉によるイメージの空虚な表現は、今日のオーディオでは何より排除すべきものです。 この項終わり
以上T氏



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