2010年07月18日

現代スピーカーについて-2

スピーカーエンクロージャーの仕切り効果
現代スピーカーとかつてのスピーカーを比較すると、現代スピーカーは、かつてのスピーカーボックスにあたるものは存在しないことが一番の相違点でしょう。 バッフル自体が無いので、スピーカーボックスで前後の音を切ることが出来ません。 現代スピーカーのバッフルらしきものは、単にスピーカーユニットを取り付けるための最小のものに過ぎず、バッフル効果などは無いのです。 そればかりかエンクロージャーの後方側をそぎ落とし、前の音と後ろの音を出来るだけ早くブレンドしようとしています。 レコードを聴くためのスピーカーではなく、硬くきつい音で散文的なサウンドを空間にまき散らすため、CD専用と言っても過言ではありません。 かつてのスピーカーが重視した前後の再生音の鑑賞のもたらす位相ずれ等は存在せず、ただ空間に充満させてガス化した再生音があるのみです。 バッフルの役割として、音圧レベルの向上のためであるとか、音の放出力を上げるためもありますが、重要なのはいかに位相を人間の聴覚に不自然にならないようにするかなのです。 スピーカーボックスに組み込まれるユニットの性格により、それは決定されますが、かつてのスピーカーの放出される音前後のパーセンテージは概ね、前7後3くらいが大体の標準で、当時のレコードもこれを基準にして制作されたと考えられます。 これを現代スピーカーで聴けば、音場構成は全く変わってしまいます。 それは現代スピーカーの前後の音の放出がかつてのスピーカーとはまったく逆の前3、後7くらいになっているからです。 かつての大きめのバッフルを持つスピーカーは、前方に放出される音がリスナーにはリアルに音楽を感じられ、バッフルを持たない現代スピーカーはいつまでもバーチャル的な存在であり続けるのです。 このようなテレビジョン的なスピーカーを代表するのが小型でスタンドにより空間に置き去りにされたような置き方のモデルであり、その再生音に関しては、空間にぽっと音が浮き出るなどと評論されたりしていますが、果たして現実にそのような音が存在するとは、私にはどうしても思えません。 従ってこのような評価の意味する所は、このタイプのスピーカーの音が完全にバーチャルであることを証明するもので、ここには音楽の持つ固有の存在感がありません。 こうした再生音を聴くと、かつての実験的な映画ウォルトディズニー制作のファンタジアを思いだします。 ファンタジアは多チャンネル、多重音場、ステレオ再生を行った初めての映画でした。 音場自体はあくまでバーチャルなものであり、それはアニメーションというもう一つのバーチャルとの同一性を図ったためでした。 でもそれ程不自然に感じた映画ではなかったのです。 これを二本のスピーカーで行おうとすると、大変不自然になりかねません。 しかし現代のスピーカーはバーチャル性という点で、かつてのファンタジアと同様のことをしようとしています。 そしてこの様なバーチャル性をさらに推し進めるとするならば、最後は左右二本づつのスピーカーが必要になります。 エンクロージャーのバッフル効果については、もう一つ、フロントバッフルのエッジ部のフロント側の音の切り口が、左右の定位に影響を与え、定位のシャープさ(つまりフロント側のリア側への音の廻り込み効果による仕分けが、さまざまな音楽成分による位相補整の明確な形をとった時に発生する定位の安定)において、かなりの役割を担っているのです。 DSC_0001-1現代スピーカーもさまざまな工夫を凝らしていますが、かつてのスピーカーのように音を切るより、廻り込みの可変と遅延を重視しているように思えます。 この可変と遅延効果を、グレイのオフィスにある60年代に製作された仏SUPRAVOX社製の円球スピーカーを例に上げて説明してみます。 このスピーカーを壁から離して設置すると、バッフルのあるスピーカーに比べると後方の音は案外聴こえないのです。 これは球型であるため、キャビネット自体の振動が全方向に一斉に進み、音を切ると言うバッフル効果がありません。 そのため前後の音の時間軸の差が聴覚的には聴こえません。 ところがこのスピーカーを壁に近付けたりコーナーに設置すると低音が急にわき出てきます。 音の廻り込みが球型であるため恐ろしく早く、音の時間軸が設定する以前に空間に放出されてしまうからだと思いますが、それが壁やコーナーに近付けると急に低音が出現するのは、その音が逃げて行かず再度戻ってきてそれにより前に放出された音との時間軸が確立され、聴覚的に聴こえてくると考えることができます。 この様な効果が得られるのも前方に音を放出するエネルギーが強力であるために起こり得るのです。 この低音の廻り込みに力を発揮するのがバッフル面で、バッフル自体が振動することにより、指向特性的に方向性の無い低音を前方に放出するよう方向づける役割を果たしており、それが前後の音像定位や左右のチャンネルセパレーションの鮮やかさで定位の安定に繋がっているのです。 それはオーディオにおいて、低音の方向付けをいかにするかにかかってきている訳で、エンクロージャーのフロントバッフルの役割は、かなり大きいと考えられます。 この項おわり
以上T氏


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