2010年10月01日

英コニサー・クラフツマンTYPE-A 最終後期型

青灰色ハンマートーン塗装で仕上げられた美しいシャシーを持つ本モデルは、Aタイプモデルとしてはおそらく最終型で、製造年代は1957年頃からであると推測できます。 最大の特長は、今までのモデルでは不可能だった回転数のバリアブルコントロールが可能となったことで、プーリーが三段式からテーパー状に加工され、アイドラーの高さ調整が行われることにより可能になったのです。 アイドラー機構は以前と同じ型ですが、アイドラーを支持するL字金物自体が回転選択部の中央に設けられたバリアブルコントロールのツマミを動かすことによって上下し、それに伴ってアイドラーがプーリーの接触面を動くことにより成されます。 同時にレストアで分解後の調整において、定回転性を得たうえ、それぞれバリアブルコントロールの効く範囲を設定し直さねばならなりません。 このAタイプ最終型は二台あり、外観上の相違はプラッター上のマットにストロボパターンが記された有無に過ぎませんが、モーター廻りはかなり違っています。 ストロボパターンの記されているものは、1957年製ということですが、事実1958年の英国オーディオカタログ本に確かに同じものが載っております。 ストロボパターンの無いモデルは、最終型以前のものと同様のゴムシートが使われていたようで、プラッター上面いっぱいに接着剤が残っていました。 従って本機に載っているゴムシートは、Bタイプやクラフツマン2、3型と同じものが付けられていて、仮にストロボパターンのあるものを1型、無い物を2型とすると、特長として1型は機構自体が以前のものに比べて、回転に対しての確実性が良くなったことが挙げられ、大変整理されており、レストア後の調整でも、確実に安定した性能を取り戻せます。 このモデルに関しては、モーター上部のロータースピンドルの入る所が丸くへその様に出っ張っており、そこにオイル注入口が設けられ、メンテナンス性も向上しています。 この円形のへそ部が設けられたことにより、ロータースピンドルシャフトは大変安定して回転し、ノイズ的にも有利となって、モーター回転時のロータースピンドルシャフト中心軸定点が定めやすくなったことも重要で、これがモーター自体の安定性を向上させています。  モーター本体も以前のモデルと比べると、格段に軽やかに回り、かつノイズ成分が減少しています。 モーターの脇には、このモデルになって初めて底部スラスト用のオイルチューブが設けられ、メンテナンス性も向上していますが、2型の様に簡単にできるものではなく、少しコツがいります。 底部円型スラストパッド部は、依然として真鍮製が用いられていますが、センタースピンドル底部のスラスト部は、金物からプラスチック製に改められています。 このプラスチックに関しては、コニサー社はニューナイロンと称してはいますが、果たしてナイロンなのかプラスチックなのか定かではありません。 2型モデルに関しては、1型が大変整理された機構を持っているのに対して、コニサー社の伝統的な変則的な機構に立ち返ってモーター下部の円型スラストパッド部が、メタルからニューナイロン製に改められています。 モーター上部のローターシャフトスピンドルの入る所は、黒色のプラスティックナイロン製となって、複数のネジでローターシャフトの動きをコントロールしています。 これはクラフツマン3と同じ思想によって作られたもので、このモーターはモーターシャシー上面の注入口から伸ばされたチューブがモーター下部の回転部にオイルを送り届けるようになっており、そのためメンテナンスが簡単に行えます。 本モデルは、スピンドル底部、モーター底部、上部全てにニューナイロンが用いられているのが最大の特長で、それによってAタイプの中で最も静かです。 しかし逆に言えば壊れやすいということでもあり、メタル製に比べて、発熱によってナイロンが変型してしまう可能性があるのです。 従って本機を使用されるには、完全なレストアとオイルの注油を怠ってはなりません。 この1型と2型が外観上は、ストロボマット以外はほとんど変わらないのに、なぜモーター周りがこうも異なるのか?推測するに、おそらく1型は、一般コンシュマーユースあるいは放送局の送り出し用として、2型は調整の複雑さとそれによって得られる再生音の可変と言う点で、検聴用として作られたと考えられます。 P5060716
1型はレストアを終えたばかりで、キャビネットも無くアームも付いていないので、試聴は2型で行います。 この2型に付けられたアームはコニサー社のもので、カートリッジはM44。 まずレンジの広さが特長的ですが、必ずしも可聴外に伸びて行くというものではありません。 きちんと同波数帯域を捉えながら的確に音の形を現しつつ、音の意味する所の真意を探り、かつ深みのある響きを表出します。 この音を誰がM44だと思うでしょうか、音と音楽というものを、良く知りつくした人間が知恵を傾けて作ったレコードプレイヤーが、どのくらい素晴らしいものであるかの証明書を見る思いがします。 特にオーケストラにおける中音域の表現力は格別で、内声部の動きは指揮者が、指揮台の上で聴く音に近いように思います。 この音と同じ音を私の友人が所属するアマチュアオーケストラのリハーサルで聴いたことがあり、その時の音はこの2型の再生音とそっくりだったのです。 その音はリニアHi-Fiのリアル再生の音ではなく、あくまで聴き手の心の奥で感受出来る音であり、直栽性の意味するところ自体、リニアHi-Fiの再生音とは雲泥の差があります。 それはリニアHi-Fiとグッドリプロダクションの相違でもあるのです。 ボーカルものでは妙な生々しさ、それは現実の音であるより情感によるものですが、音の実在感自体が揺れるという効果を発生し、それによってボーカリストの精神状態や表現が不思議な艶やかさと立体感で現れてきます。 一言でいえばやや変態的で、少々気味悪くもあり、おそらくガラード301等を英国の音と思われている方は、ビックリされると思います。 しかしこれは紛れもなく英国の音であり、この様な音は正しくリビルトされたハイフィデリティ、Hi-Fi全盛時の英国製品に共通の良い音ではなく、「良き音」なのです。
この項おわり
以上 T氏


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