2012年03月21日

別格のTD124 Mk.2 90000番台を検証する

最近スイスより入荷してきたTD124Mk.2。 分解作業していても何か今までのものとは感じが違う。 シャシーやパーツ類の手触りが全く違う。 通常のTD124Mk.1、Mk.2の場合連続して作業をしていくと手の温度によってパーツやシャシーはほんのりと温かくなってくるのですが、この個体はあくまで冷たい金属というよりガラス的な触感が感じられ、ひょっとしたらこいつは何かとんでもない音が出るのではという予感が走りました。 さらにこのモーターが凄い。 RIMG0381ハウジングケースの材質が今までのMk.2より数段硬度が高く、型ヌケの精度も大変良い。 ローターもまた同様で、組み上げた時の上下のギャップが小さい。 これは、Mk.1の初期型のごく一部に見られる現象で、どこかスタジオ仕様に近い。 アイドラー保持金具がきっちりと作られて、音の通りが良くなっている。 この個体の特徴の意味する所は、まず各パーツの音の通りを良くし再生音のハイスピード化を図っている。 Mk.1初期型のようなパーツ類が適度な内部損失を持ち、一時的に振動を蓄えたのちに放出するという手法とまったく逆の位置にあります。 Mk.1は各パーツの振動は曲線的であるのに対し、この個体は直線的に働いていると考えられ、各パーツの形状によって直進的に進み、交点の角度(接合部)において各々の進行角を得るということになります。 こうした特長を持つ90000番台をいかにレストアするか、方向性としては再生音は拡張形に持って行った方が効果は上がり、完全にステレオ対応形に仕上げることにしたのですが、問題は本機に組み込まれているのが鉄製プラッターで、本機のように著しく能力の高いものはアルミ製の方がベストに近いのです。 そこでまず、非磁性体プラッターを使うことを前提とし、アルミ製プラッター入手にもう一度チューニングを施すことにしました。 レストア終了後3日ほど連続運転を行い試聴に入ります。 例によってアームはSME、カートリッジはシュアM44です。 まず、鉄製プラッターを用いて聴いてみた所、最低音域と最高域が見事にすっぱり切れてしまいました。 通常Mk.2ではこの様なことは無く、本機に起こるのは再生周波数帯域がかなり伸びて発生してしまうためです。 次に非磁性体プラッターに交換してみました。 今度は何の問題も無く綺麗な音が伸びたのですが、幾分どころか相当ハイ上がりに聴こえてしまいます。 初めは再生周波数のバランスが偏っていると思ったのですが、注意を払って聴くと低域は充分伸びを示しており、時々充分以上の異常な伸び方をしていました。 本来この位の低音が出ていればハイ上がりには聴こえません。 低音域がかたまらず完全に分解して、そのため高音部がむき出しになっていると感じられることが判ってきました。 この感覚は、あまり良くお判りにならないかもしれませんが、私達が低音を感じるのは、ある程度音のかたまり、量的、質的にある形を取った時に初めて聴き取ることが出来るので、本機のようにあまりにきれいに低音部の音が分解されてしまうと量感として感じることができにくいのです。 しかし、これがプラスに働く場合は物凄い力を発揮します。 例えばオーケストラ再生において、全帯域に渡って押してくる、あらゆる音を道連れに聴き手に迫ってきます。 こんな音をトーレンスで私は聴いたことがありません。 通常のトーレンス、またはスペシャルチューニングを施したものであっても、普通、低音が厚く広がり、その上に中高域がのるピラミット型が常で本機のように上も下も真四角で音が迫って来ることはなく、さらに本機の再生音の本質がTD124の常ではないのです。 トーレンスの最も良い所は、スイス人の精密精巧さが顕れたところにあり、音の傾向は時代によりまたは個別にスイス的、フランス的、ゲルマン的になったりします。 本機の再生音は驚くことに私達がイメージする古代ギリシャ的というかアルカイックなのです。 地中海の青く澄んだ音と言っても良いかもしれません。 こんな音は今までのトーレンスではあり得ない音で、フォルムはイタリア・ルネサンスのダビデ像のようにキリリとした形がでます。 しかも音がとても若い。 この90000番台Mk.2は恐らく設計者が若い人に変わり、彼の頭の中には幻に終わってしまうであろうMk.3の音があったのではないか、そしてMk.3の音の形を確かめようと試み、Mk.2の音の限界点を確認してみたい。 技術者であれば当然考えることで、次世代のものを作ろうとすれば以前にあるものの限界を極めておくことは必須です。 こう考えると、本機がMk.2を超えてしまう音を出したとしても不思議ではありません。 これはあくまで私の仮想であり、本当の所は判り得ませんが、現実に目の前にある90000番台のMk.2は一体何者なのか謎です。 その謎ゆえ、本機の別格性があると思われます。 実験から10日ほどたった時点でハイ上がり現象はほとんど消えておりますが、今度は音がとても怖いものになり、夜一人で聴くのはマズイかもしれません。 この怖い音は本来モーターのエネルギーがマイナス化した時に発動するものなのですが、本機の場合マイナス型というより、ニュートラルタイプと言った方が良く、ノイズの整流作用には本来あまり働かないタイプのモーターでした。 それで何故マイナス型モーターの様な効果が出るのか私には何となく理解し得ますが確証には到っていません。 つづく
以上T氏


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