2012年03月25日
別格90000番台Mk.2最終形態
前回の記述から10日ほどたった頃アルミ製プラッターが入荷し、非磁性体プラッターと交換してみました。 その際モーターの再調整を行う必要が生じました。 何しろこのモータートルクは強力ですが、少々ローターのランブルが発生していました。 非磁性体プラッターを使う限りでは質量によりダンプされ、再生音にはあまり影響が出ません。 アルミ製の場合は、質量の性質も材質も異なっているため、ローターのランブルがそのままダイレクトに出てしまうのです。 このモーターは軸受真鍮製金具(ピーナツ)を、パラシュート固定バネを強く張らせて半固定化(というより、ほとんど固定)しているため、ステッププーリーとモータープーリー間のベルトのテンションによりローターが引かれ、結果としてローターシャフトがピーナツにあたり浮き上がってしまっていました。 こうなるとローターの中心点が定まらずランブルが起きてしまうのです。
これがトーレンスTD124本来の自動調芯機能に則って組まれたものであれば、ピーナツがローターの動きに合わせて自動追従するので、ランブルもノイズの発生も小さくて済みます。 しかしこれではピーナツがローターシャフト軸の暴れを防ぐことが出来ず、中心点が曖昧になる傾向があり、シャッキリした音が出ないし長期安定を保つことも難しくなります。 この手法は全てのTD124に有効とは限らず、モーター自体の完成度の高さがキーポイントであり、選ばれたモーターでなければ果たせません。 本機のモーターも選ばれた、しかも別物のモーターであったので、ピーナツはかなり強固に固定してみました。 調整は、まずランブル、ノイズの発生に係わらず運転し続け、モーターのランブルの具合を見ながらモーターの外側を木槌で叩いてローターシャフトを呼ぶ、作業の間、常にローターは浮かぼうとしますが、ローターシャフトとピーナツの間のギャップの値が完全に平行、均一になった時ローターは下りてきます。 こうするとローターはベルトのテンションと整合し、ピーナツの中心点で回転するようになり、ローターシャフトはほとんどピーナツに接触せずフリーに動くことになります。 これによりランブルもノイズもきわめて少ない静かで力強いモーターが出来あがるという筋道をたどりますが、この調整でモーター自体の発熱は結構出ます。 場合によっては熱変形によりベルト1本ダメにすることもあります。 本機の場合も調整には3日かかりましたが、1本目のベルトは熱で変形してしまいました。 わたしたちが販売するTD124の価格が比較的高いのは、こうした作業を経て完成されるからです。 皆様はどう思われているか判りませんが、私は格安だと思っています。 私のレストアするTD124は製品ではなく、作品だからです。 価格を決定する最も大きな要素は、TD124の働きによって決定されています。 この様な工程を終えて完成した別物のMk.2の再生音はどのように変わったかと言えば、非磁性体プラッターの音とはまったく別物となりました。 再生音においては音の形が消失し、音楽がそのまま出てくる、この現象の意味する所は、私達が通常良い音と常識的に定めているのは音の形がはっきり見える(別の言い方をすれば、聴き手が理解しやすいように)というものが優れた音と考えられています。 果たして音楽というものがそもそも音の形を有さないと認識され得ないものであるか、そうではないはずです。 音が音楽的な深みに達しようとすれば音の形は音楽の働きに沿って変化しなければならず、本来音楽における音の形は不定形でなければなりません。 再生において音の形を意識するようでは音楽の深いところまでは現してはくれないはずです。 この音の不定形が出てくれば、当然、非磁性体プラッターで聴かれたスクエアで押すという音場性は後退してくることになり、その結、基音のデプスの表現が格段に上がってきました。 さらに良く聴いてみると、この音にはちょっと不思議な所があります。 ほとんどのTD124は音を立体円形として表すのですが、本機の再生音はあまり見えてこない、そのかわりこちらに向かってくる、音の後ろが真空化されているように思えてくる。 その真空が聴き手の耳を引っ張りこんでしまう。 つまり、聴く人の意識が音の後ろに回り込んでまるで音楽の内側に入ってしまうような感覚を生じます。 内側に引き込む力はEMPORIUMにもありますが、EMPORIUMの力が多分に魔術的なものであるとすれば、本機の音は何の衒いもなく自然に魅かれてしまう。 気が付いた時は音楽の内部におり、聴き手はあたかももう一つの自分がその内部に存在しているような妙な錯覚を覚えます。 さらに本機の再生音の凄いところは、雑味を聴き手に意識させず、それでいて音楽の持つ人間的な温かさを出してしまう。クリーンな音でありながら決して人間の感情を忘れない。 あまりに音の表情が変化するので、聴いていてとても面白い、こんな面白い音を出すレコードプレイヤーにはそうそうお目に掛れるものではありません。 つづく
以上T氏
これがトーレンスTD124本来の自動調芯機能に則って組まれたものであれば、ピーナツがローターの動きに合わせて自動追従するので、ランブルもノイズの発生も小さくて済みます。 しかしこれではピーナツがローターシャフト軸の暴れを防ぐことが出来ず、中心点が曖昧になる傾向があり、シャッキリした音が出ないし長期安定を保つことも難しくなります。 この手法は全てのTD124に有効とは限らず、モーター自体の完成度の高さがキーポイントであり、選ばれたモーターでなければ果たせません。 本機のモーターも選ばれた、しかも別物のモーターであったので、ピーナツはかなり強固に固定してみました。 調整は、まずランブル、ノイズの発生に係わらず運転し続け、モーターのランブルの具合を見ながらモーターの外側を木槌で叩いてローターシャフトを呼ぶ、作業の間、常にローターは浮かぼうとしますが、ローターシャフトとピーナツの間のギャップの値が完全に平行、均一になった時ローターは下りてきます。 こうするとローターはベルトのテンションと整合し、ピーナツの中心点で回転するようになり、ローターシャフトはほとんどピーナツに接触せずフリーに動くことになります。 これによりランブルもノイズもきわめて少ない静かで力強いモーターが出来あがるという筋道をたどりますが、この調整でモーター自体の発熱は結構出ます。 場合によっては熱変形によりベルト1本ダメにすることもあります。 本機の場合も調整には3日かかりましたが、1本目のベルトは熱で変形してしまいました。 わたしたちが販売するTD124の価格が比較的高いのは、こうした作業を経て完成されるからです。 皆様はどう思われているか判りませんが、私は格安だと思っています。 私のレストアするTD124は製品ではなく、作品だからです。 価格を決定する最も大きな要素は、TD124の働きによって決定されています。 この様な工程を終えて完成した別物のMk.2の再生音はどのように変わったかと言えば、非磁性体プラッターの音とはまったく別物となりました。 再生音においては音の形が消失し、音楽がそのまま出てくる、この現象の意味する所は、私達が通常良い音と常識的に定めているのは音の形がはっきり見える(別の言い方をすれば、聴き手が理解しやすいように)というものが優れた音と考えられています。 果たして音楽というものがそもそも音の形を有さないと認識され得ないものであるか、そうではないはずです。 音が音楽的な深みに達しようとすれば音の形は音楽の働きに沿って変化しなければならず、本来音楽における音の形は不定形でなければなりません。 再生において音の形を意識するようでは音楽の深いところまでは現してはくれないはずです。 この音の不定形が出てくれば、当然、非磁性体プラッターで聴かれたスクエアで押すという音場性は後退してくることになり、その結、基音のデプスの表現が格段に上がってきました。 さらに良く聴いてみると、この音にはちょっと不思議な所があります。 ほとんどのTD124は音を立体円形として表すのですが、本機の再生音はあまり見えてこない、そのかわりこちらに向かってくる、音の後ろが真空化されているように思えてくる。 その真空が聴き手の耳を引っ張りこんでしまう。 つまり、聴く人の意識が音の後ろに回り込んでまるで音楽の内側に入ってしまうような感覚を生じます。 内側に引き込む力はEMPORIUMにもありますが、EMPORIUMの力が多分に魔術的なものであるとすれば、本機の音は何の衒いもなく自然に魅かれてしまう。 気が付いた時は音楽の内部におり、聴き手はあたかももう一つの自分がその内部に存在しているような妙な錯覚を覚えます。 さらに本機の再生音の凄いところは、雑味を聴き手に意識させず、それでいて音楽の持つ人間的な温かさを出してしまう。クリーンな音でありながら決して人間の感情を忘れない。 あまりに音の表情が変化するので、聴いていてとても面白い、こんな面白い音を出すレコードプレイヤーにはそうそうお目に掛れるものではありません。 つづく
以上T氏