2012年04月01日
番外編 TD124とReference
20年以上前のこと、アキフェーズのアンプにJBLのスピーカーを接続し、トーレンスリファレンスの音を聴いた。 多少高域が細いとは思ったが、なかなかものだったと記憶している。 ところが最近同じリファレンスを聴く機会があり、開いた口がふさがらなかった。 以前聴いたリファレンスの面影は全くなく、言葉は悪いが木偶の坊だった。 アンプリファイアーもスピーカーも今日の水準以上どころか最上と言える品であったにもかかわらずである。 アンプとスピーカーが悪い! 確かに性能的にはリファレンスが誕生した時代より遥かに向上しているかに思えるが、それ以外は悪化の一途をたどりもはや何物をも期待できない。 あまりにSN比やノイズを消すことに注意を払い過ぎた結果、音楽を洗い流してしまったのです。 SN比やノイズ消滅のみ念頭に置くと音楽はシミにしか思えなくなってくる。 シミは汚れであり、汚れは洗い流さなくてはならないと製作者は考えたのでしょう。 商品として売ろうとすれば仕方ないことかもしれないが、一方でリファレンスというレコードプレイヤーの本当の姿を示したと考えられる。 リファレンスはアンプにもスピーカーにも何も働かず、カートリッジの奴隷でしかない。 従ってカートリッジが高級になればなるほど良いサウンドは出る。 しかしリファレンス自体がレコードとカートリッジに対して何も働かなければ、カートリッジの音色垂れ流しのただの回転するレコード台に過ぎず、再生音は美しいサウンドのみ再生されることになる。 リファレンスが誕生したころはそれで良かったかもしれないが、TD124の音を聴いてしまった今日ではどうでしょう。 時代遅れどころか、時代にはじかれた品と感じられてしかたがないのです。 一体、トーレンス Referenceというレコードプレイヤーとは何物か? すでにTD124を作っていたころのトーレンス社と違いEMT/FRANZが製作したもので、実体はEMT930、927のベルトドライブ版と見るべきでしょう。 これはリファレンスに興味ある方ならどなたでも知っていることですが実験機、テスト台用の品であり、そうであるならリファレンスというレコードプレイヤーはコンシューマユースのレコードプレイヤーのように、聴く人に音楽の楽しさや喜びを与える力は存在しないことになる。 EMT同様、コンシューマユースに使った場合、つまらない音しか出ない代物で、そのつまらなさこそEMTやリファレンスの特長なのです。 業務用機(特にEMT)は使う人はオーディオをビジネスとしているのでそれで良いが、家庭で音楽を楽しむ人は違います。 楽しいか否かは問題ではなく、正確な音さえ出ればそれでよし、ですからリファレンスをホームユースで使えばつまらない音が出て正解で、音楽的な感動等を本来期待してはいけないのです。 しかしリファレンスを所有されている方はこのことを理解せず、これだけの金額を払ったのだから良い音が出ているはずと無理やり思いこもうとして、内心では?マークが点灯していても無視してしまう。 当然誰しも現実は直視したくない。 オーディオはお金をかけても上手くいくとは限らない。またはオーディオはお金をかけた方が上手くいく。この二つの声の間を所有者は行ったり来たりと穏やかではいられない。 これは良い音、音楽を、聴きたいというユーザーだけに起こることで、ハイリスク、ハイリターン的なリニア思想にどっぷりつかった方にはこの声は聞こえないのです。 さて、リファレンスの仕様と構造を眺めていると、米国エンパイア社が1960年代に発売したMODEL398Aにそっくりとは思いませんか。 さらに398Aを調べてみるとモーターは同じ西ドイツ製、リファレンスの外側の防振用の部位をすべて取り外し、回転系部のみを裸にすれば398Aとほとんど変わりません。 となればユーザーは一体何に代価を支払っているのか、本体とは関係ないいわば動かないものに払っていることになります。 これはまるで不動産を買うみたいなものです。 私がリファレンスに対して疑念をいだくのは、コンシューマユースとしては何の力もない品をなぜETAG社(EMTと合併後のトーレンス社を私が名付けた)が販売したか? 以前のトーレンス社なら絶対にやらなかったことであり、事実TD124や135等は価格以上の音をユーザーに与えていたわけですから。 時代が変われば考えも変わる、当時のオーディオ関係者達が、勝手にコンシューマユースにおいて最高のものとしただけであるのかもしれません。 リファレンスが不幸なのは、1979〜80年代はアナログレコードの品質が最も悪化した時代の産物であり、レコードプレイヤーの時代と寄り添うあり方からもレコードの音が悪ければプレイヤーの音楽再生力も同じように悪化して当たり前だったのです。 TD124が生まれた時代は、戦前から戦後の長いモノーラル時代が最も輝きを放った時期であり、モノーラル再生からステレオに変わりつつあり、演奏家も綺羅星のごとくですべてが全盛でした。 ではリファレンスはどうか、たしかにアナログレコードは消え入る寸前の力しか残っていませんでした。 そしてTD124の時代と決定的に違うのは、新しい形のアナログレコードではなくデジタルCDが出現したことにより、リファレンスは旧アナログ・ステレオレコードとデジタルCDとの架け橋的な存在に陥ってしまった。 異なる方式のものを整合化する役目を負ったために、リファレンスは当時のアナログ・ステレオレコードをデジタルCD化するための翻訳器として働いてしまうことになった。 現代アナログプレイヤーが高価で性能の高いものほどCDの音に近づいて行く、最近よく聞く言葉です。 この現象は現代アナログプレイヤーが、かつてTD124が行っていたレコードの暗号解読器としての働きとはまったく異なる働きをしていることを示しています。 リファレンスというレコードプレイヤーは、今日へと続く現代アナログ・レコードプレイヤーのCDプレイヤー化現象を最初に示したと言え、その意味では先駆者的な製品でした。 しかしリファレンスのユーザーは、アナログレコードの真価を問うような製品ではないことを充分理解してほしいのです。 この項おわり
以上T氏
以上T氏