2012年04月14日
TD124アイドラーゴムの復元力
TD124のアイドラー接触面は乾燥など経年変化により断面に直角にひび割れが発生する特徴があり、これが使用により盛大なノイズを引き起こす原因です。 小さなものもあれば、使っているうちに次第に皮がむけるようにキレイになって行くということが起こります。 それはステップドプーリーとメインプラッターの動作における摩擦とモーターの熱によるアイドラーゴムのわずかな発熱が要因です。 124のアイドラーはモーターと離れており、それために調子が出るまで結構長い時間がかかることになる。 この現象を促進するものとしてTD124メンテナンスマニュアルには、アウタープラッターの側面に手をあてプラッターに負荷をかけ、アイドラー接触面に負荷をかける手法を載せています。 この作業は皮の下に新しい皮、真皮というものがあって、古い皮をむくことによって新しく接触面の表面に出てくることを想定しています。 人間の皮膚における新陳代謝に似ています。 しかし、この手法はアイドラーゴムに復元力あってはじめて可能なことです。 たしかに使用不可と思われていた品が使えるくらいに回復してしまうのです。 ちょうど地球の内部から噴き出てくるマグマの様な感じ、ややベトついた粘り気のある物質がアイドラーの接触面から湧出してきます。 この弾塑性体のようなものがトルクを生みだす基になっていると考えられます。 これと同じことを何年か前、コニサークラフツマン社のTYPE-Aモデルで目の当たりにしたことがあります。 2スピード、33/78回転、1950〜53年製造のもの、到着時78回転用アイドラーゴム接触面に結構大きなヒビが入っており、このままでは78回転は実用になりません。 その時、これがスタジオである一定期間使ったのちお蔵入りし、また使われているかもしれないと推理してみました。 だとするとアイドラーのヒビ割れも解消できるかもしれないのです。 アイドラーの位置がモーターの真上にあり、動作熱が上昇してゴムを柔らかくしてヒビ割れも人間の皮膚のように復元するかもしれない。 ひたすら回し続け、暇を見つけてはアイドラーゴムをベンジンで拭いていく作業の結果、3ヵ月程で接触面が平滑となり、ゴム特有のペッとりした感触が蘇ったのです。 ヒビ割れもほとんど無くなり、今では元気に静かにプラッターを動かしてくれています。 ヴィンテージ時代の人の知恵はたいしたものでした。 リニアHiFiがあれほど嫌っているモーターの発熱さえトルク増強に使ってしまう離れ業を考案してしまうのですから。 ヴィンテージ時代の人達が作り出したアイドラーのゴムの復元力というものを今日、TD124のアイドラー代替品に当てはめて考えてみると決定的に違うのはこのゴムの復元力の差なのです。 代替品あるいは後発品は使えば使うほど悪くなっていく、アイドラー接触面の新規更新が行われず、摩擦発熱によって次第に接触面のゴムが死んでしまうことにその原因があるのです。 が、TD124のモーターのトルク力が強力でなければゴムは死にません。 多くの未整備、ノンレストアのTD124では部外品アイドラーの欠点は出ていません。 何しろモータートルクが極端に落ちているからに他なりません。 例えばレストアするTD124のモーターは、定格100Vで10秒回転させたのち電源OFFにするとプーリーを取り付けたローターは25〜35秒ほど空転しますが、レストア前はくて20秒、最短は3秒で停止するものもあります。 このような力のないモーターではアイドラーに負荷を与えることはできません。 まして、回転に伴うノイズ等どうして発生させることが出来るでしょうか? 今まではこんな状態のTD124に代替品のアイドラーが使われていたのです。 それゆえアイドラーの品質は問われてきませんでした。 TD124のモータートルクがレストアによって増大し本来あるべき姿になると、代替品のアイドラーはとたんに馬脚を現し、レストアにおけるエージング期間中にアイドラー接触面の皮がむけ、突然トルクが落ちてしまったりします。 とりあえず研磨して使ってみても、すぐトルクが落ちてしまう。 この様な現象は純正品アイドラーではほとんど起こりません。 しかし、すべての純正品アイドラーが研磨によって生き返るわけではないのです。 あまりに傷んだものは寿命が尽きており、いくら研磨しても接触面の新陳代謝が起こらない場合もあります。 また出来不出来もあるし、経年変化やおかれた環境によって様々な影響が加わるとアイドラーの変質のバリエーションはきわめて多彩なものとなってきます。 つづく 以上T氏
英Connoisseur 社製TYPE-A アイドラーホイール
英Connoisseur 社製TYPE-A アイドラーホイール