2012年04月23日

新たな4万番台のTD124

観念というものは一旦固定されてしまうと、一種のフィルターとして機能してしまい、本質を正しく認識するのが困難になる。 
あまりに駄作めいたものが多いために4万番台の音はこんなものと、知らず知らずのうちに思い込んでしまう。 だが今回フル・レストアしたTD124Mk.1は今までの4万番台の固定観念を見事に吹き飛ばしてくれました。 それは太平洋のど真ん中であるはずの無い巨大な岩礁に遭遇したような感覚を覚えるようなものです。 ではどうして4万番台から、こうした見事な音が再生されるのか、書いてみます。

RIMG0609

まず、まず本機をスイスから入手した理由は状態がすこぶる良かったからです。 最近はプラスティック軸受けのエンポリウムモデルばかりだったので、たまにはリーズナブルで状態の良いモデルをレストアしてみようとスイスのオーナーから仕入れました。 4万番台ではありますが、TD124を購入しようという方の中には、必ずしも最高のものでなくても良い、気軽に使えるTD124が欲しいという方もおられます、そのような方のために時々は、保存状態の良いメタルスピンドルモデルも入れたりもするのです。 RIMG0604それが、いざ分解の段になると、いつもの4万番台とは様子が違うことが判ってきます。 トランスポート部に他の時代から流用した部品がまったく無く、パーツ自体の面取りが良く、角が鋭角に鳴っており、又素材自体も今まで目にしたものと違う。 されにモーターとなると、下部ハウジングが耐熱塗装に対し上部はシボ加工に鍍金風塗装という凝り様。 かたちも4万番台にしては少し角張っていて初期型を思わせるモーターの容貌、でありながら、素材はMk.2並に硬いハウジングなのです。 モーターを組上げた後にローターの精度が驚くほど高い性能を示し、その結果独特の回転性格とノイズの在り方を呈しています。 それは3万番台のモーターのように、電圧を徐々に上げていくとノイズ成分が波のように上下しつつ増えていくのでは無く、また初期型のようにノイズ自体が細かくある一定の電圧で一時増えるもののその後急速に静かになってゆくのとも違う。 本機のモーターは50VAC-100VAC間のノイズがほとんど変わることが無い、おそろしく冷静、いや冷酷とも見える特性を示しました。
これらの特長を統合的に見ると、この4万番台のモデルは何から何までパーツを新しく製造しなおしたと考えるのが順当なところであり、それを示すかのように、回転変換レバーのプレート文字が初期モデルと同じように鮮明に印字されています。 RIMG0612このプレート印刷は3万番台〜5万番台では、かなり色褪せてしまったものがありますが、これは字体も初期型に近い太文字で印字されています。 
これ以降のお話はあくまでも推測です。 PYRAL社との合併後、会社をとりまく状況も一段落し、3万番台に見られたパーツ類のバラつきもパーツの在庫の整理が進んだために改善されつつあった。 そこでTHORENS社は原点復帰をはかり、TD124として現時点で最良に近いものをと仕切り直した。 それが顕著に現れている本機の再生音はメタルスピンドルを用いた以前からのモデルが再生するメタル的(やや高域が硬く、中域の分解能が豊かさを失いがちになり、低音部では最低域のロールオフが早くかかる)というか金属臭さがまったく出ないのです。 TD124がメタルスピンドルを本格的に採用した2万番台後半のモデルが、ただプラスティックスピンドルがメタルに変わっただけで、音質面でメタルならではの独特の音というものが出ないことに、THORENS社技術者たちはフラストレートしていたのではないか。 確かに4万番台の本機の再生音は2万番台モデルのメタルスピンドルのかわりにショッパー社製超精密スピンドルを入れ替えた音に似ているけれど、より高尚な音が出ています。 超精密スピンドルを2万番台に組み込むと音の精緻さこそ抜群のものになりますが、えてしてHiFiくささが出てしまい、それが違和感となることがあり、結果的にプログラムソースのヴァリエイションに対する反応力にムラを生じてしまう。 本機の場合、2万番台にあるこうした現象を取り去った再生音であるというのが、レストアを担当した私の結論です。  以上T氏

TD124 40000番台 発売中




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