2012年05月04日
THORENS TD124 のちょっとした調整法
積年のTD124愛好家の中にはご存知の方もいらっしゃるだろうが、ちょっとした調整法をご紹介させていただく。
この調整法には条件がある。 アームとカートリッヂの調整(高さ、アームベースのネジ締めトルク、精確なアジマス、針圧、もちろんオーバーハング)がなされている、プレイヤー、アンプとスピーカーがそれぞれ反応して動作する関係にあること、そしてTD124がフル・レストアされていること。
それにもかかわらず、聴いていて以下の症状が出ている場合。 手を尽くしてもまだ何かあるような気がしているとき、ひょっとして解決するかもしれない処方。
1.何か重心が低くハーモニクスが泥のように濁っている(けど魅力的な再生音)とか、
2.何か響きが乾いていてカンカンし芯がない、とか感じているとか
そういう時は、4箇所あるシャシー高さ調整リングを一度回してみたらどうだろう。
1.の症状の場合、シャシーをわずかづつ上げてみる
例えばピアノの響きがだんだんほぐれていき、ビィーン、ドン、ヒューン、ヒリヒリ、ズンという音が誇張せずに聞こえて、一つの音から色々な音が出て音の数が飛躍的に増えるポイントがある。 そこで回すのを止める。 もっと回して高くすると、音が乾いていくようになり、表面的な音は増えるような感じがするが音の芯がなくなり、凄みもなくなる。 こうなるとシャシーが高く上がり過ぎの再生音となり、良かったと思える位置まで戻す。 これからが注意を要する作業なので、自信の無い人にはお薦めしない。 レコードを再生しながら、4箇所の調整リングを二箇所づつ二回にわけて回して、上下する。 この場合、4分の1から8分の1回転くらいで聴きながら回す。 くれぐれもレコードを針が再生していることを忘れずに慎重にゆっくりと。 つまり計器に頼らず、自分の耳と肌で聴いて調整するのだ。 そうしているうちにピアノのタッチが深く、音が空気を震わせ、音像が前に張り出し、棒からしなやかでたわむポジションがあるはず。 鍵盤に指先が触れる音、低いズンというピアノのメカニック音と破裂音。 ピアノ線が横に張られているという実感、そして適度な湿り気と濡れる音場、低音の水槽。 ここまでくれば出ているのは音楽のみ。
2.の場合シャシーを下げてみる
カンカンして音にしなりや湿り気がない場合、逆にシャシーを下げてみる。
例えばヴァイオリンがキンキンしている場合、下げていくと音に芯が出てきて、響板が鳴り始め、やがて指板を抑える気配が出てくる。 そうなるとしめたもので、あとは演奏家の音像が立体になったときに、回すのを止める。 1と同じように演奏しながら微調整すると弓のたわみが見えて、音色がそこかしこに現れて、丁々発止の気迫がダイナミクスとなって空気を震わす。 あとは体が一番揺れて音楽に没頭するところを探して調整完了
目に見える高さの違いは少なくても、耳に聞こえてくる音の違いは大きい。
1.2共最終的にプラッターの上に水準器を置き、水平を取る。
こうして調整すると、レコード再生は基本的には理論どおりに大まかにセッティングして、それからが本番。
そこからは使用者の感性というか、こころの琴線に触れる箇所をいかに探すか。
これだけは計測器で測定するのは不可能なところで、ここまでこないとレコードの良さが出ない。
機械に聴かされるのではなく、機械と人間が対話して音を再生することになる。
これはあくまで、最初に行ったとおり、装置がお互いに反応しており、それを耳で感じ取るだけの感性を有している人にしかあてはまらない。
ここで初めて、CDやPCオーディオでは見えてこない扉を開けたことになるのだ。
演奏家の気配、録音会場にみなぎる気迫、そして音楽に満ちている『気』が再生される。
それからまた次の扉が待っている。 レコードの伸びしろは広いのだから
今回試聴に使用した盤
1. DSLO7 Kaleidoscope 酒・女・唄/白鳥/タンブーラン/楽興の時3番/タンゴ/古きウィーン/万華鏡/へ調のメロディ/チャイコフスキー 夜想曲/グラズノフ ワルツ/シャミナード 過去に/モシュコフスキ スペイン奇想曲 S.チェルカスキー(Pf) 録音1964年 オールセインツ教会 ピーターシャム ピンクに黒のロワゾー・リルレーベル(オリジナル) 英デッカプレス P;P.ワドランド E;P.ウェイド 静かな湖面にいきなり石を落とした波紋が連続するピアノ録音。 タッチが深い、それが克明に捉えられたスリリングが心地良く、いつのまにか『音の美』に耳が魅せられてしまう。 スピーカーの間から上に下に外側にエロティークな音がしっかり波紋となって拡がっていくさま、ピアノをステレオ再生する喜びに満ちています。 後から後へ続くパラフレーズにはこのピアニストにしか持ち得ない音の色気が撒き散らされていく。 ステレオ再生機がちゃんとしていれば、これまで聴いたことのない世界が待っているのです。 装置がうまく調整されればされるほど、音に引き吸われ、宝石の妖しいしたたりにうなされてしまうのです。 もちろんこうしたスウィーツの裏には指が折れるほどの修練を積んだに違いなく。 おそらく、スピーカーがこんなにピアノをきれいに鳴らすなんてはじめて、という方もおられるでしょう。 文句無しにテストレコードになる資格あり 盤美品 ジャケットほとんど美品 解説付 EP
この盤を聴いた当初、響きが混濁して右手の旋律線が埋もれがちだったが、シャシーをあげてみることにより響きが整理されて凄みを増し、音色のピントが合って、音色のバトルロイヤル状態にまで仕上がった。 あとは音楽に没頭するというより、快楽をむさぼった。
2. SGL5852 『ヴァイオリンの宝石』 ルクレール ヴァイオリンソナタ3番/レントよりおそく/常動曲/ヴィターリのシャコンヌ/ラビリンス 他全 曲 H.シェリング(Vn) C.ライナー(Pf) 録音1963年 ファイン録音スタジオ N.Y.C エンジに銀のPHILIPSレーベル(英オリジナル) P;W.コザート E;C.R.ファイン このマーキュリィ録音は個人的には英プレスが一番だと思っています。 細身で濡れていて、柳腰の音色。 ルクレールのアダージオ楽章で岩清水がにじみ出る。 曲以前に音でコロリです。 ヴァイオリンを奏する立ち姿の楚なること。 こういう音を以後とうとうシェリングは出すことはなかった。 音量を少し絞り気味に聴いたほうが、気配が出て薄気味悪いくらい。 盤美品 ジャケットなし EP
モノーラル盤もそうだったが、ルクレールは名演だ、が、甲高い再生音が勝ってしまうことが多い。 そこでシャシーを少しずつ下げていくと、音の芯が出るだけでなく音にしなりが出てくる。 シェリングの音自体が銀色が勝った緊張しているものだから、これがほぐれてくると得も言われぬやはらかな音色が、芯から透明な液状の腺のようなものとなって出てくる。 これを聴くと、やはりレコードの妙に溺れてしまう。 練れた音の色をむさぼり聴くには英フィリップスプレスでなくてはならない。
こういう風に、カメラのレンズを回してピントを合わせるように、響きの調整が出来るのもTD124の特長だ。 お分かりだと思うが、高さ調整リングの中心にある長いネジが振動の性格を微妙に変化させている。 ヘタにアンプのダンピングファクターを変化させるよりも、ずっと自然に音色の出る位置を探し出せる。 ということは、わざわざ柔らかい生鉄で出来た長いネジを、ステンレス製に取り替えてしまったユーザーは永遠にこの違いはわからないことになる。
オリジナル生鉄製ネジ3本、上から二番目が代替品ステンレス製
ステンレス製だから曲がらないという考えのネジだろうが、あまりに安易過ぎる。 TD124本来の音質を殺してしまう困った棒。
次回はアンドレ・レヴィからピエール・クレマンに、という題目でT氏が書く
この調整法には条件がある。 アームとカートリッヂの調整(高さ、アームベースのネジ締めトルク、精確なアジマス、針圧、もちろんオーバーハング)がなされている、プレイヤー、アンプとスピーカーがそれぞれ反応して動作する関係にあること、そしてTD124がフル・レストアされていること。
それにもかかわらず、聴いていて以下の症状が出ている場合。 手を尽くしてもまだ何かあるような気がしているとき、ひょっとして解決するかもしれない処方。
1.何か重心が低くハーモニクスが泥のように濁っている(けど魅力的な再生音)とか、
2.何か響きが乾いていてカンカンし芯がない、とか感じているとか
そういう時は、4箇所あるシャシー高さ調整リングを一度回してみたらどうだろう。
1.の症状の場合、シャシーをわずかづつ上げてみる
例えばピアノの響きがだんだんほぐれていき、ビィーン、ドン、ヒューン、ヒリヒリ、ズンという音が誇張せずに聞こえて、一つの音から色々な音が出て音の数が飛躍的に増えるポイントがある。 そこで回すのを止める。 もっと回して高くすると、音が乾いていくようになり、表面的な音は増えるような感じがするが音の芯がなくなり、凄みもなくなる。 こうなるとシャシーが高く上がり過ぎの再生音となり、良かったと思える位置まで戻す。 これからが注意を要する作業なので、自信の無い人にはお薦めしない。 レコードを再生しながら、4箇所の調整リングを二箇所づつ二回にわけて回して、上下する。 この場合、4分の1から8分の1回転くらいで聴きながら回す。 くれぐれもレコードを針が再生していることを忘れずに慎重にゆっくりと。 つまり計器に頼らず、自分の耳と肌で聴いて調整するのだ。 そうしているうちにピアノのタッチが深く、音が空気を震わせ、音像が前に張り出し、棒からしなやかでたわむポジションがあるはず。 鍵盤に指先が触れる音、低いズンというピアノのメカニック音と破裂音。 ピアノ線が横に張られているという実感、そして適度な湿り気と濡れる音場、低音の水槽。 ここまでくれば出ているのは音楽のみ。
2.の場合シャシーを下げてみる
カンカンして音にしなりや湿り気がない場合、逆にシャシーを下げてみる。
例えばヴァイオリンがキンキンしている場合、下げていくと音に芯が出てきて、響板が鳴り始め、やがて指板を抑える気配が出てくる。 そうなるとしめたもので、あとは演奏家の音像が立体になったときに、回すのを止める。 1と同じように演奏しながら微調整すると弓のたわみが見えて、音色がそこかしこに現れて、丁々発止の気迫がダイナミクスとなって空気を震わす。 あとは体が一番揺れて音楽に没頭するところを探して調整完了
目に見える高さの違いは少なくても、耳に聞こえてくる音の違いは大きい。
1.2共最終的にプラッターの上に水準器を置き、水平を取る。
こうして調整すると、レコード再生は基本的には理論どおりに大まかにセッティングして、それからが本番。
そこからは使用者の感性というか、こころの琴線に触れる箇所をいかに探すか。
これだけは計測器で測定するのは不可能なところで、ここまでこないとレコードの良さが出ない。
機械に聴かされるのではなく、機械と人間が対話して音を再生することになる。
これはあくまで、最初に行ったとおり、装置がお互いに反応しており、それを耳で感じ取るだけの感性を有している人にしかあてはまらない。
ここで初めて、CDやPCオーディオでは見えてこない扉を開けたことになるのだ。
演奏家の気配、録音会場にみなぎる気迫、そして音楽に満ちている『気』が再生される。
それからまた次の扉が待っている。 レコードの伸びしろは広いのだから
今回試聴に使用した盤
1. DSLO7 Kaleidoscope 酒・女・唄/白鳥/タンブーラン/楽興の時3番/タンゴ/古きウィーン/万華鏡/へ調のメロディ/チャイコフスキー 夜想曲/グラズノフ ワルツ/シャミナード 過去に/モシュコフスキ スペイン奇想曲 S.チェルカスキー(Pf) 録音1964年 オールセインツ教会 ピーターシャム ピンクに黒のロワゾー・リルレーベル(オリジナル) 英デッカプレス P;P.ワドランド E;P.ウェイド 静かな湖面にいきなり石を落とした波紋が連続するピアノ録音。 タッチが深い、それが克明に捉えられたスリリングが心地良く、いつのまにか『音の美』に耳が魅せられてしまう。 スピーカーの間から上に下に外側にエロティークな音がしっかり波紋となって拡がっていくさま、ピアノをステレオ再生する喜びに満ちています。 後から後へ続くパラフレーズにはこのピアニストにしか持ち得ない音の色気が撒き散らされていく。 ステレオ再生機がちゃんとしていれば、これまで聴いたことのない世界が待っているのです。 装置がうまく調整されればされるほど、音に引き吸われ、宝石の妖しいしたたりにうなされてしまうのです。 もちろんこうしたスウィーツの裏には指が折れるほどの修練を積んだに違いなく。 おそらく、スピーカーがこんなにピアノをきれいに鳴らすなんてはじめて、という方もおられるでしょう。 文句無しにテストレコードになる資格あり 盤美品 ジャケットほとんど美品 解説付 EP
この盤を聴いた当初、響きが混濁して右手の旋律線が埋もれがちだったが、シャシーをあげてみることにより響きが整理されて凄みを増し、音色のピントが合って、音色のバトルロイヤル状態にまで仕上がった。 あとは音楽に没頭するというより、快楽をむさぼった。
2. SGL5852 『ヴァイオリンの宝石』 ルクレール ヴァイオリンソナタ3番/レントよりおそく/常動曲/ヴィターリのシャコンヌ/ラビリンス 他全 曲 H.シェリング(Vn) C.ライナー(Pf) 録音1963年 ファイン録音スタジオ N.Y.C エンジに銀のPHILIPSレーベル(英オリジナル) P;W.コザート E;C.R.ファイン このマーキュリィ録音は個人的には英プレスが一番だと思っています。 細身で濡れていて、柳腰の音色。 ルクレールのアダージオ楽章で岩清水がにじみ出る。 曲以前に音でコロリです。 ヴァイオリンを奏する立ち姿の楚なること。 こういう音を以後とうとうシェリングは出すことはなかった。 音量を少し絞り気味に聴いたほうが、気配が出て薄気味悪いくらい。 盤美品 ジャケットなし EP
モノーラル盤もそうだったが、ルクレールは名演だ、が、甲高い再生音が勝ってしまうことが多い。 そこでシャシーを少しずつ下げていくと、音の芯が出るだけでなく音にしなりが出てくる。 シェリングの音自体が銀色が勝った緊張しているものだから、これがほぐれてくると得も言われぬやはらかな音色が、芯から透明な液状の腺のようなものとなって出てくる。 これを聴くと、やはりレコードの妙に溺れてしまう。 練れた音の色をむさぼり聴くには英フィリップスプレスでなくてはならない。
こういう風に、カメラのレンズを回してピントを合わせるように、響きの調整が出来るのもTD124の特長だ。 お分かりだと思うが、高さ調整リングの中心にある長いネジが振動の性格を微妙に変化させている。 ヘタにアンプのダンピングファクターを変化させるよりも、ずっと自然に音色の出る位置を探し出せる。 ということは、わざわざ柔らかい生鉄で出来た長いネジを、ステンレス製に取り替えてしまったユーザーは永遠にこの違いはわからないことになる。
オリジナル生鉄製ネジ3本、上から二番目が代替品ステンレス製
ステンレス製だから曲がらないという考えのネジだろうが、あまりに安易過ぎる。 TD124本来の音質を殺してしまう困った棒。
次回はアンドレ・レヴィからピエール・クレマンに、という題目でT氏が書く