2013年02月05日

ベンチテスト

近くに寄って耳を澄ますと、奥にググーッと空間が広がっているのが聞こえてくる。 RIMG0358それも現実にあるのかないのか、ガシャワン、バゴオン、チイーン、トゥオン、一筋縄ではいかないしなる音が聞こえてくるのです。 離れて聴けば、空気が震えている、部屋の空気が液状化を起こして、スピーカーの存在は消え、部屋の縦横一杯に反応して弦のユニゾンが雲のように漂うのが見えている。 これまで聴いてきたスピーカー群とは明らかに違う出し方で聴かせるLowther社製ユニットの面白さは、まず、ユニットがちゃんとした状態で動作しているかを確認しなければ始まらないのです。 RIMG0361強力な磁力で小さな面積の硬いコーン紙、極端に狭いギャップにコイルが巻かれた筒をそっと嵌めて位置を決めて固定する。 そして信号を送ってやるとほとんどの場合、コイルあるいは紙筒がギャップの中であたって大きく歪む。 カサカサ、ゴソゴソと紙がギャップのなかで当たって擦れるのだ。 LOWTHERのユニット、すごい音が出るのだけれど行き着くまでが至難の道。 音を出しながら調整するしかない。 RIMG0359そこでT氏がベンチテスト用バッフルを作ってきた。 これだと3本のユニットを取り付けて音を聴きながら調整できる。 なにしろ取り付けるのが垂直か水平か、はたまた垂直の場合はどこを上にすれば一番調整しやすいか、いろいろやってみなければならない。 今回は英国から取り寄せた新品のコーン紙を、ヴィンテージのユニット(ギャップがよけいに狭い)に取り付けようというのだから、コーン紙を髪の毛の十分の一くらいずらしても、音がぜんぜん違う、というより音が出なくなったりする。 だけれども、調整を辛抱強く続ける、ふかく濡れた音を出すようになるまで。 そう、深く濡れた音が出ない限り、古いユニットを使用する意味がない。 深く艶っぽい音になるまで。 このテストベンチを使用すると、面白いほど調整が楽に短時間で完了する。 
信号を入力してカサカサ、ゴソゴソが出ないのはあたりまえ、音色のワンダーランドになるまで。 そこまでいけば、まずモノーラルで1本づつ聴いてみる、ギターのLPでテストするのが一番。 ポジションをずらす左手が弦を押さえる強さや指先の硬さまでわかるようになるまで。 それをクリアしたら、たとえばVITAVOXと組ませてステレオ再生。 LOWTHERにLchを結線して、RchのVITAVOXの前に設置する、もちろんベンチに取り付けたうち再生するのは1本だけ。 RIMG0363大きなVIATAVOXに比べ、LOWTHER1本は点音源に近い。 それぞれが手を取り合ってステレオ再生し始める。 音場はオフィス一杯に広がるから、というよりオフィスの空気を風の様にそよがせる。 だからスピーカーを意識する必要はなく、どこで聴いても空気のそよぎが聞こえてくるし、それは実に深い。 うるおいというよりみずみずしく、リアルというよりなまなましい。 うそみたいに。 たとえばクラヴサンは弦(げん)ではなく弦(つる)というニュアンスで空間に躍り出る。 低域の伸びやかさは半端ではなく、いつものVITAVOXとWESTREXの大型同士のステレオ再生とは異なる低域の量感とほぐれよう。 つまり小さなLOWTHERユニットが大型のVITAVOXシステムと反応しあって、こういう類稀な再生音場を醸成している。 LとRを左右ではなく前後に配置して再生しても、問題なくどっぷりと音楽に浸れるのだ。 植物の根のように伸びやかで先は透き通るように細いのに、神経質なところがないし、造形ディテールは極限までいくけれど分析的ではない。 音楽のために低音はかぜのように在り、ディテールは聴きやすさのためにあり、のびやかさはイマジネーションをさそう。 これが音楽でなくてなんだろう。 
使用カートリッヂはもちろんShure M44で聴いた。 気配さえ伝わってくる、さっと空気が広くなったよう、しなやかでいやらしさが無い。 そうした形容詞の付くスピーカーは今いくらでもあるがどれも面白くない音ばかり、音楽にのめりこんでしまうユニットが何故出来ないのか。 面白い、面白くないは聴けばわかる、それを先入観で聴くからややこしくなる。
LOWTHERは変態系ではなく、正々堂々ジェントルマン系だ。 今回はレストア中のTD124を使用したが、次はConnoisseur Craftsman2 で聴いてみたい。 

*これはあくまでベンチテスト用のキャビネットであり、再生時はあくまでユニット1本で鳴らしている。 もちろん3本一緒に鳴らすことはない。


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