2013年03月01日

音を観る

オーディオマニアの再生音に対する認識は、著しく視覚に偏っていると思うのです。 音を見過ぎている。 ステレオ再生時に定位を重視するのもそのひとつです。 聴覚を視覚に置き換えようとしているのです。 本来日本人の特徴からして視覚で確認する聴き方は不自然に感じられます。 もともと日本人は音を音楽をそうした形で理解したことも認識したこともありませんでした。 日本人は感じる民族です。 音を映像化して固定するのではなく、単に感じられるタイプのはずです。 何故に日本人の感性にそぐわぬ行為を世のオーディオマニアが実践してきたのでしょう。 洗脳されたのです。 
ステレオ再生とはこういうものだ、とどこかのお偉いさんがのたまい給うたことを、そのまま信じてしまって、今までかたくなに守り続けてきただけなのです。 ステレオ再生時はかならず左右のスピーカーの中央で聴かねばならぬという、窮屈なことを続けるマニアもまだまだ多い。 音を見ようとする欲求から生まれたことで、それがマインドコントロールにより育まれた欲であることを今日に至っても知覚できないでいます。 それともうひとつ、楽器や声、オーケストラの音そのものについて言及することから逃げ、ただただ音場感に浸るような聴き方も最近は多くなってきました。 これもいかがなものでしょう。
表題に「音を観る」と書きました。 聴覚を視覚のみに変換することなく、五感すべてを動員して音楽を楽しむという意味で書きました。 それは生々しさだけの軽薄な音では、まず楽しめません。 再生音が音楽の根底にまで到達していなければ、人間の五感を励起させることはできないからです。 音楽の根底とはゆるやかな緊張感のなかでゆらゆら揺れている果実のようなものであり、自在さこそ、根そのものなのです。
こうは書きましたが、それは私の妄想のたぐいであり、もっと現実的に音を観るについて書いてみます。 よくオーディオ評論家はあたかも目の前の舞台を見ているかのように再生音について語ります。 私が抱く再生音のイメージはこのようなものとは異なるものです。 私は再生音を音の形と色彩を分離します。 音の形とは幾何学的な図形、たとえば三角や四角のパネルとして認識します。 そこに色彩(音色)を当てはめていく。 こうしていくと再生音の前後左右上下の動きがよくわかります。 IMG_0247スピーカーから出てくる音を色付きのパネルとして認識するのです。 それゆえ、パネル同志の重なり具合や組み合わせがちぐはぐだと、寸法が狂っていると言ったりもします。 この感覚は、誰に尋ねてもそんな感覚は持ち合わせていないようなので、私だけの感覚なのでしょう。 でも、ひょっとしてどこかに私と同じように感じる方もいらっしゃるのではないか。 ただ、私のようにオーディオ機器のレストアや製作にたずさわっていないために強く認識していないのかもしれません。 長年の修練のたまものか、振動の動きや進みよう、音色も観えるようになってきました。 ここまで言うと、お前は真症のキチガイか、大ボラ吹きか、と聞こえてきそうです。
それなら、逆に私は問いたい。 
凡そオーディオ製品のレストアや製作に携わる人間が、音が観えず、振動の動きを感じ取れないで、どうして音を音楽を構築することができるのでしょうか?
出来はしないはずです。
音を観る、とことはオーディオ機器に普通でない何か特別な力を持たせるためには絶対に必要なものではないか? 欠くべからざることであるはずです。
TD124やCONNOISSEUR、COLLARO、GARRARD301をはじめとするプレイヤのレストアや専用キャビネットの製作時、私は音が観えなければ、再生時における音の寸法合わせが出来ないのです。 音の寸法が合わないと音楽的な表現力、音の構築がきちんと出来ません。 これが出来ないと、装置にあるプログラムソースに対する反応力が著しく不足してしまいます。 どんなプログラムソースを再生しても音の寸法が合っていれば、そのプレイヤにとって不得意なジャンルの再生さえも何とかなるものですし、つじつまが合うからです。 最近私が製作するレコードプレイヤの敷板は、以前のそれと比べると妙な形に変化しています。 あのような形状はそれぞれのプレイヤの異なる振動が観えていないと製作できないのです。  プレイヤのシャシ・キャビネット・敷板を駆け巡る振動の通り道と進み方が見えていないと、キャビネットや敷板を加工して音を可変することなど到底出来ない相談なのです。 もう少し具体的に書いてみましょう。 その加工はプレイヤキャビネットやスピーカーエンクロージャにおけるダンピングファクタの帰還率によって変わります。 フォノモーターの場合は自らの振動で励起するためにシンプルにおおかたのフィードバック値が決まりますが、スピーカーとなるとエンクロージャに二重のフィードバックがかかります。 ひとつはエンクロージャ自らの振動によるもの、もうひとつはアンプリファイアがスピーカーユニットに送り出す信号にあるフィードバック・ダンピングファクタです。 この場合エンクロージャ自体のフィードバックがあまり強いとアンプリファイアからのフィードバック信号と不整合が発生し、音が圧縮過多となって、再生音が縮んでしまい、伸びが足りなくなるのです。 厳密に言えばプレイヤキャビネットの場合も同じようなダブりのフィードバックによる不具合が生じることもあります。 私はよく完成したキャビネットやエンクロージャを、しばらくしてから分解して組み上げなおすのは、このフィードバックダブり現象を解消するためなのです。  トーレンスTD124 のモーターにしても同様なのです。 ただローノイズで定速で精密に回転すれば、それで事足りるわけではないのです。 音楽再生のよろこびをもたらす別の力が発生しなければ満足できません。 
音が観えているとやることが増えてしかたないのです。 以上T氏


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