2014年01月20日

TD124 Mk.2 その音の世界 2

それではトーレンス社技術者たちはどのような働きをTD124Mk.2に与えたのでしょう。 彼らはステレオ再生の本質を完全な『仮想』であると見切ったことで音のデザインが決定された、そう思いました。 何をいまさら、そんなことなら十分理解していると思った方はたくさんおありでしょう。 しかし、ステレオ再生が完全な仮想だと言い切れるのは、充実したモノーラル再生を知っていなければなりません。 それを経験したオーディオ愛好家がどれだけいるのでしょうか。 せいぜいヴィンテージの大型スピーカでPA的モノーラル再生が関の山でしょう。 しかしトーレンス社技術者は違います。 彼らはモノーラル時代をオンタイムで創り上げてきた当事者だったから、ステレオは仮想だと断言する資格は十分すぎるほどありました。 本格的ステレオ時代の到来を見越して、彼らはMk.2をMk.1の単なる延長線上に置こうとはしませんでした。 Mk.1の実在を、Mk.2は実体に変えたのです。 Mk.1では音の芯からの膨張力(爆発力)によって拡散しようとする力とそれを押しとどめようとする制動力が均衡するところに生ずる表面張力による音像の絶妙なバランスであるのに対し、音のフォルム(外型)をまず明確にして、フォルムの変化によって音の実体を創り出し、ステレオ的リアリティを得られるようにした錯覚を利用しているのがMk.2であるといっても良いでしょう。 トーレンス社技術者はMk.2に課したこうした音のデザインにさらに隠し味を仕込みます。 音実体そのものの存在感を高めるため、音楽における主音と倍音成分をわずかに離したのです。 主音と倍音の距離感が広がると、よりステレオフォニック効果が上がります。 特に上方向に登るホールトーンの目ざましい伸びは、プログラムソースによっては倍音成分が上方に浮かび、カスミのように層を形成するような現象に快感すら呼び起こされます。 一聴して奇異に感じるこうした現象は、ウォルト・ディズニーが製作した前衛的映画『ファンタジア』を連想させ、モノーラル時代に英国人が試行したレフレクタ方式スピーカが目指したものに近いと考えます。 米国仕様Mk.2がクラシック再生にあまり向いていないのも、倍音成分の拡張がヨーロッパ仕様モデルよりも少ないからかもしれません。

TD124Mk.2は製造番号が6・7・8万台と進むにつれ仮想化が進んでゆき、9万番台に至ると今までのTD124とは随分と変わったものになります。 もはや主音の実体化は薄れて、間接音から実体を導き出す方法がとられるようになり、実体が実相に変わります。 主役は主音でも倍音成分でもなく、響きなのです。 主音も倍音もミキサにかけた果実のようにツブツブになって音場を漂います。 響きが空間を支配するのです。 もはやこれは仮想ではなくファンタジです。 2チャンネルステレオ再生なのに、4チャンネルステレオのように聴こえてきます。 その点では未来のオーディオ像を先取りしたと言えなくもないのです。 薄気味悪い音でもあります。 常識的な音楽のストーリィ性が失われているからです。 Mk.1エンポリウム仕様に聴く予言者の語りとは異種なる品格を具えているのが聴き取れます。
TD124Mk.2は仮想から始まり、ファンタジに帰します。 私の思いとしてはトーレンス社は立派な仕事をしたと位置づけています。 TD124は実在から仮想空間を経てファンタジに終わる。 TD124という基本的に同じ機構で成し遂げた彼らの技術力の高さ(音楽見識と言っても良い)は比類のないものでした。 ファンタジの後に何があるのか、誰も予測することはできず、真なるLP再生の大団円は閉じるべくして閉じられます。 つづく
以上T氏


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