2014年07月28日

トーンコントロールのこと 5

4月以来途絶えていたT氏のトーンコントロール論の続き
興味ある方は参照ページから読み返していただきたい

トーンコントロールによるナチュラルディストーションの獲得

トーンコントロールの真の役割は、レコードに録音された音楽信号を整え、再生に重要な働きを為す音楽的ハーモニクスを作り出すことにあります。 そうすることで自然倍音によるナチュラル・ディストーションが創生され、音楽は本来の姿を聴き手の前に現します。 プリアンプ部にトーンコントロールが設けられていない場合、ハーモニクスの重なり合いによって起こる音量の自然な増大が著しく抑えられ、クラヴサンとオーケストラでヴォリュームつまみの位置が全然違ってしまうことがあります。 トーンコントロールが適切に働くプリアンプでは、ヴォリュームの位置が一目盛ほどしか違わないことが多いのです。 

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では何故トーンコントロールを有するのと無いプリアンプで、こうした差異がでるのでしょう。 それは一にも二にもハーモニクスの出来方にかかってくるのです。
前回その4に書いた、リヒアルト・シュトラウスの言を思い出していただきたい。 トーンコントロールの無いプリでは、ヴォリュームつまみを回すことでしか音量を増減できないわけがおのずと見えてきます。 つまりトーンコントロールを有しないプリアンプ(大体が1970年代以降にリニア・オーディオ思想に基づいて製作された)にあっては、ハーモニクスよりも直接音で勝負するようになります。 となると当然パワーアンプのワット数の競争になります。 ハイパワー化はハーモニクスの発生によるナチュラルディストーションが得られないとなれば避けられない流れでした。 音楽成分をたっぷり含んでいるハーモニクスは重要視されることなく直接音ばかりを聴く風潮が支配的になります。 しかし、ハイパワー化したからといって、問題は解決されたでしょうか。 残念ながら効果は薄く、ユーザたちはミスリードされていったと言わざるを得ません。 なぜうまくいかなかったのでしょう。 それは直接音を主体としたために、リスナにスピーカから直接強い音をぶつけることになるからです。 結局室内で音楽を楽しむためのオーディオが野外コンサートでのPAと同じ方法を取ったために起きた矛盾です。 野外でのPA再生ならば強烈な音であっても広々と無限に広がる空間に音が放出減衰されるからまだしも、リスニングルームでは発生するのはやかましさしばかりです。 レコードに録音された音楽信号には発酵したハーモニクス成分が大量に含まれています。 オーディオのリニア思想は複雑に絡み合ったハーモニクスをわざわざ分解して、倍音成分が抜き取られた主音ばかりが再生されるようにしたのが、トーンコントロールを不要としたプリアンプです。 倍音を聴きとることが出来ない耳の持ち主が、ヴィンテージスピーカのレインジを狭いと思い込み、キャビネットの上にトゥイータを置いて、本当は再生されている自然な倍音をかき消してしまうという暴挙を平気でするのです。 私はいつも思うのですが、ヴィンテージのスピーカにトゥイータを追加するくらいなら最初からヴィンテージの再生装置を使用しないでほしいのです。 ヴィンテージスピーカ本来の能力を信用してない、あるいは理解していないということになります。 わが国では古い革袋に新しい酒を入れるといって、やたらと新しいものに古いものに足してしまう方がいますが、それとこれとは違います。 信用していないもの、理解していないものを自分の部屋に置くというのは、どんなものでしょう。 ほとんどの場合、ヴィンテージスピーカの高域は予想以上に伸びています。 それも自然な伸びやかさで。 私の経験では、ヴィンテージスピーカの多くが低音のかぶりにより高域が伸びていない再生音を聴いている方が実に多い。 プレイヤの出力がちゃんとしてさえいれば、トーンコントロールのBASSの調節により解消されるケースがほとんどです。 正常な信号が入力されていれば、ちゃんと整備されたヴィンテージスピーカには追加トゥイータは不要ですし、付けたとしても高域が干渉しあって歪むはずです。 
ここまで書けば、ヴィンテージ時代のトーンコントロールの真実が見えてきます。 レコードに刻み込まれた音楽的ハーモニクス成分を導き出すのが真のはたらきのひとつです。 みちびき出された音をどう調整するかは、ユーザの素養と見識にゆだねられます。 これこそがオーディオの面白さのひとつでもあります。 良質のプレイヤからの信号でまずヴォリューム位置を決め、そしてイクォライザを決め、BASSとTREBLEを微妙に回して、おいしい果実の音楽をみずみずしく取り出した瞬間、リスニングルームはいきいきとした音楽幸福に満たされます。 永い間こうした(トーンコントロールの無視)問題を知らされていなかったのも、見逃せない事実です。 音楽の鑑賞にはユーザの耳の性能よりも耳の感覚の方が重要です。 周波数帯域聴取能力ではなく、音楽成分が聴き取れるかどうかが問題なのです。 
現在レコード再生を取り上げているオーディオ雑誌、トーンコントロールについて書かれた記事は恥ずかしくなるほど少ない。 つづく
以上T氏

ナチュラルディストーションを視覚的に表現すれば、シャボン玉の表面の虹とか細い線が渦まく錯覚パターンのようなものに近い。 濃やかな曲線が交叉し合うところに干渉が生まれ、光であると動いて見えたり、色が変わったりするのに対し、音は音色が生まれたり、響きがほぐれて伸びてきたり、俄然みずみずしくなったりする。 ただし音の数(実に曖昧で不合理な表現だが)が多くないと、この現象は生まれない。 T氏がここに書くディストーションとは、いわゆる歪の嫌な音ではなく、より魅力的な音を指す。 歪を味方にしないと音楽は来てはくれない。 

参照ページ
トーンコントロールのこと
トーンコントロールのこと 2
トーンコントロールのこと 3
トーンコントロールのこと 4



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