2014年09月15日

回転する速度 8

聴感覚とピッチコントロールによるトーンコントロール?その2

カートリッヂがプレイヤ能力のほとんどをつかさどるという考え、多くのオーディオ愛好家のみならずレコード愛好家までもがこれで地獄に堕ちました。 こうした考えに至ったいきさつをもう一度たどってみれば、アナログレコードの良質な再生に光明を見出すことができるかもしれません。 そもそもの原因は我が国のプレイヤ製作者たちがフォノモータに見かけ上の正確な定回転と安定を至上のものと信じていたことに尽きます。 フォノモータが音楽を創り出すハーモニクス発生器であるなどとは思いも及ばなかった。 フォノモータが正確に回転速度をキープしていさえすれば、あとはカートリッヂに任せておけばよいと考えたのです。 彼らは規定回転下で起きるさまざまな現象に注意を払わなかった。 これがまずかった。 そうした概念で製造されたプレイヤはことごとく音楽表現力の弱いものばかりが市場にあふれました。 そこで注目されたのがEMT927です。 これが一層の混乱を招きます。 スタジオユースの巨大なプレイヤはあくまでハーモニクスが成就する以前の音を再現する製品であり、完成品として世に出たレコードに刻まれた音楽を再度分解して音を裸にしてしまいます。 EMT927を家庭に持ち込んでレコード再生に使用すると、この有能な機器はハーモニクスの分解器となってはたらいてしまうのです。 家庭にスタジオユースのプレイヤが持ち込まれる風潮は、ますます音楽を楽しむという単純でしあわせな行為からユーザを遠ざけていきます。 家庭ではなく窓のないラボラトリと化し、家族が近づかないリスニングルーム、好きも好んで地下に潜るユーザも出現します。 趣味だと開き直ればそれで済むのでしょうか。

速度微調整機能付のフォノモータを使用したことがあるなら、ピッチコントロールを回すと音に差異が生じることは充分理解しているでしょう。 通常回転数が規定回転数より速いと音は高くなり、遅いと低くなるのは確かに間違いありません。 ただしこれを回転速度だけで判断するのは誤りと敢えて言っておきます。 音のピッチの高低はアームのヘッドシェルに何かしら吸音効果のある物質を付加すると、いとも簡単に低くなったり、アンプの歪が多いと甲高く感じたり、スピーカの置き方でも変わります。 周波数が同じでも上への倍音が支配的か根音が中心で上下に倍音が伸びるか、倍音の先が歪んでいるかどうかで、人間の耳というのは低くも高くも感じるものです。 たとえば実際にヴァイオリンソロを間近で聴くと、レコードと同じ楽器か?と思うほど再生されたヴァイオリンよりも低く聞えたりもします。 一体にオーディオを論じる前に、耳の生理的な感覚はもとより、耳の手入れなどをする人はそう多くはありません。 さておき、音のピッチというものが、実のところ音の響き方によって感じ方が変わってしまう。 思い当たる方も多いはずです。 真のピッチコントロールは再生音における響きのコントロールそのものでありますが、それはレコードプレイヤが音楽に対してニュートラルなはたらきが可能な特性を具えていなければならないことが必要条件です。 逆の見方をすれば、ニュートラルなはたらきをするプレイヤは同じ規定回転速度で回転する同じピッチでも、1台1台にある音の響きにそれぞれの高低の差があるということを意味しているのです。 つづく
以上T氏

アンプリファイアのトーンコントロールでは補正しきれなかったニュアンス・プレゼンス・音像の張り出しなど、回転速度コントロールによって解決されることが多々ある。 タイミングというものがいかに再生上大切か。 周波数特性と時間軸の双方から調整するとこれまで体験できなかった音の肌触り、音楽家の呼吸、眼差しが聞こえてくる。 朝に聞けばさわやかであり、夜聞けばそれは不気味なほどの片隅の気配となる。





トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔