2014年09月18日

回転する速度 最終回

音揺れと音楽のゆらぎ

微妙な回転速度の変動のことは、CONNOISSEURプレイヤのところで触れました。 速度変動が再生音にどのように影響するか、もう少し詳しく書いてみます。 
規定回転数の範囲の中での微妙な回転速度のズレがあると、聴き手は何かしら落ち着きの無さを覚えます。 此のズレが人間が不具合を感じることができないスレスレのところにあるから厄介なのです。 原因を耳で検知できれば取り除くことはできますが、何となくおかしいと原因を特定することは非常に難しくなります。  こうしたレコードとプレイヤの間の回転速度のわずかなズレはつねにレコード再生につきまとうもの、とヴィンテージ時代の技術者たちは気づいていたようです。 いや気づかないはずはないのです。 そうした厄介なズレに対して彼らは対応してきたのですから。 例えばCONNOISSEURプレイヤでA.R.SUGDENはプーリ・アイドラ・センタスピンドルの三箇所をそれぞれ独立させ、それらがお互いに寄りかかってバランスが取れるよう設計しました。 これによりスムーズでトルクが充分な回転を得ることができ、かつ、電気にたよらずになめらかな回転速度調整を可能にしました。 TD124はエディカレント機能をモータから離れた回転系中央部に位置するステッププーリで働かせることにより、微妙なズレを未然に防ぐ方法を取っています。 
それではベルトドライヴ式やDD型はどうでしょうか。 速度のズレに関してはご想像通りほとんど無防備であり、なすすべを持ちません。 そこで考えたのがプラッタを大きく重くして慣性力を大きく持たせるという解決法です。 とてつもなく重いプラッタを搭載したグロテスクなプレイヤです。 これでうまくいったのでしょうか? 根本的な解決はなされることなく、ただ目立たなくなっただけでした。 結果、高度な水準で音楽そのものを再生しようとする途端、問題が表面に現れてシラケてしまう。 表面は清流に見えても、水面下は濁り水なのです。 贅を尽くした高価なプレイヤであればあるほど、音楽のハーモニクスが創造されないというディレンマを前に唖然とするほかはないのです。
では、わずかな回転速度のズレに対応するフォノモータでは、どのように音楽表現が果たされるのでしょう。 まず、音楽が澄みます。 音が澄むのではなく、音楽が澄み切るのです。 これは音楽的SN比の向上とも言えるでしょう。 このSN比を意識すれば、音楽の本質が少しは見えてきます。 姿かたちはありませんが、それはゆっくりと立ち上がります。 それは常に揺らいでいます。 この揺らぎこそが音楽の本質そのものなのです。 長々と言及してきたわずかな回転速度のズレを解決しないかぎり、これは現れてはくれません。 音楽の動きに対する追従性が不足していては果たせないのです。 しかも回転がすこぶる良質でなければなりません。
私が感じている音楽の揺らぎ。 これは不思議な体験をさせてくれます。 時間の逆行と消失。 ある曲のある箇所で猛烈な感動を覚えるとき、余韻に浸ってふと気が付くと音楽が自分の思いより先に進んでいる。 今なっている音と感動を覚えた音との間の記憶が跳んでいるからです。 その隙間を埋めようと無意識にはたらきますが、それは感動を覚えた音の前後を理解しようとすることで為されます。 ストーリ性の充実を図るからです。 これが時間の逆行として認識されていきます。 そうしているうちにも音楽は先に進んで、片方は先にもう一方は後にという具合になり、時間の感覚が失われていく。 これが連続して起こることで音楽体験が一段の深みを帯びていきます。 これはあくまで私個人の体験にすぎませんが、こうしたことは規定回転数を頑なに守っていて得られたためしがないのです。 

回転速度について書いてきました。 読まれた方々は軽度のノイローゼになるかもしれません。 そもそも現在の主流であるディジタルオーディオではなく、アナログ再生を試みること自体が立派なノイローゼです。 アナログ再生は信号の無段階連続性が為せるものであり、この際限ない続き具合を生かすも殺すもユーザのこころがけにかかっています。 そこを大事に考えてほしいのです。 この項おわり
以上T氏

再生音の時間軸のエッセンスであるリズムの頂点がきれいに伸びていれば、間違いなくハーモニクスは整いT氏のナチュラルディストーションもみずみずしく聴こえてくる、ブラスの輝き弦群のテクスチュア、楽器の声の意気。 低音高音ばかり聴いていないで、リズムの頂点を澄ませてみる。



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