2016年05月27日

グレイ型TD124キャビネット製作記 2

1  オリジナルキャビネットの種類と構造

スイスTHORENS社製オリジナルキャビネット(ST104)には、多くのバリエイションがありますが、大きく分けると2種類になります。 

一つは外側の板を厚くし、コーナを45度で接合し、そこに補強材を接着した
タイプ(1型)
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もう一つは板厚を薄くしててコーナに45度の當木を使って外板を接合した
タイプ(2型)
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上縁は側板より薄い板材を側板の当たるところで落とし、見付を8-9mくらいに加工している。 この構造は1型2型とも変わりません。

オリジナルキャビネットが製作されたのは、1型が1958年から62年くらいと推測されます。 1型はそのままではSME 製トーンアームを取り付けられません。 右後ろ角に接着した補強材にアーム底部が当たってしまうからです(1型右の写真参照)。 つまりTHORENS社がORTOFON社と提携していた時代のものです。 一方2型はSME社と提携していた時代のもので、大きな補強材が取り払われており、SMEトーンアームがそのまま取り付け可能になります(2型右の写真参照)。 

オリジナルキャビネットが水平方向の四方から見て台形をしているのは知られています。 もう一つあまり知られていない特長として、1型2型共にTD124 のシャシを正面から見て右側一杯に寄せていることでしょう。 したがってシャシ左側のキャビネットの見え代が右側に比べて広くなっています。 

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THORENS社が左右均等の美しさを敢えて捨ててまで、こうした構造を採用したのは再生音を向上させるためにほかなりません。 この右寄りのバランスがもたらす利点と効果には次のことが挙げられます。 モータ振動に対してより多くのキャビネット質量を保てることで振動吸収力が高まり、それにより音場の静けさが確保される。 キャビネット上縁で最大の面積を有するのがモータのある左奥部です。 これにより振動に対して他の角より大きくマージンを稼げることになります。 このマージンによりキャビネットの側板に振動が伝わるのが緩和され、キャビネット底部四隅の足にかかる振動エネルギーの流れが過飽和状態になることを避ける効果をもたらします。 結果としてキャビネットが置かれる台との間で起こりがちな振動のフィードバックがランダムに発生することを回避して再生音に影響を及ぼすことを最小限に抑える力がプログラムソースにより異なるからです。 多量のハーモニクスを含む大きな信号が出た際に右寄りマージンによる効果が発生し、その結果として聴感上認識されるのが「音の伸び」であり、「清涼感」、そして「音場の静けさ」なのです。

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1型の最大の特徴は何といっても四隅の補強材の存在です。 補強材はかなり大きなもので、キャビネット本体とは異なる材質で、それは欧州松とカラマツ(外材)の中間くらいで、俗に言う雑木に属するものです。 雑木と言ってもこれに相当する木材はそう簡単に見つけられるものではありません。 わが国ではベランダ用として販売されている材がそれに近いものです。 しかしオリジナルキャビネットの補強材に使用されているのは芯がなく目が揃った材はほとんど見つけるのは不可能です。 RIMG0545この部分に「雑木」を採用したTHORENS社の狙いは、キャビネット本体とは異なる木材を使うことで振動を可変してやり、足を通して流すためです。 つまり野球のキャッチングと同じようなもので、ピッチャーが投げるボールをキャッチャーはミットを少し引いて受けます。 そうしないと手を痛めますし、ボールも落としてしまう、それと同じことを補強材が担っているのです。 1型の場合、この大きな補強材がSMEトーンアームを取り付ける際に邪魔になります。 取り付ける時は削らなければなりません。 しかし、ご心配は無用です。 削るのは右後方の隅の補強材になりますが、この部位は振動の可動域の外にあるからです。 質量の差異が大きい場合はアースとして振動を集めてしまいますが、少ない分には外れるというのが振動におけるアースの伝導法則だからです。
スイスTHORENS社製オリジナルキャビネットであることの見分ける方法の一つにキャビネット底部のナイロン製足があります。 RIMG0544白い半球形のナイロン足がついていてシャシが上記のとおり右寄りでしたらオリジナルと判定して良いかと思います。 この記事を読んだ業者が模造品を作り始めましたら、その限りではありませんし、責任は負いかねますのでご注意ください。
つづく
以上T氏


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