2016年06月05日

グレイ型TD124キャビネット製作記  7

完成後の試聴で感じたこと

今回試聴したキャビネットは木目を出したオイルステン仕様です。 今後は他にグレー、黒に塗装してレストアが仕上がったTD124に取り付ける予定です。
TD124中期型(19,000番台 メタルスピンドル)、GOODSELL製MA20ステレオアンプリファイア、それにWARFEDALE SFB-3 スピーカの組み合わせで聴いてみました。
一聴して判ることは静かな音場を呈するキャビネットであり、レコードの音溝の傷みやカートリッヂの針先の汚れなどがオリジナルより鮮明です。 オリジナルキャビネットST104型はここのところを上手くカバーしてくれますが、グレイ型ははっきりと出してしまいます。
音そのものの印象は、まず音の数が多いことが挙げられます。 そのためか、プログラムソースによってハーモニクスの心地よい発生が頻繁に起こり、今まで埋もれていたと思われる音が現れてきました。 低音部の押しという点からすると、オリジナルのほうが良くでますが、これも考えようです。 オリジナルキャビネットは音の出し方がこれしか無いという感じで、目の前に現物の音をどんと置く感じで鳴ろうとします。 一方グレイ型はもっと全体の音をほぐして提示し、聴き手があの音この音と聴き分けられる鳴り方になります。 
次に面白いのは音色です。 オリジナルよりもいっそう木質感が増して、弦楽器がヒステリを起こすような音は出しません。 ですから例えばヴァイオリンソナタなどでのピアノ伴奏でも、ソリストの後ろでニュアンスある演奏を伴奏者がすれば、特別な感興を起こして再生してくれます。 また、ヴァイオリンが消え入るフレーズを奏すれば、香り高い音色が生じて、安らぎさえおぼえます。

RIMG0542

第三にグレイ型のキャビネットの最大の特長はそのニュートラル性にあります。 言い換えれば実質的なハーモニクス反応型です。 ハーモニクスを多量に含むと、自然に音量が伸びていきますし、音楽そのものにハーモニクスが少ないと音量は小さくなります。 ジャズをこのキャビネットでかけると、クラシックのオーケストラ再生に比べてシステム全体の音圧レヴェルが少し落ちる感じになります。 ジャズはクラシックのような多様で多量なハーモニクス成分を含まないので、自然にそうなってしまうのです。 それをカバーするため、一般にジャズのレコードはカッティングレヴェルを高くして再生映えがするよう制作される傾向があります。 逆に言えば、ジャズレコードはクラシックに比べ、再生に音色やハーモニクスよりダイナミクスを重要な音響成分としてとらえているようです。 グレイ型キャビネットの音を聴いていると、オリジナルキャビネットの本質が理解されます。 オリジナルはどちらかといえば白黒をはっきりつけるタイプであり、判読できない音は判らないとはっきり言います。 それに対してグレイ型は判らない音もそのまま出してしまう。 それもかなり明晰に表出してしまいます。 そのためジャズ再生では、ブラシがスネアを擦る音やサックスの息遣いがはっきりと出てきます。 しかしこれは迫真の明確さというより、透明感を伴って再生されますので、これまでの悪しきハイファイ的な音の形のみ輪郭はっきりと押してくるのとは一線を画しています。 つまり音楽のために音はあるということです。

試聴してみて感じたのは、グレイ型キャビネットが、我国独特の水蒸気たっぷりの空気で如何に再生装置を気持ちよく鳴らせるかを試みているか、ということでした。 つまり『地キャビネット』を目指していたのかもしれません。 RIMG0541オリジナルキャビネットの水準にありながら、それとはまた異なる日本人の耳にも反応する表現方法でレコードを再生できるキャビネットが欲しい、それが可能になったというのがわかり、ほっとしているところでもあります。
いずれにしても、このキャビネット、塗装されたオイルステン(時間をかけて8回塗り重ねしています)が完全に乾燥して落ち着くには時間がかかります。 ここまでの試聴記述は途中経過報告の域を出ていません。 乾けば乾くほど、良い音に鳴ってくれるはずです。
この項おわり
以上T氏


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