2017年01月12日

英 iFi社 retro50 番外編 エレクトリック・ディストーション 15

ブラームスとブリティッシュロック その2

ブリティッシュロックからブリブリと発生するエレクトリックサウンドがブラームスの響きを連想させるのは、電気楽器のエレクトリック・ディストーションもさることながら、ヴォーカルの声質にこそ一層の近似があります。 重く深く、重金属を思わせる響きがありながら、ハスキーで適度な湿り気と暖かさを合わせ持つ、それがブラームスの響きと共通すると思うからです。 ブラームスの楽器のあつかいは、人間の声にある帯域そして歌に満ちています。 ですから彼の作品ではブルックナーやリヒャルト・シュトラウスのように楽器そのものが出せる音をフルに使うことはありません。 そのせいか、ブラームスの音楽は響きがすいぶんとずんぐり聴こえてしまうこともままあります。 彼の音楽に置かれる中心点はヴァイオリンの中音域からコントラバスの上限までが重要な役割を果たしていて、その広くない帯域の内側にぎっしりと音が詰め込まれています。 やや圧縮がかけられて、それが作風の特徴である鬱屈した情感を生成するみなもとになっていると考えます。 こうした音の響かせ方はナチュラル・ディストーションから拡張力を減少させて得られたものです。 ブラームスは拡張を小出しにしています。 彼の作品に好意を抱く方はいかにもブラームスらしいと感じるでしょうが、一方煮え切らないし「もっとはっきり言わんか!」 とイラつく人も出てくるでしょう。 ナチュラル・ディストーションを爆発させずに寸止めする、ここで感じるストレスが強く続くために、ナチュラル・ディストーションであるにもかかわらずエレクトリック・ディストーションのように感じてしまうのです。 ブラームスの音楽を俯瞰すると、シューベルトの交響曲に電気的な圧縮をかけたような感覚を憶えるのは私だけではないはずです。 圧縮がかかった音の響きは、オーディオの観点からみると思わぬ効果が発揮されます。 実際の演奏とレコード再生の音のイメージがあまり変わらないという効果です。 事実ブラームスの音楽はマイクロフォンによく馴染むのです。 これが英雄交響曲になると実演とレコードでは相当音の響きのイメージが異なります。 ホールに広がってゆく音の伸びがどうしてもレコードでは出てこないのです。 曲そのものの構成はレコードのほうがよくわかるのですが。
ブラームスとブリティッシュロックに共通する音の響き、何がその基になっているのでしょうか。 それはヨーロッパ北部の人々に根付いた共通の音感覚と考えられます。 その感覚を音の響きとして実現したのがブラームスでした。 シューマンやメンデルスゾーンにはない音です。 時代がかわり電気の力が音楽に寄与するようになると、ブラームスにしか出せない音がたやすく出せるようになります。 ブリティッシュロックの音の何たるか、こうしてみると見えてくるのではないでしょうか?  つづく
以上T氏


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