2017年05月31日

あの頃の僕たち

オークションにヨハンナ・マルツィのLPを出品しました。 このレコード、グレイで予約販売したのが1997年夏、丁度20年前のことです。 このLPがどんなふうにして制作されたか、グレイリスト#27 に書いてありました。 読んでいるうちに、いろいろな顔が浮かんでくる。 あの頃、グレンとEMIスタッフと、僕たちはこんなことをしてた。

「マスター・テープからラッカーにカッティングする工程がどうしても満足できないんだよ。 現代のオリジナル盤にふさわしい 音質を得るには、いまの復刻盤のやり方では駄目だと思う。 すべてアナログのデヴァイスを通して180gの重量盤にプレスし ても、その再生音を聞いてみると、何故かピンとこない。』『ほかにできることがあるんだね?。』 『ある。 ラッカーにカッティング する溝の深さだよ。 せっかくレコードを厚くしても、溝を深く切ってやらなきゃ!エンジニアに確認したら、50年代前半Heavy Pressingの溝は70ミクロンの深さでカッティングしたんだそうだ。 最近出回っている復刻盤は55ミクロンだよ。 だから、今度は70ミ クロンでカッティングしてみるつもりだよ。』 五月に早目の夏休みを中部イタリアで過ごしたあと、僕は連れ合いとブリュッセル で別れ、ロンドン郊外に住む友人、グレン・アームストロング氏に会いに行った。 近所のフランス料理屋で、計画の最後の詰 めに熱中していると、突然、近くの席で食事をしていた初老の紳士が、つかつかと僕らのテーブルにやってきて握手を求め、 『話の邪魔をして申し訳ない。 私は永年エレクトロニクス畑の仕事に就いていた関係上、おせっかいとは承知するが、是非話 を聞いていただきたい。』と前置きして、現在の進化した家庭用のコンピューターを使用すれば、いとも簡単にマスターテープ とまったく変わらないサンプルを作成することが可能だと、詳細にわたって説明し始めた。 イギリスでは、イタリアと違っ て、こういう場合は相手の話をちゃんと聞き、水を差さないのが礼儀のようで。 彼は占領下のベルリンで軍務に就いていた経 歴まで話し終え、『君たちの話していることは現在の技術からすれば、バカゲテいるとしか思えないんだが。』と締め括った。 オロオロしていた夫人は『うちの主人は、我慢できないんですよ。 どうか、おせっかいに気を悪くなさらないで。』と、とりなす。 しばらくの沈黙の後、アームストロング氏は口を開く。 『僕は、数十年前に活躍した演奏家の残した録音からヴァイナル のレコードを作るつもりです。』 『どうしてCDか、ディジタルテープにしないんだね?』と紳士。 『当時の録音はアナログの方 がいいのです。』『そんなはずはないだろう?』と再び紳士。・・・『差し支えなければ、そのかたの名前を聞かせてくれないか』 『ヴァイオリニスト。 ヨハンナ・マルツィという。』とアームストロング氏はゆっくり答える。 『ハニー、マ・ル・ツ・ィという人を知って るかね』紳士は夫人に振り向く、『あいにく』という表情で彼女は首を横に振る。
あれから数週間後、アームストロング氏からファクシミリが届いていました。 『取り急ぎお知らせまで。 我々の夢がもう少し で実現しそう。 マスタリングがアビィロード・スタジオで完成し、ラッカー盤がヘイズの工場に回されているところ。 先週の金 曜日、私はEMIのヘイズのプレス工場で専門家に会って、四時間ほどの打ち合わせをしてきた。 それは、素晴らしい午 後だった! ついに、私の最初のレコード(Coup 001)のテスト盤が聞けたんだから!カッティングとプレスの出来の良さには 最高に満足している。 テストプレス盤が数組あるので、表裏一組は早々にそちらに送りましょう。 君には音質の良さを感じ てもらえる、と確信している。 ジャケットのアートワークも終わり、月曜にはジャケットもレーベルも出来上がる予定、来月にはヘイズからレコードを運び込んでくる、何よりうれしい。・・・ 』先週、ジャケット写真(スイス在住の娘、ザビーナより贈られ た数百枚の母親の写真から選んだ)とライナーノート、それに自身でデザインしたレーベル、が送られてきました。 Congratulations, Glenn. Finally, you've got it 僕はノッティンガムに電話をかけた。」(グレイ リスト#27 July 1997より)

Coup 001(2000枚限定プレス)のレーベル2種 
P5310296P5310290-531









Coup 001 金文字レーベル・・・・Coup 001 銀文字レーベル
(初回プレス100枚)・・・・・・(レギュラーレーベル)

あの頃、メールではなく、ファクシミリだったんだ。       

ヨハンナ・マルツィ Coup 001






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