2022年09月06日

Good Reproduction 音色

「なんだこの音は、邪悪な音は、」
33.122 ラヴェル ヴァイオリンソナタ/バルトーク ラプソディ1番  H.ザロモン(Vn) J.v.デア・ボーガート(Pf)  1959年初出 ベルギー録音 紺に銀の蘭OMEGAレーベル(オリジナル)  ちょいと出た三角野郎が、ふざけたノリで弾き出すラヴェルのソナタ。太鼓持ちのファンキーな芸に、キラリと光る凄味があって、聞く方としても、笑っていた口を閉じてゴックリとツバを呑む。まったくもって、スゴミはどんどんエスカレート。salomon魔法のヴァイオリンは、周到に磨いておいた音色をリボンにして繰り出して行く。さて、狂喜とタクラミはブルーズ楽章で最高潮に。ポヤン・ポワンと気の抜けたヘンなピツィカートからして不気味なのに、そのポリャン・ポカンに一つとして同じハジキはなく、やおら数奇な快楽を呼ぶ旋律で、呪文を唱えはじめる。ドんどん狂気は進んで、気味悪い唸り声も混じる。うすら笑うヴァイオリニストは、知らずのうちにラヴェルの魔窟に招き入れ、音のリボンはがんじがらめに聴き手の動きを封じる。『悪意の音色』、揺るぎないテクニック、おぞましい旋律の妖しさ、恍惚の快感。音が止んで、しばらく茫然自失。気を取り直して裏面のバルトーク、大地と呑んだくれのくったくのない踊りが迫ります。音色の宝庫。居たんだ、こんなすごいヴァイオリニストが。Herman Salomon,1908年ロッテルダム生まれ、ベルリンでヴォルフスタールとフレッシュにプライヴェートレッスンを受ける。大戦間はベルリン弦楽四重奏団のメンバーとして、1948年からは女流ピアニストのエルジー・ホールとデュオを組んで世界中をめぐる。ストラディヴァリウスを使用、優秀録音。OMEGAレーベルは英DECCAと提携関係にあった会社で、英仏デッカ録音のオランダでの国内販売を主業務としながら、こういう突き抜けたオリジナル録音も制作していたようです。 モノーラルのみで録音  盤ほとんど美品〜美品  ジャケットほとんど美品  NLP #48 ¥85000 (グレイリスト上巻P681より)
澄んだ音に毒が一滴、音の色がばらまかれていく。果たして音色ってどういうものか、ちゃんと「これ」と指し示せるひとはどれ程いるだろうか ?
ここでいう音色とは「おんしょく」ではなく「ねいろ」。見えるようなピアノはスクリーン的で音像は薄く、上手く言えないけれどピアノにしか出せない旨味は出ない。視覚が勝った再生音では一つの打鍵で深みのある音は出ない。RIMG0353影がある倍音が出ないと、綾なすピアノの色の絡みは出ない。経験からいうとHi-FiderityよりGood Reproduction のほうが音色が出やすい。「おんしょく」は楽器固有が持つ音の性格で、「ねいろ」は演奏家それぞれのとっておきの奏法によって醸し出される音の色合い、と、個人的に分けている。音色は単にsound color を訳したもので、「ねいろ」はsonority の感触に近い。音色が出ると音は伸びる。音が伸びれば空気はきれいに励起する。スピーカの二等辺三角形の頂点に頭を設置しなくても、どこにいても、歩き回っていても、横になって本を読みながらでも、音楽は心地よく耳に届く。僕らはスピーカを聴くのではなく、伝わってくる空気の震えを感じるのだから。スピーカを意識している限り、装置があるという緊張感が音楽に浸ることを無意識に妨げることがある。 つづく



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