2023年03月05日
ブラケットって、なに ?
「アイドラ支持ブラケットの可動部は滑らかにかつ精確に動作しなければならない。」ふた昔も前スイスのエンジニアとの会話メモにこんなのが出てきた。
ガラード301は三角プレイト一枚にバネがついたシンプルなブラケット。TD 124 はくの字に開閉する二枚のプレイトから成るブラケット。ダイレクトなダイナミクス、エッヂがきいたカッコよさが前者なら、音色、うるおい、音の伸びは後者。ブラケットの複雑な動きが良質な再生音に関わっているのは確かです。滑らかなのにカチリと動くこのブラケット、触れてみると、いかに贅沢でビューティフルな工業製品かを感じ取れます。
ただレストア依頼で運ばれてくるブラケット、ネチャネチャドロドロ、滑らかに動くどころか油圧式かと思うほどニブイのがほとんど。写真矢印の軸受け部分に差された油が硬化して固まったのが原因。中にはグリースが塗られて動かないものも。ですからここには絶対に注油しないこと!
無理矢理動かすのにバネをもう一巻きしたり曲げたりしたり張力を大きくするその場しのぎばかり。整備するには取り付けシャフトを固定するイモネジを外さなければならない。だけどこのイモネジ、アイドラの高さをコンマ何ミリで決める役目もあるのでずれないよう固く締め込まれている。


ネジを外せないのでニブイ動きのまま放置されているか、外れたとしても適切な工具を使用せずにネジ山をナメてしまったり、バネが曲げられて変形している。これがレストア依頼で運ばれてくるブラケットの実状。音質を決定づける要所のひとつがこうした状態で放って置かれる。ただ中にはスムーズに動くものもあります。可動部軸受けに油が差されていないブラケットです。当時のスイスの金属加工の精巧さはたいしたものです。それでも経年による動作の劣化は否めません。これらのブラケットが丁寧に整備されると音質の向上が明らかに認められます。ひとつの適切な整備でひとつの喜びが聞き手に届きます。
過去の「銚子の散歩道」でT氏が書いたことを引用します。
「前略・・・しかもこれらのことは、リン社のプレイヤーの特長でもある動作的な静けさや、高SN比、音の清澄さ等とは全く別の力で発生します。この音は私にとって、ワイドレンジのラジオの音としか思えないのです。こうした現象は、コニサークラフツマン3の調整作業中にも経験した事があります。それはアイドラーがプーリーとプラッターに対して最小の圧着力で動作している時で、定回転はするが、音楽的な何かが決定的に不足しており、しかも音自体は清澄で美しいのです。アイドラーがプラッターに対して音楽的な再生を行う時に最も必要な圧力を与えていないからです。・・・後略」(以上2011年11月4日 リン社のレコードプレイヤ―より)たしかにアイドラの圧着の強さによる違いはTD 124 でも再生音で聴き取れます。オリジナルのままで保管されていたブラケットを動かして感じるのはMk.1では初期ほどテンションが弱く、後期になるにつれ強く、Mk.2では明らかにテンションが強い。製作時期によりエンジニアたちは他の部品の材質やレコードの特性、カートリッヂ・トーンアームの様式の流れに沿って音楽再生に最適なブラケットバネのテンションを変えていきます。そう、実はブラケットのテンションは音楽に随分と関わっているのです。レストア作業では最適なテンションを試聴により調整しています。
開閉しながらクネクネするムーヴメントはアイドラホイールがメインプラッタの内周を確実にかつ驚くほど滑らかに捉えるため、そしてアイドラが起こす回転振動を吸収しかつシャシに確実に逃がすためにデザインされました。加えて大事な役割があります。アイドラを指定の高さに寸分たがわず移動させ保持すること。二枚の金属坂にバネを絡ませた部品が狂いなく幾千万回もの動作を確実に繰り返すには金属の質と加工精度の高さが要求されます。音の肌触り、「音の伸び」、そして「音色」。これらはオシロスコープや他の検査計器で測ることはできません。TD 124の再生音にある個性にはステッププーリと共にアイドラ支持ブラケットが働いています。このブラケット、贅沢なのです。
リュブリケイションについて。過剰な注油は経年による硬化で動作不良を招くだけではなく、ホコリなどが付着して不純な汚れを形成します。汚れは金属表面を腐食して錆を呼びます。ことさらグリースは深刻な錆に悩まされることが多く。それとTD 124本来の音質のためにモリブデン系統のオイルは避けてほしいのです。より抵抗は少なくなるでしょう、しかし指定オイルにある振動を吸収するという重要なたらきを持ち合わせていません。TD 124は軽く回れば良いという思考で設計されてはいないのです。
リン社のレコードプレイヤー
ガラード301は三角プレイト一枚にバネがついたシンプルなブラケット。TD 124 はくの字に開閉する二枚のプレイトから成るブラケット。ダイレクトなダイナミクス、エッヂがきいたカッコよさが前者なら、音色、うるおい、音の伸びは後者。ブラケットの複雑な動きが良質な再生音に関わっているのは確かです。滑らかなのにカチリと動くこのブラケット、触れてみると、いかに贅沢でビューティフルな工業製品かを感じ取れます。

無理矢理動かすのにバネをもう一巻きしたり曲げたりしたり張力を大きくするその場しのぎばかり。整備するには取り付けシャフトを固定するイモネジを外さなければならない。だけどこのイモネジ、アイドラの高さをコンマ何ミリで決める役目もあるのでずれないよう固く締め込まれている。


ネジを外せないのでニブイ動きのまま放置されているか、外れたとしても適切な工具を使用せずにネジ山をナメてしまったり、バネが曲げられて変形している。これがレストア依頼で運ばれてくるブラケットの実状。音質を決定づける要所のひとつがこうした状態で放って置かれる。ただ中にはスムーズに動くものもあります。可動部軸受けに油が差されていないブラケットです。当時のスイスの金属加工の精巧さはたいしたものです。それでも経年による動作の劣化は否めません。これらのブラケットが丁寧に整備されると音質の向上が明らかに認められます。ひとつの適切な整備でひとつの喜びが聞き手に届きます。
過去の「銚子の散歩道」でT氏が書いたことを引用します。
「前略・・・しかもこれらのことは、リン社のプレイヤーの特長でもある動作的な静けさや、高SN比、音の清澄さ等とは全く別の力で発生します。この音は私にとって、ワイドレンジのラジオの音としか思えないのです。こうした現象は、コニサークラフツマン3の調整作業中にも経験した事があります。それはアイドラーがプーリーとプラッターに対して最小の圧着力で動作している時で、定回転はするが、音楽的な何かが決定的に不足しており、しかも音自体は清澄で美しいのです。アイドラーがプラッターに対して音楽的な再生を行う時に最も必要な圧力を与えていないからです。・・・後略」(以上2011年11月4日 リン社のレコードプレイヤ―より)たしかにアイドラの圧着の強さによる違いはTD 124 でも再生音で聴き取れます。オリジナルのままで保管されていたブラケットを動かして感じるのはMk.1では初期ほどテンションが弱く、後期になるにつれ強く、Mk.2では明らかにテンションが強い。製作時期によりエンジニアたちは他の部品の材質やレコードの特性、カートリッヂ・トーンアームの様式の流れに沿って音楽再生に最適なブラケットバネのテンションを変えていきます。そう、実はブラケットのテンションは音楽に随分と関わっているのです。レストア作業では最適なテンションを試聴により調整しています。
開閉しながらクネクネするムーヴメントはアイドラホイールがメインプラッタの内周を確実にかつ驚くほど滑らかに捉えるため、そしてアイドラが起こす回転振動を吸収しかつシャシに確実に逃がすためにデザインされました。加えて大事な役割があります。アイドラを指定の高さに寸分たがわず移動させ保持すること。二枚の金属坂にバネを絡ませた部品が狂いなく幾千万回もの動作を確実に繰り返すには金属の質と加工精度の高さが要求されます。音の肌触り、「音の伸び」、そして「音色」。これらはオシロスコープや他の検査計器で測ることはできません。TD 124の再生音にある個性にはステッププーリと共にアイドラ支持ブラケットが働いています。このブラケット、贅沢なのです。
リュブリケイションについて。過剰な注油は経年による硬化で動作不良を招くだけではなく、ホコリなどが付着して不純な汚れを形成します。汚れは金属表面を腐食して錆を呼びます。ことさらグリースは深刻な錆に悩まされることが多く。それとTD 124本来の音質のためにモリブデン系統のオイルは避けてほしいのです。より抵抗は少なくなるでしょう、しかし指定オイルにある振動を吸収するという重要なたらきを持ち合わせていません。TD 124は軽く回れば良いという思考で設計されてはいないのです。
リン社のレコードプレイヤー