2020年11月15日
consequently
レコードを売るわけでもなく、作るわけでもなく、本を書くわけでもなく、彼はたまにブリストルの大学でビートルズについての講義を開いていた。大学の入り口にある女性の裸像は彼の創作だと聞いた。抽象すぎて人間の形には見えない塊だった。
晩飯をシェアするたび、薄暗い食堂の照明の下で彫りの深い顔に髭の影が深くなる。日が暮れると外国人は怖いくらいに形相が変わる。彼は早口になり、世の中の不合理を嘆くようになる。”Consequently,"という単語のあとに、語気を強めて語り始める。何か夢を語っているようだ。この単語が出てくるたびに、意味が分からずに、そのあとの話も聞き取りにくくなる。あの単語の意味ってなんだろうと、後を引きづってしまう。「コンセクエントリ」と深々とゆっくり、ひとつ間を開けられると、すごく大切なことを言いたいのだろうと身構える。だけど「コンセクエントリ」に気を取られてしまって訳が分からなくなってしまう。彼と会うたびに、この単語の意味を忘れてしまうのが悔しかった。こんなこと、朝、風呂に入りながら思い出していた。
