2025年03月08日

ネリに謝りたい

こういうヴァイオリンを弾くひとはもういなくなった。昔、チャイコフスキーを聴いた時は「ああ、こんなもんか」で終わってしまったが、今は、まるで違う。聴き手を音楽に没頭させる力をねいろは持っている。ソビエトのヴァイオリニストが捻りだすフルトーンは日本語には無い形容詞に満ちている。鉄錆まみれのメロディヤの音源からヌッと出る音楽には胆力がある。ぐうっと睨みつける。やりようのない怒り、逃避へのあこがれ、農場のひなた、チャイコフスキーのカンツォネッタ楽章は凄みが利いている。以前の「ああ、こんなもんか」はNABで聴いたせい。今あらためてAESカーヴで再生してみると、出る出る、音色が、こんなに。プレイヤの精度の違いもあるけれど、「こんな、もんか」と思ったこと、あやまります。
印象に残る彼女のレコードは8番のソナタ、ベートーヴェンの。これを聴いた時の驚きが23年前のGrey List に書いてある。

RIMG0461

D11063/4 ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ8番/ヴァインベルク ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ  ネリ・シコルニコヴァ(Vn) L.イェドリナ(Pf)  1963年初出  紺に銀のメロディヤレーベル(63) 重量盤  『これは』 と直感した初めてのソビエトのヴァイオリニスト。 天才ヴァイオリニストはウクライナ生まれ、モスクワでヤンキレヴィッチに学び、ロン・ティボー国際コンクールで優勝すると同時にジネット・ヌヴー特別賞を授かる。35歳の録音。明快シンプルで、スリル満点。一瞬にしてあのベートーヴェンをデフォルメしてしまう、美空ひばりみたいに。すべての弓が一気一気の真剣勝負。火を噴くジャンプ、睨みつける陶酔の歌心、お茶目なダンスのステップまで踏んでみせて。どの小節の路地にも宝石を隠し、見事なまでに意表をつく音の変容を見せつける。裏面のヴァインベルクは魔法の弓、シマノフスキーを超える水準までひょいと乗せる。トンガリむすめ、野性馬。聞いても聞いても、こりずにまた聞いてしまう。メロディヤ盤の鉄臭い音質を乗り越えてしまう音の持ち主。彼女は 『ヴァイオリニスト』 です。  盤ほとんど美品〜美品  ジャケットほとんど美品   10インチ ソビエトプレス  Grey List #46 ¥33000

同上 ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ8番/ヴァインベルク ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ  ネリー・シコルニコヴァ(Vn) L.イェドリナ(Pf)  1963年初出  青紫に紺のBSGト音記号レーベル フラット重量盤  盤美品〜ほとんど美品 手書き統一写真ジャケット入り 10インチ  ソビエトプレス Grey List #58 ¥65000

楽器の音色、ことにアコースティック楽器の音色の表現は音楽にとって大切なもの。
それを取り上げて語るのも、もっとあっていい。
音色やみずみずしさは計測器では測れない。
レコードは音色を再生できて、初めて音楽が生きる。
天国のネリ、あらためて 「ごめん」



チャイコフスキー カンツォネッタ楽章 録音1953年




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