May 2008

May 25, 2008

d182e943.jpgふと気が向いて、今までにレパートリーにしたピアノとオーケストラの為の作品をパラパラ弾いていた。

曲ごとに、勉強していた頃の事や共演した指揮者の顔やオーケストラの響きなど色々思い出す。
その記憶が結構鮮明で面白いものです。

ベートーヴェンの一番のピアノコンチェルトは、僕が海外のオーケストラと共演した初めての曲で、特別に思い出深く大好きな作品。

カデンツァを弾いていて思い出された、今でも吹き出しそうになる話がある。

それはあるコンサートの為の指揮者との打ち合わせでの事。

イタリア系の非常に濃い顔のマエストロが隣りに座り、一楽章から確認していく。テンポ設定やトゥッティの合流するタイミングなどなど。

そして、問題のカデンツァがやってきた。
若く野心溢れるベートーヴェンは、一楽章の為に3つのカデンツァを作曲している。
コンサートのサイズや客層やお国柄によって、毎回違うカデンツァを弾くようにしていたのだが、この時僕はエネルギッシュで壮大な、それでいてユーモアに溢れた3つ目のカデンツァを用意していた。

「あのー、結構長いんですけど、省略しますか?」

「いや、キミのミュージックソウルを感じたい。全部弾いてみたまえ!アッローラ、プレーゴ(さあ、どうぞ)!」

「じゃ、弾いちゃいますよ?」

「プレーゴ!」

そんな訳でこの華麗で壮大なカデンツァを弾き始めた僕。

しばらく弾きながら、ふとマエストロの顔を見ると…

あれ?なんか浮かない顔をしているような…?しかもみるみる険しい表情に。

もしかして、超不機嫌(汗)!?
みるみる真っ赤な顔で不快感をあらわにするマエストロ。
おもむろに、片手を上げて演奏をストップしろという。

「な、何か?」

しばらく僕の目をジッと見てから憤りを押し殺すように低い声でマエストロは言ったのだ。

「イズ ディス ユア カデンツァ?トゥーロング!ベーリーベーリーロング!(怒)」

(゜□゜)(汗)「ノ、ノー!イッツ ノット マイ カデンツァ!ベートーヴェン コンポーズド ディス カデンツァ(必死)!」


その瞬間、マエストロは驚きのあまり目をまん丸にして再び僕を凝視してしばらく黙った。
そして、次の瞬間急に笑顔になったと思ったら

「あ、そうなの?それならO.K!モルトベネ!続き弾いてくれる?」

「…ギャボ〜ン<(_ _)>;!!」


かくしてこのマエストロ、本番ではこのカデンツァの途中で何度もオーケストラをスタートさせそうになり、その度に僕は必死に「まだダメ」光線をオーケストラのメンバー達に送りながら弾かなければいけなかったのだった。


(09:44)