記念すべきA night in Tokyo / Ivan Paduart (p)

2006年03月19日

People time / Stan Getz(ts) & Kenny Barron(p)5

92314f27.jpg世の中には名盤と呼ばれ、高い評価を得ている作品が数多く存在している。それらは確かにどれも素晴らしい内容であり、人の心を揺り動かす力を多分に持ち合わせている。そんな幾多ある名盤たちの中でも、この"People time"という作品は、圧倒的な魅力で僕の心を惹きつけた。そして僕はこの一枚を、自分の中での最も特別な存在に選んだ。

作品の中でGetzは、スタンダードを中心にした素材を、本当に自然な形で伸び伸びと歌い上げてゆく。もともと豊かな歌心には定評のあるゲッツだが、この演奏ではその中に於いても別格と言えるほどの、深みと味のあるフレーズを次々と紡ぎ出してゆく。それに寄り添うように安定感のあるバッキング展開しながらも、時にアグレッシブにテナーの音に絡んでいき、多彩な表情を覗かせるBarronのプレイもまた見事。希代の名手2人の間に流れる、限りなく親密で温かな空気が生み出した、奇跡の名演と言えるだろう。

Getzという男はその素晴らしい演奏内容とは裏腹に、金や名誉、体裁にこだわる人物だったと言われている。彼の人生の中には幾つかの栄光の時代があり、それと同じくらいの数の、手痛い挫折があった。そんな経験を経た為なのかどうかは定かではないが、晩年のGetzの音楽は明らかに変わった。それまで表に出てくることが無かった感情や心といった側面が演奏の中にじわじわと滲み出てくるようになった。彼の晩年の変化が最高の形で結実したのが、本作であると言えるだろう。長く複雑な人生を歩んできたGetzが最後に見せた輝きの中には、言葉では言い表せない本当にいろいろなものが詰まっている。死を目前にして彼が最後に手にしたものは、金や名誉を伴うことの無い、「純粋に音楽を楽しむ喜び」だったのであろう。

このアルバムが特別な存在感を持ち、僕らを惹き付けてやまない理由。それは彼らの演奏が、一番大切なのに忘れ去られてしまいがちな「音楽の根源的な喜び」を僕らに感じさせてくれるからではないだろうか。

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この記事へのコメント

1. Posted by すずっく   2006年03月24日 17:47
5 記念の百枚目を、素敵なアルバムレビューで飾りましたね。
なおきさんのレビュー今後もすごく楽しみにしてます。
素敵な感性で、新旧いろんなアルバム紹介してください。
2. Posted by いぶくろ   2006年03月25日 21:41
 アルバムを100枚紹介されたとのことで、おめでとうございます。
 私も見習って頑張ります。
 今後ともよろしくお願いします。
3. Posted by なおき   2006年03月26日 10:32
>すずっくさん

いつもご訪問ありがとうございます。
J@H時代は一番最初をこのアルバムにしたのです。で、今回は節目まで取っておこうと思って。
今後も気長に落ち気合下さいマセm(__)m

>いぶくろさん

ようやく100枚まできましたが、レビューしたいアルバムはまだまだ山のようにあるのです(笑)
文章を書くのが追いつかなくて。。。
今後とも宜しくお願いします。

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